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第二区画

131. 慢心した俺と孕み袋

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「すみませんでしたああああ!」

 俺は今桃乃の前で土下座をしている。さっきからずっと桃乃の機嫌が収まらないからだ。

「本当にももちゃんごめんね」

「すぐに来るって言いましたよね?」

 作戦通りだと安全なところにドワーフ達を連れて行ったら、一旦桃乃のところに向かう予定だった。

 そもそもドワーフ達は元々異世界の住人のため、ある程度の戦闘能力はあった。

 女性だけではなく、男のドワーフもいるため戦力は十分だった。

「はい」

「それになぜ笹寺さんもいるんですか?」

「遅れたのはほぼこいつのせいです」

「えっ? 俺?」

 俺は笹寺も道連れにすることにした。単純に忘れていたということもあるが、実際に笹寺の相手をして時間がかかってしまった。

「笹寺も座る」

「はい……」

 桃乃の圧に負けたのか、笹寺もすぐに座る。

 一緒に罰を受けてもらおうと思ったが、笹寺はなぜかにやにやとしている。

 きっと幼い頃、先生に怒られたら笑ってしまうタイプなんだろう。

「それでなんで笹寺さんがいるんですか?」

 俺もずっと気になっていた。以前、酔っ払って醜態を晒した時に穴の存在を覚えていないと言っていた。

「俺もいまいちわかってないんだよね」

「使えないですね」

 笹寺は小さく縮こまっている。

 やはり異世界のSM嬢は桃乃で決定だろう。

「ももちゃんそれは言い過ぎだ」

 流石に俺も可哀想に見えてきた笹寺を庇う。

 だが、その選択は間違いだった。

「えっ? 誰のせいで死にそうな思いをしたと思ってるんですか? あの時10分ぐらいで駆けつけると言いましたよね? あなた達みたいに体力バカではないってわかりますよね? 私の体ってあなた達に比べて小さいんですよ? しかも、見知らぬ豚野郎が汚い股間を大きくさせて"はあはあ"言いながら囲まれるんですよ? そんな経験したことありますか? はあはあ耳元で言って、息子を突きつけらたことあります――」
 
「どうもすみませんでした!」

 俺と笹寺は同じタイミングで頭を下げた。確かに考えただけで恐怖だった。むしろ考えるのも拒否するぐらいだ。

「本当にもうダメか……と……」

「ももちゃん!?」

 顔をあげると桃乃はふらつきそのまま倒れた。咄嗟に立ち上がり桃乃を引き寄せる。彼女はそのまま気絶していた。

「おい、大丈夫か?」

 顔を少し叩き揺するが反応はない。それだけ今回の件がストレスとなったのか、単純に魔法の使い過ぎなのかはわからない。ただ言えるのは桃乃は無理をしていたということだ。

 桃乃なら大丈夫だと、どこかで慢心した結果だろう。

「とりあえず安全なところに行くぞ」

「ああ」

 できる範囲でオークを回収し、桃乃を抱きかかえる。

 俺達はドワーフが待っている集落に戻ることにした。





 集落に戻るとドワーフ達は必死に周囲を警戒していた。俺に気づいたドワーフは抱きかかえられている桃乃を見てすぐに近づいてきた。

「お仲間さんは大丈夫ですか?」

「今のところは大丈夫だとです。皆さんはどうですか?」

「こっちは女性達も目を覚ましていますが、あの通りで……」

 そこには泣き崩れる女性や必死に自分のお腹を叩いたり、飛び跳ねたりなど奇妙な行動をしていた。

 一人だけではなく、ほぼ全員やっている行動だ。

「あれはなにをやっているんですか?」

「みんなお腹の中にオークの子供がいることがわかっているんです」

 俺に声をかけてきたのは一番初めに助けた女性だった。彼女は現在妊娠しているのかはわからないが、お腹が大きくなっていないためそこまで悲観的にはなっていないらしい。

「いくら落ち着くように声をかけてもダメなんです」

 桃乃を笹寺に預けて、彼女達に近づくと喉が潰れても泣き叫ぶ姿に胸が痛くなる。

 そんな中一人の女性が俺の存在に気づいた。

 ふらふらと近づきながらも俺の服を掴む。

「早く私を殺して……もうオークを産むのは嫌なの。なんで生きているのよ。早く殺してよ……。ねぇ、あなたが助けたなら私を殺すこともできるよね?」

 助けてよかったのだろうか。

 クエストを達成するために彼女達を助けたが、本当にその選択が合っていたのかと考えてしまう。

「ねぇ、苦しまずに済むようにどうにかして。ねぇ、なんとか言ったらどうなの!」

 彼女は俺を叩くわけでもなく自分のお腹を強く強く叩いていた。その大きく膨らんだお腹は今にも産まれる寸前なんだろう。

「トラベラもうやめるんだ」

 後ろで他のドワーフが必死にお腹を叩く女性を止める。それでも彼女は激しく動き、何度も自身を痛めつける。

「いや! 離してよ! なんでこんな目に遭わないといけないのよ! 私達ばかり孕み袋として使われないといけないのよ」

 どうしようもできない俺の心は締め付けられていた。

 スキルの影響か清香さんの時のように、彼女達の気持ちが俺の中に入ってくるようだ。

 俺はアイテム欄からリョウタに使ったヒーリングポットを取り出す。きっとできるのは少しでも落ち着かせてあげることぐらいだった。

「おい、これはどういう状況なんだ?」

 何を言っているのかわからない笹寺は俺に尋ねてきた。笹寺から見たら奇妙な行動をしている女性達にしか見えないだろう。

「すみません。少し仲間を見ててもらってもいいですか?」

「わかりました」

 ドワーフに桃乃が起きた時に声をかけるように頼む。

 俺は集落の外に出ることにした。

 涼しい風が髪をなびかせる。大きくため息をつくと、自然と気分が落ち着いてきた。

「それであの人達はどうしたんだ?」

 後ろからついてきた笹寺は彼女達の行動が気になって仕方ないのだろう。

「あのオークという人間みたいな魔物に捕まって、子供を産むための道具や奴隷として扱われていたんだ」

「はぁん!?」

「俺も今回ばかりどうしたらいいかわからない」
 
 今回ばかりは何もできなかった。魔法も使えなければ彼女達の現状を解決することもできない。

 自動アイテム生成でも流産させるようなアイテムはもちろんない。

 下ろすことができないのなら、彼女達はオークの子を産まなければならないということだ。

「なぁ、この世界ってそもそもなんだ? 魔法もわけわからないし、俺はなんで出張のために呼ばれたのにこんなところに来てるんだ」

 目の前の現状を見て笹寺も張り詰めていた緊張が解けたのだろう。

「それも説明するから、まずはオークをそのまま運ぶぞ」

「お前また何を言って――」

「いいから行くぞ! 俺達にはこれしかできることがないんだよ!」

 元々オークを食料にしていたドワーフなら、オークを運ぶことで食事の問題も解決されるだろう。だからこそ俺はオークを運ぶことにした。

 また、ゴブリン達よりも知能が高いことから、桃乃が倒したオークの死体を放置していたら、他のオーク達に警戒される可能性がある。

 俺は笹寺を無理やり集落の外に連れ出して、再びオークと戦った場所に戻ることにした。
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