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第二区画

133. どうやらただの爽やかイケメンではないようです

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 俺は桃乃から子供を預かると、すぐにドワーフの女性トラベラに回復魔法をかけていた。出産前からも散々オークに虐げられ、その後すぐに子供産むってなると母体の方が命に関わってしまう。

「見た目はオークに近いけど人間と変わりないよな」

 俺の手にはオークとドワーフのハーフの子供が気持ちよさそうに寝ている。そもそも生まれたばかりの子どもの顔はそこまで整っているわけでない。

 そうなると本当にオークとの子かも疑ってしまうほどだ。

「この子をどうするかは母親とドワーフ達の問題だからな」

 ドワーフ達を見ると、彼らはトラベラに対しては心配をしているが俺達には近づこうとはしなかった。

「助けてもらったのに巻き込んでしまってすまないね」

「いえ、大変なのはドワーフの方達ですからね」

「ああ、これからが大変です。生活していくにもいつオークが襲ってくるかわからないし、どうにかなればいいんだがね」

 自分達の無力さを理解している人の発言にどこか胸が苦しくなる。今まで何かに襲われる恐怖や生きていくのが精一杯の生活をしたことはない。

 そもそも日本にいれば生活保護制度もあるため、生きることを不安に思っても、生きていけないことはないのだ。

 俺としてもせっかく助けた命を無駄にはして欲しくはない。

「そのために生活環境は整えましょう」

 アイテムからオークの集落から持って来た実や種、そしてどうにか容器に入れることで回収できた水を取り出す。

 俺が水を取り出した瞬間にドワーフ達は集まってこちらを見ていた。

「どうぞ」

「ああ、助かる」

 すぐにドワーフ達は水を分け与えて飲んでいた。

 それだけ水も飲めない過酷な環境だったのだろうか。

「そういえば自衛のために武器も持ってきました」

 俺はついでに笹寺が持ってきた武器もドワーフ達に渡すことにした。これである一時的な環境は整ったはずだ。

 あとは今後どうやって生活するかが問題になる。

 どうするかを考えていると、治療を終えた桃乃がこっちに近づいてきた。

「先輩終わりました」

「ああ、お疲れ様。体調は大丈夫?」

「体調ですか? いつのまにか倒れてたらしいですね。記憶が少し曖昧で……それよりもなんで笹寺さんがいるんですか?」

 俺は笹寺から聞いたことをそのまま桃乃に伝えると何か桃乃は引っかかってるようだ。

「笹寺さんが異世界ですよね……」

「ああ、俺もいることが驚きなんだよな」

「俺も出張・・に来たつもりなんだけどな」

 笹寺の言葉を聞いて急にこの間見た白骨化した遺体を思い出す。あの遺体自体が本人であれば笹寺みたいな人が何人かいる可能性がある。

「今井さんって今も連絡取れるんですか?」

「いや、当時の同期がいれば確認は取れるけど誰も残ってはいないからな……あっ、緊急連絡網みたいなやつは過去のやつに残っているはずだぞ」

 念のために部署内の連絡先は会社に伝えてあり、何かがあった時には連絡できるようになっている。

 現実世界に戻ったら連絡して確認した方が良いだろう。

「それで今井さんがどうかしたのか?」

「言いにくいんですが、ここで白骨化した遺体と今井さんのカードキーを拾ったんです」

「えっ……」

「あとはここの世界と現実世界だと時間の経過が違っていて、ここの世界だと数倍早く時が進んでるんだよ」

「ってことは俺がここにきて20日ぐらいでも現実だと――」

「約3日ぐらいしか経ってないってことだな。実際出張に行くって言ったのは今週だったぞ?」

 笹寺はだんだんと今の現状を理解したのか、顔をしかめている。

 出張と言われてついた先が異世界なら、もし現実世界に戻れたら仕事には復帰できないだろう。

 会社の中には異世界に送れる人物がいるからだ。

 俺達はこの時、異世界への精通者がいることを忘れていた。

「帰る方法はあるだろうし、俺達のクエストは終わったから一度笹寺が帰る方法を探そうか」

 どうやら笹寺は混乱しているのだろう。いつも賑やかなやつが、珍しく静かだと怖い。

 会社に復帰したばかりなのに、自分がゴミのように簡単に捨てられるとなれば俺でも耐えられない。

「まぁ、そんなに考え――」

「えーっと、それで何か問題あるのか?」

「へっ!?」

 俺と桃乃は声を揃えて驚いた。

「いやー、とりあえず難しい話をしていたのはわかるぞ?」

「ひょっとして今までのしかめっ面って――」

「ああ、お前達が何を言ってるかさっぱりだったわ!」

 異世界に来ても笹寺のバカは健在だった。ここまでバカだからこそ、異世界で生き延びれたのだろう。

「ってか砂漠に無料で来れたし、ひょっとしたら俺もももちゃんみたいに魔法が使えるかもしれないってことだとよな?」

「あー」

 その質問に関しては俺からは答えられない。

 魔法が使えても、植物を少しばかり成長させることができる力だ。

 地味に便利だけど、戦うには適していない。

「多分大丈夫だと思いますよ」

 桃乃の答えを聞いて笹寺は喜んでいた。

 桃乃よ、無責任なことは言ってはいけないぞ。

 この俺でもちゃんとした魔法が使えないんだからな。

「俺もやってみたいな! 俺に宿し魂よ! 勝利は我が手に! 荒れ狂う弾幕オーバーワールド・・・・・・・・!!」

 笹寺は空に手を突き立てて痛々しいセリフを解き放った。

「プッ! なんだそれ!」
「ふふふっ」

 隣で桃乃は必死に笑いを堪えている。誰でもいきなりこんなことをされたら笑ってしまう。

「だって異世界って言ったら男のロマンだろ!」

 どうやら爽やかバカイケメンだと思っていたが、厨二病も持っていたとは……。
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