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第一区画
76. 私の子供達
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私はその男を見て子供達を守らないといけないと思った。私の震えている体は自然と止まり立ち上がった。
「にひひ、お母さんが帰ってきたね?」
男はなぜか小刻みに笑っている。その気持ち悪さは異常なほどだった。
早く他の子供達を探さないと。
「そういえばクローゼットの中に隠れていた子供との隠れんぼは楽しかったな」
男はどこか遠い目をして微笑んでいる。
クローゼットの中……私は急いで日向達の部屋に向かった。どうやら男は追いかけて来ないようだ。
日向の部屋に入るとそこにはクローゼットの中から倒れている子供達の姿があった。
「日向……花梨……」
二人は怯えたように抱き合い、顔は涙で汚れていた。
そして、日向の手には携帯が握られていた。
"ママ怖いよ"
"早く帰ってきて"
"もう見つかっちゃうかもしれない"
"ママ"
私にメールをする途中まで書いた文章が残っていた。
「ははは、隠れんぼの次は鬼ごっこかな」
男は部屋の入り口で笑いながら立っていた。
許せない!
子供達を殺したこの人を許せない。
私の命よりも大事な宝物を奪った男に沸々と怒りが込み上がってくる。
「最後に必死に携帯で何かを打とうとしたのは楽しかったな。もう死ぬ間際なのになんて滑稽な姿なんだろうか」
私は娘が押している指を見てみると、か行に指が置いてあり"か"状態で点滅していた。
その前には"す"という文字が打たれている。
「日向……」
きっと彼女が打ちたかったのは、私へ向けた最後のメッセージだった。
"すき"という二文字。
そんな中、玄関が開く音が聞こえてきた。誰かが入ってきたのだ。
警察官だと思いほっとしたが、聞こえてきた言葉は違った。
「ただいま!」
あの声は長男の洸だ。
私は必死に叫ぶ。
「洸! 早く逃げて!」
必死に叫ぶが私の声より男の動きの方が早かった。
「えっ? 母さん何かあ……痛ってー!!」
私は洸の声がする方へ急いで向かった。
階段を降りたそこには洸の上に馬乗りに乗った男が、何度も洸に向かって包丁を突き刺していた。
私が止めに入ろうとする頃には洸の抵抗していた手はだらりと落ちていた。
「くくく、これで全員かな……?」
「なんで……私からみんなを奪うのよ」
夫から子供達まで全員私を置いて死んでしまった。
もう"悲しい""悔しい"という気持ちはない。
「早く、私も連れてって……」
私から出た言葉はそれだけだった。
早くあの人とあの子達が待つところに行きたかったのだ。
「なんだ……死にたがってるやつなんか殺しても面白くないじゃん」
気づけば男はつまらなさそうに洸から離れ、帰ろうとしていた。
「早く私も殺してよ!」
必死に男の足を掴むと、強く腹を蹴られた。ああ、これで私もみんなの元へ行けると思った。
だが実際は違っていた。
「誰がお前なんか殺すんだよ! そんなやつを殺して楽しくないじゃないか! 死ぬなら勝手に死ねば?」
男はそう言って包丁を私の手に握らせた。
私は包丁を喉元に突きつけるが、私には自分を殺せるだけの勇気がなかった。手が震えて自分を殺せない。
いや、正確に言えば夫と子供達が私が突き刺そうとしている腕を必死に掴んでいるのだ。
なんでこんな時にまで私を止めようとするの……。
「これで復讐は終わりだ! あの男が俺の女に手を出したから悪いんだ! それなのにあの男はずっとお前の名前を呼んでたぞ? あはは、浮気してても妻は大事だったんだな?」
男は何を言っているのか分からなかった。
「お前の夫、健斗はずっとお前の名前を呼んでいたんだよ? 清香だったかな? ははは、これで俺の復讐は終わ――」
「くそ……何やってんだよ!?」
私は男が何を言っているのか理解すると震えていた手は止まっていた。
目の前の男に復讐しないと……。
せめて私の宝物を奪ったこいつを殺さないといけないと思ったのだ。
私は右手に握っていた包丁を男の腹部に向かって勢いよく刺した。
刺しては抜いてを繰り返し、声が出なくなるほど形が無くなるほど滅多刺しにする。
「あははははははは! やっとこれで私も……」
私は首元に包丁を当てた。今度はなぜか誰も止めようとしなかった。むしろ遠くで悲しい顔をしてこちらを見ていた。
「あなた……やっとあなたを殺した人を私の手で殺せたわよ。みんな待っててね」
私が包丁で首元を切ろうとすると、どこからか音が聞こえた。
隣には私達を守ってくれるはずだった警察官が立っていた。
「現行犯で犯人を取り押さえました!」
玄関の扉は開いており、私が男を殺していたところを近所の人達は見ていた。
ああ、私は死ねなかったのだ。
最愛の人達が全員殺されても、私はまだあなた達の元へ行けないようだ。
「あああああー! 置いてかないでー!」
警察官に取り押さえられた私はその場で泣き崩れるように倒れた。
周りなんて気にせず私は泣き叫んだ。
辺りには私の声だけが響いている。
俺はなんで関係のないやつらまで殺していたのだろうか。
お金がそんなに大事なんだろうか。
混乱する頭の中で次第に記憶は薄れていった。
「にひひ、お母さんが帰ってきたね?」
男はなぜか小刻みに笑っている。その気持ち悪さは異常なほどだった。
早く他の子供達を探さないと。
「そういえばクローゼットの中に隠れていた子供との隠れんぼは楽しかったな」
男はどこか遠い目をして微笑んでいる。
クローゼットの中……私は急いで日向達の部屋に向かった。どうやら男は追いかけて来ないようだ。
日向の部屋に入るとそこにはクローゼットの中から倒れている子供達の姿があった。
「日向……花梨……」
二人は怯えたように抱き合い、顔は涙で汚れていた。
そして、日向の手には携帯が握られていた。
"ママ怖いよ"
"早く帰ってきて"
"もう見つかっちゃうかもしれない"
"ママ"
私にメールをする途中まで書いた文章が残っていた。
「ははは、隠れんぼの次は鬼ごっこかな」
男は部屋の入り口で笑いながら立っていた。
許せない!
