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一章
《幕間》狂い始めるトキの針
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──こんなことがあったわけだ。
よく考えても、考えなくても、俺が悪かった。そりゃ、妹も怒るだろう。
それをデザート一つでチャラにしようだなんて、虫が良すぎるにもほどがある。
だから、今日の遊園地でのことが失敗だったんだ。
強いて、具体的に選択を挙げるとしたら、アルバイトを代わってあげたことだろう。
きっと、数日は後悔するんだろうな。
「そうだ、お兄ちゃん」
「……えっ、なに?」
唐突な呼びかけに、反応がワンテンポ遅れる。
「なに考えてたのか知らないけど、まだ私がいるのに他のこと考えてたわけ? 最低。それで、アルバイト、どこでしてるの?」
「いや、そうじゃなくて……。あー、やっぱなんでもない。バイトは、その、さすがに来れられたら恥ずい」
「いや、わざわざキモいお兄ちゃんがバイトしてるところに行きたくないから聞いてるだけなんだけど。まあ、いいや」
彩華は、どこか不機嫌ではありながらも、一応わかってはくれているらしかった。
それから少しして、彩華とは別れ、俺は駅に向かっていた。
進む足とは裏腹に、後ろ向きな気持ちがふつふつとこみ上げてくる。
だってあのとき、俺は嘘をついたのだから。
これから俺が向かうのはアルバイト先なんかじゃない。
だって、まだアルバイトの面接すら受けてないのだから。
俺がこれから向かうのは、仕事場だ。
俺は今、とある出版社の会議室に来ていた。
もちろん、滅多なことがなければ、こんなところまで来たりしない。
というか、東京となると、少し遠いため、おいそれと行きたい場所じゃない。
だから、どうしようもない理由があって呼ばれたときは、行くことにしている。
そして、俺がこんな場所に来ている一番の理由。
それは、俺がイラストレーターだからだ。
もちろん、売れっ子イラストレーターというわけではなく、売れ始めっ子イラストレーターといったところだ。
つまりは、まだまだひよっ子。
基本的な仕事はネットでやり取りをしている。
まあ、ときどきどうでもいいようなことで呼び出されるようなこともあるが、そういうときはこちらが指定した場所だ。
と、会議室にある椅子に適当に腰掛けていると、呼び出した張本人のご登場。
「思ってたよりも早かったじゃないか」
彼女の名前は、黒沢くるみ。
名前と顔が可愛いことが特徴の、性格最悪の女だ。
なんと言っても、意地が悪い。
呼び出しておきながら、こちらが指定した場所に来ないなんてことはザラにある。
それでも、いざという時は人一倍頼りになる。
だからこそ、彼女のことは憎み切れない。
この人に救われたのだって、一度や二度じゃなかった。
俺が今、こうしてイラストレーターとしてやっていけてるのは、この人のおかげと言っても過言じゃない。
なにより、初めて俺にイラストレーターの仕事を寄越したのが彼女なのだから。
そんな彼女が出版社まで俺を呼び出した理由。
それは、
「ちょうど、これから君がイラストを担当することになる作品の著者、紅音先生が来たところだ。で、この人がその紅音先生。可愛いくて驚くなよー」
作家さんとの初顔合わせだからだ。
そして、黒沢さんがそう言うと一人の少女が現れる。
「お初にお目にかかります。『ナイトメア・ブラッド』を書かせて頂いております、紅音鈴と申します」
清楚で可愛いらしい、一見しただけでは小学生なのではないか、と思ってしまうような背丈の子は、それはもう可憐にお辞儀する。
けど、すぐにこいつが誰なのか理解した。
休日なのにもかかわらず制服姿の彼女は言わずもがな、あの赤里だ。
珍妙な食べ物であっても物怖じ一つすることなく食べるという、あの赤里だ。間違いない。
そんな彼女も俺のことに気づいたのか、「あっ……!」と声をもらしていた。
「なんだ? もしかして、知り合いか? それは都合がいいな。交流会をする手間が省ける。それじゃ、仕事の話といこうか」
