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第一区画

7.物語の始まり

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 俺はさっきまでの出来事を鮮明に覚えてる夢だと思っていた。気づいたら庭に立っていたし、外の光景も何一つ変わっていなかった。

 しかし、実際は体の痛みと鏡に映った姿が現実だと物語っている。

「とりあえず風呂にでも……ってか今何時だ!」

 向こうに行っていた時間はおよそ3時間程度だ。しかし、体感としてはもっと長い時間あの場にいた気がした。

 急いで家の中に入りテレビをつける。俺の睡眠時間が削られるから時間の確認は大事だ。

「あれ? 時間が経ってない?」

 時間は隣のおばさんからおかずをもらって、庭に出た数分しか経っていなかった。日にちが変わったのか確認するが、スマホをいくら見ても日にちは同じで時間もテレビと変わらない。

「やっぱ夢なのか……?」

 さらに俺の頭を混乱させる。夢なのか現実なのか全くわからない。

 とりあえず体についた血を落とすために浴室に行き、シャワーを浴びることにした。

 仕事の休みぐらい頭を使わずにゆっくり休むつもりだったのが、こんな目に遭うとは思いもしなかった。

 今頃爆睡していた予定が全く変わってしまった。

 浴室に着いた俺は、お湯を出すために蛇口を捻る。

「痛っ!?」

 シャワーで血を流すと、ゴブリンとの接戦でできた傷が痛む。俺だけが違う時間軸の世界に行っていたかもしれないと思うしかなかった。

 シャワーを浴び終え俺は再び玄関に戻った。扉を開けて庭に向かうと穴はまだ存在していた。俺はあの中から出てきたのだろう。

 混乱していた頭も少しずつ理解するしかなかった。

 俺は玄関から戻ると何かに躓きそのまま倒れた。

「いてぇーな!」

 体を起こし足先に目をやると、そこには昔から置いてある犬の置物があった。我が家の番犬として活用している。

「あれ? こんなとこに袋なんかあったけ?」

 その隣には麻の袋が置いてあった。そういえば戻ってきた時に右手に掴まれていた麻の袋。

 庭の異世界に行っていた時の袋マークにはあまり良い印象を受けなかった。俺は麻の袋をリビングに持っていき恐る恐る中身を確認する。

 ゴブリンの体の一部が入っていたら、処分の方法に困ってしまう。だが、中に入っていたのは俺達がよく目にしているものだった。

「お金?」

 麻の袋からお金を取り出すと、そこには沢山の一万円札が入っていた。一枚ずつ取り出して数えるとそこには42万円も入っていた。

 あまりにも急に大金が目の前にあると驚き、声が出せなくなってしまう。しかも、俺が必死に働いて稼げる一月分の給料の約1.5倍ほどを数分で稼ぐことができたのだ。

 死ぬ気で仕事をしても、ほとんどがサービス残業でタダ働きのことを考えれば、今の給料じゃ全然見合わない。それが数時間命をかけたら簡単に手に入ってしまう。

 それでもあの場所が現実で、何度も行けるならとんでもないホワイト企業で働いていることになる。

「これって効率の良い副業じゃないのか?」

 俺はブログやアフィリエイト、せどりと言われる転売ヤーにも挑戦したが、どれも時間が足りなくて結局続けることができなかった。

 他のブロガーは1週間に3本近く書いているのに、俺は月に1、2本書くのが精一杯だった。それでは稼げないと始めたせどりも梱包や商品の仕入れに時間がかかってしまう。何か始めるのにも時間が必要だと知ってしまった。

 だからこそ、この給料で拘束時間を考えると同期が転職するのも無理はない。だが、今の俺には転職する体力も時間もなかった。とりあえず休みの日に心身を休ませないと倒れてしまう。

 全ての原因はあの糞部長のせいだ。

「しかもどこから発生してるかわからない金だから確定申告はいるのか?」

 源泉徴収などもなく存在するはずのないお金だったが、とりあえずスマホの中にいくら稼いだのかメモすることにした。

 拾ったお金にしても税金は取られるし、警察に届けても100%は戻ってこない。一時所得扱いになって、そこから所得税と住民税が取られてしまう。

 それならちゃんと自分で稼いだことにした方がいいのかもしれない。

 俺はそのままスマホを閉じれば良かったが、いつもの癖で投資信託を買っているアプリを開いていた。

「入金力を上げないとずっと家畜奴隷だな」

 俺はふと机の上に置いてある大金を目にする。お金を手に取ると、スマホ画面と交互に見比べた。

 簡単に入金金額を増やすことができるものを発見したのだ。

 これを続ければいつかは働かずにニートになれるかもしれない。

 これで家畜のように働かなくて済むのだ。命懸けで働くのも寝る時間もなく死ぬ気で働くのもそんなに変わりはない。

「とりあえず、銀行に預けに行こう」

 俺は庭の異世界で稼いだお金を投資するために投資資金として銀行に入れることにした。これで夢のニート生活に一歩近づけるのだ。

 まずは銀行にお金を預け入れるために家を出た。いつもは寝ているばかりの休みの日なのに、今日はウキウキとスキップをするぐらいテンションが上がっていた。

 ここから庭の異世界で稼いでニートを目指す男の物語が始まった。
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