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第二区画

151.オークの成長

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「私達は慧さんがハンマーを見つけてくださった集落に住んでいました。元々魔物は食べていましたが、私達を襲わない限りは必要以上に狩ることもないですし、基本的には私達種族は共存を目指しています」

 以前サンドワームなど虫系の魔物や実を中心に食べていたという話を聞いていた。

 ドワーフの種族的な特徴なんだろうと思っていたが、サンドワームは誰彼構わず襲うため、無駄にしないように食べていたらしい。

「それまでオーク達は私達を恐れているのもあり、基本的には集落に近寄ることはありませんでした。しかし、その日だけは突如オーク達が私達の集落に攻めてきて……。あの日はとても暗く静かに寝静まっている夜でした」

「私達は必死に抵抗しましたが、彼らは妙に興奮していて、いつもの穏やかな姿はなかったです」

「オークって穏やかな奴らだったのか?」

 俺の問いにドワーフ達は頷く。そもそも繁殖行為もオークだけで行っており、ドワーフと関わろうとしなかったらしい。

 ドワーフに会ってもすぐに逃げていくため、ドワーフ達も特に気にするような存在じゃなかった。

「ある日、獰猛なオークを中心に私達は捕まり、その場で女性は襲われました。エルデスとリズウィンもその一人です」

 親の目の前で子どもが男に襲われるとか、考えただけで発狂ものだ。

 突如現れたオーク達に攻め込まれた集落は瞬く間にオーク達に占拠された。夜の寝付いているタイミングで襲われたドーリ達は抵抗をするも、戦う準備をしておらず、そのまま捕まった。

 その後は、オークの集落に捕まったことで彼らの生活がより人間に近づいていることに気づいた。

 以前よりオークの知能が高くなったことを感じ、さらに上位個体が現れたことを知る。

 ドワーフの話では魔物は統率者となる上位個体が現れると、今までと異なる存在になるらしい。

 それが魔物の進化と呼ばれる新しい個体の誕生だ。

「慧さんが助けてくださるまでは奴隷のような生活でした。見た通り男は力を使ってオーク達の雑用をするか、鬱憤を晴らす道具として使われる。一方の女性は子孫繁栄の道具として使われていました」

 実際にその場で見てはいるが、直接聞く話は壮絶すぎて聞くに堪えない。

 食事は与えてもらうことも少なく、優しいオークの主人であれば、死なない程度には何か食べていたらしい。それでも、死んでしまえば外に捨てられるだけだった。

 一方、女性は子供を産むために、食事が与えられていた。

 それでも最低限の食事で餓死する人も多かった。

 無理やりオークの体液を飲まされて、生きていた人もいる。

 お腹が膨れていたのも、子どもを孕っているだけではなく、低タンパク血症で腹水が溜まっていたのかもしれない。

 オークはそれを防ぐために、タンパク質である自身の体液を与えていた。

 考えただけでも吐き気が止まらない。

 あの時、女性である桃乃が襲われなくてよかったと心の底から思う。

 俺は強くなったと思っていたが、この世界のことを甘く見ていたようだ。

「話はこれぐらいで辞め――」

「いえ、続けてください」

 俺はその後もドーリの話を聞いた。オークを指揮している者をオークジェネラルと呼んでいるらしい。他のオークよりも体型や知能も変化して、完全にオークとは異なる別の個体に近い。

 そんなオークジェネラルにも唯一逆らうことができない存在がいた。

 それが"SM嬢"と俺が呼んでいる存在だ。

 彼女はオークジェネラルを奴隷のように扱うことで、オーク達を操って指示を出していたらしい。

 ドーリの話では彼女がオークジェネラルに知識を与え、人間のような生活をさせていると言っていた。

「ということはオークジェネラルを倒しても、このままだと変わらないということですか?」

「多分そうなると思います。そもそもオークジェネラルという存在もあまり聞いたことがなかったので、彼女が影響していると思います」

 オークを成長させている人物自体をどうにかしない限りは変わらない。倒してもどんどん強い魔物が生まれてくるだろう。

「辛いことを教えてくださってありがとうございます」

「いえいえ、何か手伝えることがあれば言ってください」

 話が終わると俺は部屋から出ることにした。気づいた時には、笹寺が居なくなっていたのだ。

 俺は笹寺を探しに行くと、奥にある工房で何かを見ていた。きっとドーリが使っている鍛冶場なんだろう。

「おい、勝手に何やってるんだ」

「うひょ!?」

 突然声をかけられた笹寺は驚いていた。そんなにやましいことをしていたのだろうか。

「ああ、慧か」

「何かあったんか?」

「いや、俺のスキルでもう少し武器を強化できないかなって」

 笹寺はドーリが作ったであろう剣の細かい作りを見ている。

「ならドーリさんに教えてもらえばいいさ」

 俺の後ろにちょうど隠れて見えにくいがドーリはしっかり後ろに待機している。

「こりゃー、いろんな意味で鍛えないといけないな?」

 ドーリは自身の鍛冶場に勝手に入られたのが気に食わなかったのか後ろで怒っていた。他人の家だし、個人のスペースをジロジロ見られて良い気もしないだろう。

「よろしくお願いします」

 俺は笹寺を掴み、ドーリに差し出す。ドーリの顔はにやりと笑う姿は、どこかベンと似ていた。
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