異世界に転移してサンドウィッチ屋を開いたら、騎士様の胃袋を掴んでしまった様です。

有永

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第11話 甘い、ワナ

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セイルの転移魔法には使用制限があり、足を運んだ事がある場所にしか跳ぶ事が出来ない。

異世界転移の際に、最初に神によって転移された場所が、ゼニスが住む領地マシェリル領。
そこから西に、以前セイルが早朝にジャッケを購入した、海に面していて漁港市場が栄えているエルステイン領。
そこからふたつ領地を越えて、リッチの魔石を売ったアライラル領。
そして現在、セイルやアッシュが住む、ラルクが国王領主として治めるエリトロ王領である。
他にも領地があるが、これら全ての領地が、ラルクが統括するクラミス王国である。


「齧ると酸味が際立つ味わいの、鮮やかな緑色の木の実、ですか?」

ある日の昼過ぎ、セイルは行商人である常連客の男性から、以前立ち寄った国内領地で珍しい木の実を食べた事が有ると声を掛けられた。

「ええ。プリュームといいまして。その地方では塩漬けにしたりアルコールに漬けたりして食すとか。私は黄色くなった完熟した物を齧っただけですが、酸味が強くて、甘味も感じましたね。独特の風味なのであまり流通には乗らず、その領地や周辺村の特有の物らしいです」

セイルの目が光る。

梅だ…!

「プシュケさん、その領地は何処ですか?」

逸る心を必死で抑え、場所を聞き出そうとする。

「エリトロから東にふたつ離れた領地、カミールです」

「カミール、ですか…」

セイルは知らないし行った事が無いので転移が出来ない。海を挟んだ遠い東の大陸の名産で、こちらの大陸では知名度の低い米や大豆と違って中途半端に近い。魔法生成したのち、もし違っていて後で何か合っても困る…。

店を臨時休業して、久しぶりに旅をするか、とセイルは心の中で浮足立った。



「…というわけで、明後日から5日程店を休業します」

満面の笑みで、レティスと、遅い昼食に来ていたアッシュとペリエにセイルは話をした。店の入口には既にその告知が貼られている。
今は客足が途絶えていたので、セイルとレティスもアッシュとペリエの隣に座って休憩をとっていた。 

「……お一人でカミールに行かれるのですか?」

アッシュが心配そうに眉を下げる。

「ええ、護衛付きの乗り合い馬車も出てますし」

セイルは3人を手招いて小声で話した。

「帰りは転移魔法で帰って来れますからね」

その言葉に瞠目する3人であった。もうアッシュ達には隠す事を止めたらしい。

「カミールまでは乗り合い馬車を乗り換えて2日掛かるそうです。だから5日なのはカモフラージュですね。カミールには他に用事も無いので1日滞在して、その後はマシェリルに住む知人の家に泊まる予定です」

「マシェリル…、真反対じゃないですか?」

レティスが首を傾げた。セイルが転移魔法の説明をすると、

「ここに来る前はマシェリルに住んでいたんだよ、俺」

「えっ、そうなんですか?」

ペリエが目を見開いた。

「ええ。その知人も君たちと同じで、俺の事情を知ってるんですよ」

セイルはいつも以上にウキウキしている。プリュームを知らない3人はやや困惑気味に顔を見合わせたのだった。

「知人、ですか。どういった関係で?」

アッシュは無意識に尋ねていた。セイルは一呼吸おくと、妖艶な笑みを浮かべた。

「さあ?、どういった関係でしょうね?」 

カラカラカラと店の引き戸が開く。

「あ、いらっしゃいませー」

セイルとレティスが立ち上がり、業務に戻った。

セイルが去った後の椅子を見つめながら、アッシュは自分の心に巣食った黒い感情の正体に、改めて気づかされるのだった。セイルの過去を知る男、そしてその男との関係。その不確かさが、アッシュの独占欲を更に掻き立てた。

「アッシュ、お前今怖い顔してる」

ペリエの言葉に、アッシュは何も返事を返さなかった。




「えーっと、アッシュ、なんでここに居るの?」

カミールに行く日の朝、セイルが乗り合い馬車の停留所に行くと、普段着に軽装備で腰に剣、背中と肩に荷物を背負ったローブ姿のアッシュが居た。

「…俺も行きます」

「えっ?」

「有給を取って来ました。総団長や陛下にも了承は取ってます。有給ついでに、懇意の店の店長殿の、旅の護衛として行ってこいと」

…完璧な建前。しかし、セイルはアッシュの黒い瞳の奥に、彼の真の目的――セイルを一人にしたくないという強い意志と独占欲を読み取った。

セイルは内心で微笑んだ。拒否することもできたが、アッシュの真面目な顔の奥にある衝動的な行動に、彼の淫乱な心が静かに熱を帯びるのを感じた。

「……じゃあ、よろしくお願いするね、アッシュ。頼もしい護衛ができて、安心したよ」

セイルが目を細めて微笑むと、アッシュの強張っていた顔が、わずかに緩んだ。それは、自分の欲望が受け入れられたことへの、安堵の色だった。

セイルはアッシュに近寄ると、そのすらりとした体躯を擦り寄せ、そっと耳に唇を寄せる。ふわりと香る甘い香り、オードトワレの香りが、アッシュの理性を解いていく。

「俺はアッシュが思ってる程綺麗な男じゃないよ。ふたりきりだし。…護衛だけじゃ、つまらないな」

その声は、アッシュにしか聞こえない程の掠れた小さな声で、甘く熱を帯びていた。アッシュの強靭な体躯が、一瞬震えた。

乗り合いの馬車が遠くから音を立てて近づいて来る。
セイルはアッシュから離れると、微笑んで片手をアッシュに伸ばした。

「行こうか、アッシュ」




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