子供達を殺したこの人を許せない。
私の命よりも大事な宝物を奪った男に沸々と怒りが込み上がってくる。
「最後に必死に携帯で何かを打とうとしたのは楽しかったな。もう死ぬ間際なのになんて滑稽な姿なんだろうか」
私は娘が押している指を見てみると、か行に指が置いてあり"か"状態で点滅していた。
その前には"す"という文字が打たれている。
「日向……」
きっと彼女が打ちたかったのは、私へ向けた最後のメッセージだった。
"すき"という二文字。
そんな中、玄関が開く音が聞こえてきた。誰かが入ってきたのだ。
警察官だと思いほっとしたが、聞こえてきた言葉は違った。
「ただいま!」
あの声は長男の洸だ。
私は必死に叫ぶ。
「洸! 早く逃げて!」
必死に叫ぶが私の声より男の動きの方が早かった。
「えっ? 母さん何かあ……痛ってー!!」
私は洸の声がする方へ急いで向かった。
階段を降りたそこには洸の上に馬乗りに乗った男が、何度も洸に向かって包丁を突き刺していた。
私が止めに入ろうとする頃には洸の抵抗していた手はだらりと落ちていた。
「くくく、これで全員かな……?」
「なんで……私からみんなを奪うのよ」
夫から子供達まで全員私を置いて死んでしまった。
もう"悲しい""悔しい"という気持ちはない。
「早く、私も連れてって……」
私から出た言葉はそれだけだった。
早くあの人とあの子達が待つところに行きたかったのだ。
「なんだ……死にたがってるやつなんか殺しても面白くないじゃん」
気づけば男はつまらなさそうに洸から離れ、帰ろうとしていた。
「早く私も殺してよ!」
必死に男の足を掴むと、強く腹を蹴られた。ああ、これで私もみんなの元へ行けると思った。
だが実際は違っていた。
「誰がお前なんか殺すんだよ! そんなやつを殺して楽しくないじゃないか! 死ぬなら勝手に死ねば?」
男はそう言って包丁を私の手に握らせた。
私は包丁を喉元に突きつけるが、私には自分を殺せるだけの勇気がなかった。手が震えて自分を殺せない。
いや、正確に言えば夫と子供達が私が突き刺そうとしている腕を必死に掴んでいるのだ。
なんでこんな時にまで私を止めようとするの……。
「これで復讐は終わりだ! あの男が俺の女に手を出したから悪いんだ! それなのにあの男はずっとお前の名前を呼んでたぞ? あはは、浮気してても妻は大事だったんだな?」
男は何を言っているのか分からなかった。
「お前の夫、健斗はずっとお前の名前を呼んでいたんだよ? 清香だったかな? ははは、これで俺の復讐は終わ――」
「くそ……何やってんだよ!?」
私は男が何を言っているのか理解すると震えていた手は止まっていた。
目の前の男に復讐しないと……。
せめて私の宝物を奪ったこいつを殺さないといけないと思ったのだ。
私は右手に握っていた包丁を男の腹部に向かって勢いよく刺した。
刺しては抜いてを繰り返し、声が出なくなるほど形が無くなるほど滅多刺しにする。
「あははははははは! やっとこれで私も……」
私は首元に包丁を当てた。今度はなぜか誰も止めようとしなかった。むしろ遠くで悲しい顔をしてこちらを見ていた。
「あなた……やっとあなたを殺した人を私の手で殺せたわよ。みんな待っててね」
私が包丁で首元を切ろうとすると、どこからか音が聞こえた。
隣には私達を守ってくれるはずだった警察官が立っていた。
「現行犯で犯人を取り押さえました!」
玄関の扉は開いており、私が男を殺していたところを近所の人達は見ていた。
ああ、私は死ねなかったのだ。
最愛の人達が全員殺されても、私はまだあなた達の元へ行けないようだ。
「あああああー! 置いてかないでー!」
警察官に取り押さえられた私はその場で泣き崩れるように倒れた。
周りなんて気にせず私は泣き叫んだ。
辺りには私の声だけが響いている。
俺はなんで関係のないやつらまで殺していたのだろうか。
お金がそんなに大事なんだろうか。
混乱する頭の中で次第に記憶は薄れていった。
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