69 / 158
第一区画
69. ボス部屋といえば……あれでしょ!
しおりを挟む
俺は突然のアナウンスに驚いた。まだ討伐対象のクイーンキラーアントを倒していないのだ。そもそも会った記憶もない。
「倒していないのにクリアなのか?」
「ボスの部屋まで行ったらクリア扱いですかね?」
桃乃も俺と同じ疑問を抱いていた。俺は異世界ダンジョンを管理をしている何者かに声をかけてみる。
前回も一度だけ答えてくれたため、今回もひょっとしたら返ってくるかもしれない。
「おーい、これでクリアなのか?」
「……」
やはり何も返事はなかった。
そして、桃乃からの視線が痛かった。俺のことを変な薬物をやっているのではないかと感じるような視線で見るのはやめてくれ。
先輩の心はガラスで出来ているからすぐに砕けてしまう。
「クリアです」
しばらくすると微かな声で聞こえてきた。俺はやってみれば何かしらアナウンスも反応してくれると思っている。
「ももちゃんクリアらしいよ」
俺は桃乃を見ると満面な笑みで微笑んでいた。どうやら桃乃にも聞こえていたようだ。
それにしてもアナウンスの声ってあんなに直接耳から聞こえる声だったのか?
「先輩が単純な人で良かった」
「えっ? なんか言ったか?」
「いえ、何も言ってないですよ?」
桃乃の声が小さくて聞こえづらかったが、本人が何も言っていないのであれば空耳なんだろう。
若干イラッとする単語も聞こえたが何も聞こえていない。聞いていないことにしよう。
「じゃあ、戻……あそこに穴があるぞ」
奥の方に目を向けると、まさかの穴が存在していた。
来た道はしっかりと記録されているため、俺達はその穴に入ることにした。毎回穴に入っているが何かの動物になった気分だ。
「よし、行こうか」
俺達は穴に入りしばらく歩くと見慣れた景色が広がっていた。
「ここって入り口か?」
「そうみたいですね」
立っていたのは穴の入り口がある湖の前だった。後ろを確認すると穴はそのまま存在している。
小説とかにもダンジョンにはセーブ機能があり、すぐに入り口に戻れる仕組みがあると書いてあったが、それが今通って来た穴なんだろう。
「これって埋める方がいいのか?」
「キラーアントが戻って来ることを考えると埋めるべきですね。ドリアードさんの依頼では住むところを取り返して欲しいってことですよね?」
桃乃の言うことは一理ある。穴を埋めてキラーアントの住処を減らすことに意味があるのだろう。
桃乃が呪文を唱えると、周囲の土が集まり穴を塞ぐ。やはり下級魔法でも使う人によって、工夫方法は変わるのだろう。
一応これで本来のクエストは終わっているが、ドリアードの特別クエストはまだ終わっていない。
「まだ時間はあるけどどうする?」
俺としては特別クエストを終えたいが、桃乃のMPと相談だ。
「私はまだ大丈夫ですけど、スキルブックが穴の数だけあるって思うと行かないともったいないですよね?」
桃乃は近くにある他の穴を見ていた。ひょっとしたら一つずつにスキルブックが有れば、本来は投資で得られるスキルより効率よくスキルを得ることができる。
「ももちゃんが大丈夫なら回ろうか」
俺達はしらみ潰しに穴の探索をすることにした。
♢
入った瞬間はどこも異世界ダンジョン"豊満の殺戮"となっており、討伐ボスはクイーンキラーアントだ。
「ここにもいないな」
「もう全て回りましたね」
俺達は最後の穴を攻略したが、どこにもクイーンキラーアントはいなかった。
10箇所近くは回ったが特に得られるものはなく、スキルブックよりアイテムを手に入れることが多かった。
その中でも使える武器が宝箱から出てきた。
――ヘルメスの杖
名前からして有名な神の杖だった。ヘルメスとはギリシャ神話に出てくる一二神の一人だった気がする。
神の名前が付くぐらいだから、それ相当の強さもあるだろう。
それにしても桃乃の武器やアイテムばかりだ。
俺が杖を持ってもただの木の棒扱いなのだ。俺はアイテムとして保存されるのに、桃乃は武器として保存されるらしい。
一種の鈍器としては使えるかもしれないが、俺に装備できないのなら俺がもらっても仕方ない。
しかも、宝箱から出てきた瞬間にキラキラした目で見られたら、先輩として後輩に渡すしかないだろう。
むしろ俺が使える武器やアイテムが変わった物が多いから一生出会えない気がしてきた。
そのかわり俺が貰ったのは回復ハイポーションと????の実だ。
