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第一区画

32. 穴の正体 ※桃乃視点

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 優しい風と光の眩しさに目を覚ました。日差しに目がチカチカとしている。

「明るい……はぁ!?」

 頭の中を整理していると、どうやら帰るつもりが先輩の家のソファーで寝てしまった。先輩が起きた形跡もなく、昨日とリビングの状態が同じだった。

「ひとこと言ってから帰ろうかな」

 2階に上がり先輩の部屋を開けた。ベットには昨日寝かした状態で心地良く寝ている。

「悪いからメモでも残しておこう」

 あまりにも気持ち良さそうに寝ているため、食卓机の上にスーツとタクシーのことについてメモに書き、帰る準備を始めた。

 しかし、準備ができても何か忘れているような気がしていた。

「何かやり残したことが……」

 ふと先輩が昨日話していたことが頭をよぎる。それはの存在だ。

 昨日庭の隣を通った時、異様に大きく空いた穴に私も意識が向いていた。

 笹寺さんは特に気にしていなかったため、見えたのは私だけなんだろう。

 今もどこかで呼ばれている気がする。私は荷物を置き、気になっていた穴の前に向かう。

 どこか惹きつけられる穴に、気づいたら目の前に立っていた。

「思ったよりも深い」

 異様に空いた穴に興味が湧いてくる。先輩が掘ったには大きすぎるし、何のために掘ったのかわからない。

 昨日の話が耳から離れないのだ。そして、また誰かが私を呼んでいる。

 わずかに階段らしき段差もあり、ダメだとは思いながらも私は下に降りて行く。

 中は真っ暗で何も見えない。

 壁を手で触れるとその感触に驚く。土だと思っていたのに実際はコンクリートのように固まっていた。

 防空壕ではなく、トンネルに似たような構造だ。

「先輩はなんでこんな穴を作ったんだろう?」

 その時突然誰かに話しかけられた。

【エラー! エラー! 証券口座未所持】

 急な声に私はビクッとした。トンネルのようなところにいるのに声は響かず、頭の中に直接語りかけてきた感じがした。

「あのー、誰ですか?」

 響くのは私の声だけだった。一言聞いた瞬間に私はこの人に呼ばれたと感じた。

「すみません、誰かいますか?」

 何度も声をかけるが特に反応はない。

【投資未経験のため、ステータス及びスキルの習得なし】

 やはり何かが話しかけている。何を言っているのかわからないが、とりあえずゲームに出てくるような単語が聞こえてくるのは確かだ。

 ゲームをしたことない私にとって、ステータスやスキルという言葉はわかっても、何かまではわからない。

【今回の討伐対象はポイズンスネークです。制限時間は10時間です。それでは本日も頑張って家畜のように働きましょう】

「うぉ!? なんだ!?」

 突然出てきた透明な板に私は驚いた。そこにはポイズンスネークを1体討伐と書いてあった。

「ポイズンスネーク? 10時間?」

 ポイズンスネークって名前からして毒を持った蛇のことだろう。ただでさえ爬虫類は苦手なのに、そんな生物を倒せるはずがない。

 私は立ち止まって考えていたはずが、足は自然と動いていた。

「えっ、何があったの?」

 気づいた時にはどこかの田舎町に立っていた。周囲を見渡すが、人が住んでいる様子はない。ふと後ろを振り返ると先輩の家にあった、同じ大きな穴が空いていた。

 流石に怖くなったため、穴に入ろうとするが何か透明な物に阻まれているようだ。

 手や足を入れようとしても弾かれて、穴に入れなくなってしまった。

「開けてください!」

 透明な扉だと思い、手で叩くが透明な壁を叩くだけで何も反応がない。ただ、叩いている感触はあるものの音はしない。

 しばらく経っても通れそうになかった私は諦めて、人を探すことにした。

「誰かいませんかー?」

「おーい!」

 大きな声を出して探していると、近くの草むらから音が聞こえた。

 近くに行くと誰かがご飯を食べているようで咀嚼音が聞こえる。どうやら街の人が休憩してご飯を食べているのだろう。

「すみません、ここはどこで――」

 草をかき分けるとそこには人の後ろ姿があった。

 なぜか服はボロく、思ったよりも身長は少年の様に低い人だ。ただ、その見た目に違和感を感じる。

 肌の色は緑だった。青白い人は存在するが、緑色の皮膚の人はさすがにいないだろう。

「グヴェ?」

 こちらに気づき振り返ると、手には血で赤く塗られていた人の手のようなものを持っており、口には飛び出た腸を咥えていた。

「えっ……なに……」

 私はあまりの気持ち悪さに腰が抜けてしまった。動こうにも体が反応しない。恐怖を感じると動けないってこういうことを言うのだろう。

「グヘヘへ」

 そいつは微笑み、何かの肉を食いちぎりながらこちらに近づいてきた。

 明らかに人間ではない、なにかだと気づいた私は立ち上がろうとする。だが、脚が震えて立てない。

「動け! 動け!」

 それでも必死に脚を叩くと少しずつ感覚が戻ってきた。後退しながら私は立ち上がる。

 このままでは殺される。脳から逃げろという命令が出ていた。

「嫌だ! 死にたくない」

 私は必死に脚を動かした。振り返ると初めは追いかけてきた謎の人はいなくなっていた。

 逃げ切れたことに喜び、全身の力が抜ける。

「やっと逃げ切れた……」

 息を落ち着かせて目の前を見ると、体長10m程度はある大きな蛇がこちらを睨んでいた。
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