この場の空気を何ひとつ読むことのない、いやわかってない黒沢さんはそう言った。
よく考えても、考えなくても、俺が悪かった。そりゃ、妹も怒るだろう。
それをデザート一つでチャラにしようだなんて、虫が良すぎるにもほどがある。
だから、今日の遊園地でのことが失敗だったんだ。
強いて、具体的に選択を挙げるとしたら、アルバイトを代わってあげたことだろう。
きっと、数日は後悔するんだろうな。
「そうだ、お兄ちゃん」
「……えっ、なに?」
唐突な呼びかけに、反応がワンテンポ遅れる。
「なに考えてたのか知らないけど、まだ私がいるのに他のこと考えてたわけ? 最低。それで、アルバイト、どこでしてるの?」
「いや、そうじゃなくて……。あー、やっぱなんでもない。バイトは、その、さすがに来れられたら恥ずい」
「いや、わざわざキモいお兄ちゃんがバイトしてるところに行きたくないから聞いてるだけなんだけど。まあ、いいや」
彩華は、どこか不機嫌ではありながらも、一応わかってはくれているらしかった。
それから少しして、彩華とは別れ、俺は駅に向かっていた。
進む足とは裏腹に、後ろ向きな気持ちがふつふつとこみ上げてくる。
だってあのとき、俺は嘘をついたのだから。
これから俺が向かうのはアルバイト先なんかじゃない。
だって、まだアルバイトの面接すら受けてないのだから。
俺がこれから向かうのは、仕事場だ。
俺は今、とある出版社の会議室に来ていた。
もちろん、滅多なことがなければ、こんなところまで来たりしない。
というか、東京となると、少し遠いため、おいそれと行きたい場所じゃない。
だから、どうしようもない理由があって呼ばれたときは、行くことにしている。
そして、俺がこんな場所に来ている一番の理由。
それは、俺がイラストレーターだからだ。
もちろん、売れっ子イラストレーターというわけではなく、売れ始めっ子イラストレーターといったところだ。
つまりは、まだまだひよっ子。
基本的な仕事はネットでやり取りをしている。
まあ、ときどきどうでもいいようなことで呼び出されるようなこともあるが、そういうときはこちらが指定した場所だ。
と、会議室にある椅子に適当に腰掛けていると、呼び出した張本人のご登場。
「思ってたよりも早かったじゃないか」
彼女の名前は、黒沢くるみ。
名前と顔が可愛いことが特徴の、性格最悪の女だ。
なんと言っても、意地が悪い。
呼び出しておきながら、こちらが指定した場所に来ないなんてことはザラにある。
それでも、いざという時は人一倍頼りになる。
だからこそ、彼女のことは憎み切れない。
この人に救われたのだって、一度や二度じゃなかった。
俺が今、こうしてイラストレーターとしてやっていけてるのは、この人のおかげと言っても過言じゃない。
なにより、初めて俺にイラストレーターの仕事を寄越したのが彼女なのだから。
そんな彼女が出版社まで俺を呼び出した理由。
それは、
「ちょうど、これから君がイラストを担当することになる作品の著者、紅音先生が来たところだ。で、この人がその紅音先生。可愛いくて驚くなよー」
作家さんとの初顔合わせだからだ。
そして、黒沢さんがそう言うと一人の少女が現れる。
「お初にお目にかかります。『ナイトメア・ブラッド』を書かせて頂いております、紅音鈴と申します」
清楚で可愛いらしい、一見しただけでは小学生なのではないか、と思ってしまうような背丈の子は、それはもう可憐にお辞儀する。
けど、すぐにこいつが誰なのか理解した。
休日なのにもかかわらず制服姿の彼女は言わずもがな、あの赤里だ。
珍妙な食べ物であっても物怖じ一つすることなく食べるという、あの赤里だ。間違いない。
そんな彼女も俺のことに気づいたのか、「あっ……!」と声をもらしていた。
「なんだ? もしかして、知り合いか? それは都合がいいな。交流会をする手間が省ける。それじゃ、仕事の話といこうか」
この場の空気を何ひとつ読むことのない、いやわかってない黒沢さんはそう言った。
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