わけわからない実は食べることもなく、そのまま袋の中に入れておくことにした。
種と一緒で名前のわからない実って聞くだけで、何が起こるかわからないものを食べるわけにはいかない。
トレントなら名前は表示されるが、出てこないということは知らない魔物の実なんだろう。
「クイーンキラーアントもいないし、これだけキラーアントを倒せばドリアードの特別依頼も終わりかな?」
「きっとそうじゃないですか?」
どこまで倒せばいいのかもわからない俺達は辺りを歩いているとまた穴をみつけた。
「ここにクイーンキラーアントがいるんじゃないですかね?」
最後の頼み綱として俺達は穴の中に入るといつものアナウンスが聞こえてきた。
【キラーアント討伐お疲れ様でした。今回の報酬を計算します】
それは異世界ダンジョンに入った時のアナウンスではなく、庭にできた異世界に来た時のデジタル音声のアナウンスだった。
「倒していないのにクリアなのか?」
「ボスの部屋まで行ったらクリア扱いですかね?」
桃乃も俺と同じ疑問を抱いていた。俺は異世界ダンジョンを管理をしている何者かに声をかけてみる。
前回も一度だけ答えてくれたため、今回もひょっとしたら返ってくるかもしれない。
「おーい、これでクリアなのか?」
「……」
やはり何も返事はなかった。
そして、桃乃からの視線が痛かった。俺のことを変な薬物をやっているのではないかと感じるような視線で見るのはやめてくれ。
先輩の心はガラスで出来ているからすぐに砕けてしまう。
「クリアです」
しばらくすると微かな声で聞こえてきた。俺はやってみれば何かしらアナウンスも反応してくれると思っている。
「ももちゃんクリアらしいよ」
俺は桃乃を見ると満面な笑みで微笑んでいた。どうやら桃乃にも聞こえていたようだ。
それにしてもアナウンスの声ってあんなに直接耳から聞こえる声だったのか?
「先輩が単純な人で良かった」
「えっ? なんか言ったか?」
「いえ、何も言ってないですよ?」
桃乃の声が小さくて聞こえづらかったが、本人が何も言っていないのであれば空耳なんだろう。
若干イラッとする単語も聞こえたが何も聞こえていない。聞いていないことにしよう。
「じゃあ、戻……あそこに穴があるぞ」
奥の方に目を向けると、まさかの穴が存在していた。
来た道はしっかりと記録されているため、俺達はその穴に入ることにした。毎回穴に入っているが何かの動物になった気分だ。
「よし、行こうか」
俺達は穴に入りしばらく歩くと見慣れた景色が広がっていた。
「ここって入り口か?」
「そうみたいですね」
立っていたのは穴の入り口がある湖の前だった。後ろを確認すると穴はそのまま存在している。
小説とかにもダンジョンにはセーブ機能があり、すぐに入り口に戻れる仕組みがあると書いてあったが、それが今通って来た穴なんだろう。
「これって埋める方がいいのか?」
「キラーアントが戻って来ることを考えると埋めるべきですね。ドリアードさんの依頼では住むところを取り返して欲しいってことですよね?」
桃乃の言うことは一理ある。穴を埋めてキラーアントの住処を減らすことに意味があるのだろう。
桃乃が呪文を唱えると、周囲の土が集まり穴を塞ぐ。やはり下級魔法でも使う人によって、工夫方法は変わるのだろう。
一応これで本来のクエストは終わっているが、ドリアードの特別クエストはまだ終わっていない。
「まだ時間はあるけどどうする?」
俺としては特別クエストを終えたいが、桃乃のMPと相談だ。
「私はまだ大丈夫ですけど、スキルブックが穴の数だけあるって思うと行かないともったいないですよね?」
桃乃は近くにある他の穴を見ていた。ひょっとしたら一つずつにスキルブックが有れば、本来は投資で得られるスキルより効率よくスキルを得ることができる。
「ももちゃんが大丈夫なら回ろうか」
俺達はしらみ潰しに穴の探索をすることにした。
♢
入った瞬間はどこも異世界ダンジョン"豊満の殺戮"となっており、討伐ボスはクイーンキラーアントだ。
「ここにもいないな」
「もう全て回りましたね」
俺達は最後の穴を攻略したが、どこにもクイーンキラーアントはいなかった。
10箇所近くは回ったが特に得られるものはなく、スキルブックよりアイテムを手に入れることが多かった。
その中でも使える武器が宝箱から出てきた。
――ヘルメスの杖
名前からして有名な神の杖だった。ヘルメスとはギリシャ神話に出てくる一二神の一人だった気がする。
