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28.飼い主、僕達は似た者同士

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 怪我を治し終えると、ケルベロスゥはピクピクとしていた。

 治ってないのかと思ったが、おててさんが親指を立てていたから、問題はなさそうだね。

「だいじょーぶ?」

 僕が声をかけるとピクッと震えが止まった。

『ああ、俺様は強いからな』
『兄さんが一番ビビっていたけどね』
『なっ!?』

 ケルはベロに唸っていた。

 兄弟喧嘩はあんまり良くないよ?

『なんか……私癖になっちゃったかも』
『はぁん!?』
『へっ?』

 一方、スゥはとろけるような顔をしていた。

 ひょっとしたら感覚が違うのかな?

「これからもケガをしたらなおしてあげるね?」

『嫌だ!』
『うん……』
『やったー!』

 三匹とも反応も違っていた。

 一番は怪我をしないことが大事だからね。

――グゥー!

「へへへ、おなかへったね」

 そういえばずっと食事を食べていなかった。

 昨日も食べる前に倒れちゃったし、気づいた頃にはもう朝になっていた。

 マービンはご飯のために呼びにきたのだろうか。

 あっ、シュバルツは大丈夫かな?

 昨日おててさんのお願いごとをしたところまでしか覚えていないや。

 僕が急いで扉を開けると、マービンはいなくなっていた。

 どこかに行ったのかな?

 一階に降りて急いで外に出ていく。

「君、どこに行くの?」

 途中で恰幅の良い女性に話しかけられたが、馬小屋まで走っていく。

 そこにはマービンと草を食べているシュバルツがいた。

「マービンさん!」

『ヒヒーン!』

 マービンが気づく前にシュバルツが僕に気づいて挨拶をしてくれた。

 傷ついた体も元気になったようだね。

 でも前よりすこし大きくなっているような気がする。

 シュバルツの毛もどこかツンツンとして立派になっている。

「おっ……俺の治療はいらないぞ?」

 ん?

 さっき治療はいらないって聞いたばかりだけど……。

「あっ、シュバルツをみにきました」

「ああ、そっちか」

 マービンも僕のグチャグチャペッタンが嫌いなのかな?

 ひっそりと地面から出ているおててさんとおででさんはどこか寂しそうに手首が曲がっていた。

「げんきでよかった!」

 シュバルツを撫でると嬉しそうに鼻をスリスリしてきた。

「俺以外に懐くのも珍しいな」

「そうなの?」

「シュバルツは乗り合い馬車をやる前からの相棒だからな。そもそも俺は乗り合い馬車なんて――」

 シュバルツは怒っているのか、マービンの髪の毛を食べていた。

 マービンの髪の毛は美味しいのかな?

 お腹が減っている僕でも、さすがに髪の毛は食べようと思わないね。

 マービンとシュバルツを見ていると、本当に仲良しに見える。

 僕もケルベロスゥやおててさん達と仲良しになれるといいな。

『俺達を置いてくなよー!』
『ココロオオオォォォ!』
『お留守番は嫌だ……』

 声がする方を見ると、ケルベロスゥは泣いて走ってきた。

 部屋でぐったりとしていたし、シュバルツの様子を見にきただけだ。

 それなのにケルベロスゥは置いていかれたと思ったのだろう。

 ケルベロスゥはそのまま僕に飛び掛かるように抱きついてきた。

 顔にスリスリとしたら、僕のにおいを嗅いできた。

『ん? このにおいは……』
『シュバルツのにおいがココロからする!』
『浮気よ! 私がいるっていうのに浮気するのね!』

 さっきシュバルツを撫でた時ににおいがついたのだろう。

 それにしても浮気ってなんだろう。

 スゥは僕よりもたくさんのことを知っているね。

『マーキングだあああああ!』

 ケルベロスゥは何を思ったのか、さらにスリスリとしてきた。

「ははは、くすぐったいよ」

 もふもふして気持ち良いけど、鼻の中に毛が入るとくすぐったいね。

「ココロも元気になったことだし、ご飯でも食べに行こうか」

「ごはん!?」
『肉!?』
『ご飯!?』
『イケメン!?』

 やっぱりスゥの言っていることはわからないね。

 僕達は揃ってマービンを見つめる。

「やっぱりお前達似ているな」

 お腹が空いた僕達はマービンと共に宿屋に戻った。

 その足取りは倒れていたのを忘れてウキウキとしていた。


 宿屋の一階にある食事処で僕達は料理が来るのを待っていた。

「ごはん! ごはん!」
『おにく! おにく!』

 僕達は椅子に座って横揺れしながら、ご飯が来るのを待っている。

「ワンちゃんはお肉って食べられるかな?」

「だいじょうぶだよね?」

『ワン!』

 確認するってことは魔獣は普通のお肉が食べられないのかな?

 この間は野ネズミを食べていたから問題ないと思う。

「そうなのね。魔獣って魔力があるものを好んで食べるって聞くからね」

「そうなの?」

『んー、僕達はそんなことないけどね?』
『それよりも早く肉をくれー!』
『イケメンはいないのね……』

 本当に三匹とも性格が違うね。

 宿屋の女性の話だと、魔獣が人間を襲うのは魔力を持ったお肉に見えるらしいと教えてくれた。

 僕がお肉に見えるかケルベロスゥに聞いたら、〝ココロはココロ〟って言われた。

 ケルベロスゥは他の魔獣とは違うのかな?

 しばらく食事が出るのを待っていると、香ばしい匂いとお肉が焼ける音が聞こえてきた。

 僕もお腹が空き過ぎてよだれが出そうだ。

 チラッと隣を見ると、三匹のよだれで小さな池ができていた。

 やっぱり僕達は似たもの同士だね。
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