曲者が、曲者の常識で曲者と人を裁く非常識な少女の物語である 題名変えました

さや

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1章 アンジェラス1は転生する

31話 軍部へ入る予定

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ーーー面倒な事になる前に、立ち去るに限る。

そう、立ち去ったのだ。私はムカデの魔物を倒した後、迅速に。
 
誰の目にもつかない速度で屋根を駆け抜け、桜舞楼閣へ帰ったのだ。

だというのに、今目の前にいる老人は巫山戯た事を宣う。

「ムカデの魔物を倒したのは、お嬢さんじゃろう?」

優しい笑顔で、とんでもないことを言い出す常連客の老人。
わざわざ仕事が終わるまで待ち伏せして、笑顔で話しかけてくるのだ。

「知りませんよ。」

「是非とも軍部に入らないかの?」

「知りません。」

そう言って横を通り過ぎても、特に老人が追って来る事はない。
ただ、次の日になると執念深く接客中にも関わらず一言誘って来るぐらいだ。

今となっては、分かりきっている問答を毎回繰り返しているだけだが、何となく嫌な予感がしてならない。

「あの老人、そろそろ対処しないとね……」

『殺スノカ?』

「そんなことしないよ。」

どんなに執念深い老人が相手でも常連である以上、懇切丁寧に対応しなきゃいけない。

「でも、ちょっと話をする必要はありそうだね。」

『ヤリ過ギルナヨ。』

「もちろんだよ。」

次の日、仕事が終わるといつもの様に裏口で待ち伏せをしていた老人を無視せず、フェンリルを頭に乗せたまま私の方から話を振る。

「お爺さん、今日はなんの御用ですか?」

「おや、やっと話してくれる気になったのかい?」

「ストーカー紛いなことをされるのは、気分が良くありません。」

ニコニコと笑っている老人は、場所を変えたい様で、近くにあった個室付きの飲食店へと足を運んだ。

「ワシが金は払うから好きなものを頼んでいいぞい。」

「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます。」

唐揚げ定食と、カレーを頼む。
因みにカレーは、フェンリルの分だ。

「決めたかの?」

「はい。」

老人に注文してもらい、やっと本題へと入ることが出来る。

「まず、自己紹介からしよう。ワシの名はフェリックス・アーデルハイト。この国の大将軍をしている。」

「皇帝の次に偉い人ってことですか?」

「軍部においては、そうなるのかの。」

「そうですか……でも、何故そんな人が私になんの御用ですか?」

「先日のムカデの魔物は、ワシらでも数人係でやっと倒せる魔物じゃ。」

全て言わずとも分かるだろう?と、目で訴えかけて来る老人に、一つの疑問を投げかける。

「仮に私があの場にいたとして、どうして私だと思うんですか?」

「コレが落ちていての。」

そう、机の上に煮出された物は酒場の店主から、賄いで貰ったクッキーの一部だった。

「たまたま貰っているところを見かけての。お嬢さんではないかと思ったのじゃ。」

「言い逃れを許してはくれませんよね。」

「もちろんじゃ。」

老人は、本人かどうかを聞きたいわけではないのだろう。
本題は、その先の事だ。

「私に、軍人になって欲しいんですか。」

「良ければなって欲しいと思うの。」

「別にならないなら、それはそれで良い様な言い方ですね。」

「最悪強硬手段を使うつもりじゃ。」

「強硬手段?」

「そうじゃ。お嬢さんの事なら殆ど把握しておるからの。桜舞楼閣に住んでいることから、隣にいるフェンリルのことまで。」

「『!?』」

驚きを隠せず、反射的にキューブを取り出す。

「じゃが、脅すつもりはない。」

「……フェンリルの事をなんで知ってるんです?」

「言ったじゃろう?なんでも知っていると。」

「軍部に入らせるためなら手段は厭わないと?」

「そうなつもりはないが……まぁ、お嬢さんならきっと乗ってくれるはずじゃ。」

「言っておきますけど、店主を脅すとか桜舞楼閣脅したりしたら殺しますから。」

そう脅しても特に動揺した様子もなく、終始笑っているだけの老人に、そろそろ苛立ちの限界が来た頃だ。

「ーー失礼します。」

注文していた物が、丁度良いタイミングで届けられた。

「コレ、食べたら軍部に入れとか言いませんよね?」

「相変わらず警戒心が強いのぉ。」

「ストーカーに言われたくないです。」

そうは言いつつも、素直に食べる。
丁度、仕事帰りで腹が減っていて中々に美味しく食べられる。

「高級料理……?」

「此処は、隠れた高級料理店じゃ。しかも、軍部の上級武官しか入れぬ。」

そこで初めて、老人の優しそうな笑顔が崩れ、ニヤリと何かを企む様な笑みに変わった。

「……性格悪いですね。」

「元諜報員での。」

フェンリルは、横でカレーを夢中で食い漁っている。
かくいう私も、食べる手が止まらないのだが。

「お嬢さん達は、特に目指したいものも無く力を持て余しているのじゃろう?じゃから、食べる事でその暇を発散しようとしている、違うかの?」

「否定はしないです。」

「したくない事はしなくても構わんのじゃ。人殺しが嫌じゃというのであれば、魔物退治だけでも良い。最低限働いてくれれば、それだけで良いのじゃ。じゃから、働いてはくれぬか?」

中々の好条件だと思う。
今のところ、この老人ことフェリックスが言う様に私は退屈している。
そして、その退屈を買い物や食べ物で埋めている。仕事もその一つだ。

「給料はどのくらいです?」

「邸二つは建てれるくらいじゃの。」

「分かりました。そんなにお金がもらえるなら、やります。」

高額な金は、持っていて損はない。

「ですが、四つ条件があります。」

「出来る範囲で叶えよう。」

「まず、敬語を使わなくても怒らないこと。」

「構わんぞ。」

「二つ目は、フェンリルのことを口外しないこと。」

「もちろんじゃ。」

「三つ目は、部屋に引きこもっても文句言わない事。」

「任務にさえ参加してくれるのであれば、構わん。」

「そして四つ目。戦争には参加しない事。」

以前フェンリルに言ったが、私は人間が嫌いだ。そして、人間に似た獣人も。
戦争という一番生物の醜い部分が見える場所に自ら足を運びたくはない。

「それで軍部に入ってくれるのであれば、何でも良いのじゃ。」

「なら、雇われてあげます。」

丁度食べ終わり、お腹を膨らませているフェンリルを頭に乗せて、フェリックスが会計を終える。

「明日、軍部の寮へ取り敢えず移る予定での。夕方迄に桜舞楼閣の前で荷物をまとめて置いてほしいのじゃ。」

「分かりました。」

「ほっほっほ、良い返事をもらえて嬉しいぞい。あと、敬語をせっかくだから外したらどうじゃ。また、明日の。」

「うん、また明日。」

手を振り去っていくフェリックスに振り返し、私も帰路へ着いた。







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