神の名前が付くぐらいだから、それ相当の強さもあるだろう。
それにしても桃乃の武器やアイテムばかりだ。
俺が杖を持ってもただの木の棒扱いなのだ。俺はアイテムとして保存されるのに、桃乃は武器として保存されるらしい。
一種の鈍器としては使えるかもしれないが、俺に装備できないのなら俺がもらっても仕方ない。
しかも、宝箱から出てきた瞬間にキラキラした目で見られたら、先輩として後輩に渡すしかないだろう。
むしろ俺が使える武器やアイテムが変わった物が多いから一生出会えない気がしてきた。
そのかわり俺が貰ったのは回復ハイポーションと????の実だ。
わけわからない実は食べることもなく、そのまま袋の中に入れておくことにした。
種と一緒で名前のわからない実って聞くだけで、何が起こるかわからないものを食べるわけにはいかない。
トレントなら名前は表示されるが、出てこないということは知らない魔物の実なんだろう。
「クイーンキラーアントもいないし、これだけキラーアントを倒せばドリアードの特別依頼も終わりかな?」
「きっとそうじゃないですか?」
どこまで倒せばいいのかもわからない俺達は辺りを歩いているとまた穴をみつけた。
「ここにクイーンキラーアントがいるんじゃないですかね?」
最後の頼み綱として俺達は穴の中に入るといつものアナウンスが聞こえてきた。
【キラーアント討伐お疲れ様でした。今回の報酬を計算します】
それは異世界ダンジョンに入った時のアナウンスではなく、庭にできた異世界に来た時のデジタル音声のアナウンスだった。
27
あなたにおすすめの小説
合成師
あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。
そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
現実世界にダンジョンが出現したのでフライングして最強に!
おとうふ
ファンタジー
2026年、突如として世界中にダンジョンが出現した。
ダンジョン内は無尽蔵にモンスターが湧き出し、それを倒すことでレベルが上がり、ステータスが上昇するという不思議空間だった。
過去の些細な事件のトラウマを克服できないまま、不登校の引きこもりになっていた中学2年生の橘冬夜は、好奇心から自宅近くに出現したダンジョンに真っ先に足を踏み入れた。
ダンジョンとは何なのか。なぜ出現したのか。その先に何があるのか。
世界が大混乱に陥る中、何もわからないままに、冬夜はこっそりとダンジョン探索にのめり込んでいく。
やがて来る厄災の日、そんな冬夜の好奇心が多くの人の命を救うことになるのだが、それはまだ誰も知らぬことだった。
至らぬところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
どうしてこうなった道中記-サブスキルで面倒ごとだらけ-
すずめさん
ファンタジー
ある日、友達に誘われ始めたMMORPG…[アルバスクロニクルオンライン]
何の変哲も無くゲームを始めたつもりがしかし!?…
たった一つのスキルのせい?…で起きる波乱万丈な冒険物語。
※本作品はPCで編集・改行がされて居る為、スマホ・タブレットにおける
縦読みでの読書は読み難い点が出て来ると思います…それでも良いと言う方は……
ゆっくりしていってね!!!
※ 現在書き直し慣行中!!!
親友と婚約者に裏切られ仕事も家も失い自暴自棄になって放置されたダンジョンで暮らしてみたら可愛らしいモンスターと快適な暮らしが待ってました
空地大乃
ファンタジー
ダンジョンが日常に溶け込んだ世界――。
平凡な会社員の風間は、身に覚えのない情報流出の責任を押しつけられ、会社をクビにされてしまう。さらに、親友だと思っていた男に婚約者を奪われ、婚約も破棄。すべてが嫌になった風間は自暴自棄のまま山へ向かい、そこで人々に見捨てられた“放置ダンジョン”を見つける。
どこか自分と重なるものを感じた風間は、そのダンジョンに住み着くことを決意。ところが奥には、愛らしいモンスターたちがひっそり暮らしていた――。思いがけず彼らに懐かれた風間は、さまざまなモンスターと共にダンジョンでのスローライフを満喫していくことになる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる