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第二章 君は宰相になっていた
39.聖男、修羅場を経験する
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きっと傍から見たら修羅場だろう。
テーブルを挟んで、僕はルシアンの婚約者であるアリスに睨まれていた。
「ねぇ、なぜルシアンはこっちに座ってるの?」
「こっちに座るのは当たり前だろ?」
「はぁー」
修羅場に全く気づいていない男が僕の隣にいる。
普通はアリスの隣に座るかと思ったが、僕に寄りかかるように座り出した時はびっくりした。
すぐにその場から逃れようとしたが、しっかりと腰を掴まれてソファーから立つことも許されない。
「ねぇ、あなたはルシアン様の何なの!」
あぁ、明らかにアリスは怒っているぞ。
目の前で夫が知らない奴の腰に手を回して、頭をコツンと肩に乗せているのを見たら、怒るのは仕方ない。
僕も怒りたい……いや、怒ったけどルシアンが離れてくれないからね。
「えーっと、僕はルシアンの友――」
「大事な人だ!」
「おいおい!」
ルシアンの言葉は確実に間違っている。
アリスはさっきよりも顔が怒っているからな。
「ルシアン様は私の大事な人です」
「そそそ、そうですよね」
「みにゃとは俺の大事な人だぞ」
「それは違います」
僕はすぐに否定をする。
まずは直ちにこの場を落ち着かせることが重要なことだからね。
まさか異世界に来てまで、修羅場を経験するとは思ってもいない。
「ねぇ、みにゃと冷たいよ?」
ルシアンは僕の頬を掴み、無理やり顔を引っ張られる。
眉が垂れ下がり、悲しそうな顔をするが、そんな顔をしてもダメなものはダメだぞ。
可愛い顔をしても騙されないからな!
「あなたたち……さっきから距離が近いわよ!」
「ごもっともです。すみません」
すぐに離れようとするが、ルシアンがガッチリホールドしてて動けない。
「それであなたは誰なのよ」
「えーっと、橘湊って……」
「えっ……あなたがミナトなの!」
なぜか婚約者は驚いていた。
この様子だとルシアンは事前に話していたのだろう。
ジーッと見つめて、どこか品定めされているような気がした。
「普通の男ね」
「おい、それ以上言うと追い返すぞ」
ルシアンの冷たい視線がアリスを突き刺す。
もう……この空気がしんどすぎる。
早くこの場から立ち去りたい。
浮気をしているつもりはないけど、こんなに心苦しいとは思わなかった。
「あの……僕は出てきますので……」
「何でみにゃとが出て行くんだ! アリスを今すぐ帰らせろ!」
ルシアンの言葉に執事やメイドが部屋に入り、アリスを帰そうと強く掴む。
アリスも帰りたくないのか必死に抵抗していた。
「ルシアン、やめろ! 女性にそんなことするなんて最低だぞ!」
「みにゃと……」
僕はルシアンを突き放し、アリスの元へ駆け寄る。
「手を放してください!」
僕の言葉に執事やメイドの動きが止まった。
その瞬間に僕はアリスを引っ張る。
「大丈夫ですか? ケガはないです?」
「なによ……」
今にも泣きそうな顔のアリスに僕はどうすることもできない。
ただ、僕の存在がこの場で邪魔なのはわかっている。
「俺のことが嫌いなのか……」
ルシアンも泣きそうな顔をしている。
あのキリッとして強そうな宰相の姿はどこにいったのだろうか。
きっと今のルシアンを見たら、誰も怖がらないぞ。
「僕は二人の邪魔をしたくないだけです! ルシアンもまずは婚約者を大事にして!」
僕は大きな声で叫ぶ。
もう僕だってこんなこと口に出したくはないよ。
でも二人の邪魔をするつもりはないからね。
だが、ルシアンとアリスはその場で呆然としていた。
「「婚約者……?」」
「だって、二人とも同じような指輪を着けているじゃん!」
