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44.騎士、守れないもの ※マービン視点

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 仕事に戻ると周囲の異変に気づく。

 賑やかな町なのに声があまり聞こえてこない。

 さっきまであんなに賑やかだったのに……。

「いやあああああ!」

 遠くの方で女性の叫び声が聞こえてきた。

 すぐにシュバルツを走らせる。

 俺の住んでる家は平民街から少し離れていた。

 シュバルツの足の速さでも少し時間がかかるだろう。

 その間に第二騎士団の仲間達が到着していれば良いが、あいつらは町の中を警備するのは嫌いだからな。

 所詮、貴族の跡取りにもなれないやつは、中身も腐っている。

 さっきまでいた平民街に戻ると、町の中が荒らされていた。

 冒険者達が必死に守りながら、魔物を遠ざけているようだ。

 ただ、倒すだけの実力がないのか、まだ一体すら死んでいる魔物がいない。

「くそ、ワイバーンかよ!」

 俺はシュバルツに跨りながら、魔物を斬っていく。

 大きな羽が生えたトカゲと鳥が混ざったような見た目をした獰猛な魔物。

 それが一般的にワイバーンと呼ばれる魔物の姿だ。

 王都の中に入ってきたのも、空から飛んできたのだろう。

 門を守っている第二騎士団は何をやっているんだ。

 魔物が近づいてきたら、すぐに知らせるのが仕事だろ。

「すぐに建物の中に入るんだ!」

 ワイバーンは脚で人を掴むか、噛み付くしかできないため、建物の中に入ってしまえば問題ない。

 あとは俺達がどうにかして倒せば、すぐに解決するだろう。

「どんどんワイバーンが来るぞー!」

 ただ、ワイバーンは数体だけではなかった。

 次々と空中から降りきては、人を足で捕まえようとする。

「フンッ!」

 そんなワイバーンの足を剣で切り落としていく。

――グワアアアアア!

 痛みで悶えている間に、剣で追撃をすれば若手の冒険者や見習い冒険者でもどうにか対応できるだろう。

 それにしても第二騎士団はいつになったら来るんだ!

 俺は一人で黙々とワイバーンを斬りつけていく。

 シュバルツがいるから、多少の移動も可能だ。

「おい、あっちってお前の家の方じゃないか?」

 そんな中、ワイバーンが家の方に向かって飛んでいく姿が見えた。

 ただ、まだ町の中のワイバーンも倒しきれていない。

 妻も妊娠しているため、動けないから家の中にいるはずだ。

 大丈夫か気になるが今は平民を守るのが先だ。

 その後もワイバーンを倒していくと、遅れて第二騎士団がやってきた。

「お前ら遅いぞ!」

「平民風情に文句を言われたくないな」

 ほとんどのワイバーンを倒し終えてから来たくせに、どいつもこいつもクズばかりで反吐が出る。

「お前らなんていらねーぞ!」

「何が民を守る第二騎士団だ!」

 町の人達は後から来た第二騎士団を睨みつける。

 本当にこいつらって信用がないんだな。

 さすがに貴族出身の人が多いため、不敬罪になる恐れもある。

「ここは俺の顔立ててくれ」

 そう伝えると文句はいくつか減る。

 ただ、平民達の目から伝わってくる感情が怒っていた。

 あとは冒険者に任せて俺は急いで、家に戻っていく。

 どうにも胸騒ぎが止まらないからな。


 あと少しで家が見えるところで突然シュバルツが速度を上げた。

「おい、どうしたんだ!?」

『ヒィーン!』

 どこか叫び声にも聞こえるシュバルツの声で、俺は状況を理解した。

 家の屋根が破壊されていた。

 そしてそこには動けないワイバーンの姿があった。

 そのまま建物に当たって、屋根が破壊されたのだろう。

「くそトカゲ野郎が!」
 
 俺は剣を取り出してワイバーンにトドメを指す。

 家が壊れないようにゆっくりと扉を開けて、家の中に入る。

「ただい……えっ……」

――カラン

 あまりの衝撃的な光景に俺は持っている剣を落としてしまった。

 俺の妻が……。

 俺の息子が……。

「何やってるんだああああああ!」

 剣を再び握った俺はワイバーンに斬りつける。

 何度も何度も剣を振る。

「アリサとコーナーをかえせええええ!」

 ワイバーンは一体だけではなかった。

 家の中にもワイバーンが侵入していた。

 ワイバーンの体の下には木剣を持った息子の腕が見える。

 俺は息子の腕を引っ張るが中々出てこない。

――グワアアアアア!

 ワイバーンの咆哮と共に右腕に痛みが走った。

 それでも今は妻と息子を助ける方が大事だ。

 俺はワイバーンの瞳に剣を刺すと、痛みのあまりそのままどこかに飛んで行った。

「おい、アリサ! コーナー!」

 ワイバーンがいたところには、妻と息子の姿が見えた。

 必死に息子を守っているのか、妻は息子の上に被さった状態だ。

「おい! 帰ってきた……ぞ……」

 俺はそんな二人を揺さぶるが全く反応がない。

 息子を守ろうとした妻の手と、必死に妻を守ろうとした木剣を持った息子の手がダラリとしていた。

 すでに息もしていなかった。

 お互いに守り合っていたのだろう。

 もう少し俺が早く帰ってきていたら……。

 俺が第二騎士団所属じゃなければ……。

「うわああああああ!」

 俺の悲痛な叫び声は妻と息子に届くことはなかった。

 この日の出来事がきっかけで、俺は平民達から英雄として呼ばれた。

 ただ、一番大事な人を守ることができず、剣も持てない俺は騎士を辞職した。
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