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33. 最後ぐらい社畜は寝かせてほしい ※桃乃視点

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 目の前の大蛇に私は動けなくなっていた。びっくり動画とかに出てきそうな動物を丸呑みするくらいの大きさはある。

「キシャアァー!」

 蛇は急に出てきた私に対して威嚇してきた。体の色は紫色で毒々しい見た目をしている。きっと、これが脳内に聞こえてきた討伐対象のポイズンスネーク・・・・・・・・だろう。

 それにしても大きすぎる。人を丸呑みできるぐらいの太さもあり、私が倒せる存在じゃないとすぐに思った。

 後退する度にポイズンスネークも詰め寄ってきた。

 何かしら視線を逸らさないと逃げる隙間もないだろう。

 私は足元にあった太めの木の棒を掴み、ポイズンスネークに投げた。

 すぐに木の棒に反応して、体を横にスライドした。効率よく動きの少ない方法でポイズンスネークは避けていた。きっと頭も良いのだろう。

「どうしたらいいの……」

 必死に考えるが何も出てこない。近づけば締め付けられるだろうし、遠くても長さを利用して噛みつかれるかもしれない。

「キシャァー!」

 ポイズンスネークは威嚇と共に私に向かって、大きく口を開けて飛び込んできた。

 やはり思った通りに行動をしている。

 まず初めにあの口に何かしらのことをしないと逃げる隙を作れないだろう。

 木の棒を横にして構えた。飛び込んできた際に口に挟み込めば逃げる時間を稼げると考えた。

「キシャァー!」

 距離を取っているからか威嚇と同時に飛び込んできた。私は木の棒を構え、口に向かって木の棒を押し込んだ。

 今がチャンスだと思い体を捻ったが、ポイズンスネークの攻撃は終わらなかった。

 私に向けて何かを吐き出したのだ。毒を持っていると思っていたが、まさか吐き出せるとは誰も思わないだろう。

 液体は私の足に直接掛かるが、せっかく出来たチャンスに振り向かず走った。

 そこからはとにかく走り続けた。なぜこんな目に遭わないといけないのかと涙が出てくる。

 解決法がないから逃げるしかないのだ。

 昔から逃げてばかりの人生で嫌になってくる。

 次第に体が動きにくくなるのを感じた。段々と体の感覚もなくなってきているし、走っているのに何も体に触れている感触がない。

 地面を蹴って走っているはずなのに、宙にぷかぷかと浮いているような感覚に私はただ戸惑うことしかできなかった。

 きっとポイズンスネークによる毒の影響だろう。

「あー、ここで死ぬのか」

 少しずつ感じる命の危険に直面する現実を受け止めるしかなかった。動かなくなる体を少しずつ、引きずりながら身を隠せる場所を探す。

 最後の最後であいつらに食べられるなんて嫌だ。その思いだけで必死に体を動く。

「あっ!?」

 直接毒液がかかった足はもう動かなかった。何かに躓いてダルマのように転がっていく。

 体も痺れ、脳内に命の危険を知らせているのか、アラームが鳴っていた。

「はぁ……はぁ……」

 私は小さな小屋を見つけた。必死に腕の力だけで小屋に向かう。

 スーツはすでに破れて、足も傷だらけになっている。

 扉もない小さな小屋の中には何も置いていなかった。わずかな隙間に体を隠すにはちょうどよかった。

「ついにアラームも聞こえないか」

 さっきまで聞こえていたアラームも聞こえなくなっていた。ついに命の限界なんだろう。

 次第に全身の感覚がなくなってくる。

「もう、疲れたよ」

 ずっと逃げ続けていた影響で疲労感が溜まっていた。もう、逃げるのも限界。ただ息をするだけで精一杯だ。

 こんな最後を迎えるのなら、最後ぐらい社畜の私はゆっくりと寝たい。ただそれだけを思いそのまま目を閉じた。





「桃乃ー! どこだー!」

 寝てからどれくらい経ったのだろうか。ついに体もおかしくなっているのか、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

 きっと幻聴なんだろう。こんなところに先輩が来るはずがない。

 しかし、聞こえてくるのはいつもの声とは違いどこか必死さを感じる。

「先輩の家にある庭から別の世界に来ていたんだっけ」

 明らかにおかしい環境で別の世界に来たことを今更実感した。

 私は声を出すが掠れて全然大きな声にならない。ついに声帯まで筋肉が動かせなくなってきたのだろうか。だけど諦めずに声を出し続けるしかない。

「死にたくないよ」

 掠れる声で必死に叫ぶ。

「いつものように助けてよ!」

「ガウ!」

 私の声に何か反応する鳴き声が聞こえてきた。この声は家で待っているココアだろうか。最後にたくさん撫でたかったし、妹も今頃帰りを待っているのかもしれない。

「帰りたいよ」

 次第に動物の走る音と足音が近づいてきた。

「こっちか!」

 私はその音と声を聞いて心の奥底から安心感が伝わってくる。あの時も助けてくれたのは先輩だった。

 ただ逃げることしか出来なかった学生時代の私。

 そんな私を助けたのはふと通りがかった先輩だった。

 きっとあなたは昔に会っていたことを覚えていないだろう。

 私の人生はあなたに二度も助けられた。

「大丈夫か?」

 声のする方に目を向けると、そこにはいつも助けてくれる先輩の姿があった。

 "やっぱり先輩は私のヒーロー・・・・ですね"

 いつもの声と顔を見た私は、安心からかそのまま意識を手放した。
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