二人とも左手の薬指を見ると、クスリと笑っていた。
「ああ、そういうことか」
「ミナトは天然なのね」
殺伐としていた空気が一瞬にして穏やかになる。
ルシアンはなぜか手を口元に当てて、ニヤニヤしているし、アリスはどこか呆れている。
「みにゃと、俺とアリスは婚約者ではないよ」
そう言ってルシアンは何かを唱えると、指輪が輝き出す。
その手には剣が握られていた。
まるで魔法みたいな光景に僕は驚いた。
「これは換装の指輪と言って、武器や防具が入っているのよ」
そう言って、アリスも呪文を唱えると細めの剣を握っていた。
あれ……ひょっとして僕は勘違いしていたのだろうか。
「えーっと、ルシアンの婚約者はアリスさん……」
ルシアンの顔を見ると、大きく首を振っていた。
チラッとアリスを見ても同じだ。
「ごめんなさい」
僕がその場で謝ると、二人は笑っていた。
「いやー、俺はみにゃとに嫉妬してもらえて嬉しいけどね。俺は婚約者なんていないし、みにゃとがいれば他はいらないよ」
さらっと甘い言葉を放つルシアンに恥ずかしくなってくる。
ただでさえ勘違いして恥ずかしいのに。
「それにアリスはまだ子どもだよ」
「そうよ。私はこれでも10歳よ?」
「10歳!?」
やはりこの世界の子どもは成長が早いようだ。
10歳といえばルシアンが学園に行く話をしていた時と同じだ。
ルシアンは通算すると数年程度、日本にいたことになるから成長も遅い方だって――。
「勘違いしてごめんなさい」
うん……あの成長の早さなら、アリスを婚約者として勘違いしちゃうよね。
僕は再び二人に謝った。
でも、それと同時にルシアンに婚約者がいなかったことにホッとする自分がいた。
テーブルを挟んで、僕はルシアンの婚約者であるアリスに睨まれていた。
「ねぇ、なぜルシアンはこっちに座ってるの?」
「こっちに座るのは当たり前だろ?」
「はぁー」
修羅場に全く気づいていない男が僕の隣にいる。
普通はアリスの隣に座るかと思ったが、僕に寄りかかるように座り出した時はびっくりした。
すぐにその場から逃れようとしたが、しっかりと腰を掴まれてソファーから立つことも許されない。
「ねぇ、あなたはルシアン様の何なの!」
あぁ、明らかにアリスは怒っているぞ。
目の前で夫が知らない奴の腰に手を回して、頭をコツンと肩に乗せているのを見たら、怒るのは仕方ない。
僕も怒りたい……いや、怒ったけどルシアンが離れてくれないからね。
「えーっと、僕はルシアンの友――」
「大事な人だ!」
「おいおい!」
ルシアンの言葉は確実に間違っている。
アリスはさっきよりも顔が怒っているからな。
「ルシアン様は私の大事な人です」
「そそそ、そうですよね」
「みにゃとは俺の大事な人だぞ」
「それは違います」
僕はすぐに否定をする。
まずは直ちにこの場を落ち着かせることが重要なことだからね。
まさか異世界に来てまで、修羅場を経験するとは思ってもいない。
「ねぇ、みにゃと冷たいよ?」
ルシアンは僕の頬を掴み、無理やり顔を引っ張られる。
眉が垂れ下がり、悲しそうな顔をするが、そんな顔をしてもダメなものはダメだぞ。
可愛い顔をしても騙されないからな!
「あなたたち……さっきから距離が近いわよ!」
「ごもっともです。すみません」
すぐに離れようとするが、ルシアンがガッチリホールドしてて動けない。
「それであなたは誰なのよ」
「えーっと、橘湊って……」
「えっ……あなたがミナトなの!」
なぜか婚約者は驚いていた。
この様子だとルシアンは事前に話していたのだろう。
ジーッと見つめて、どこか品定めされているような気がした。
「普通の男ね」
「おい、それ以上言うと追い返すぞ」
ルシアンの冷たい視線がアリスを突き刺す。
もう……この空気がしんどすぎる。
早くこの場から立ち去りたい。
浮気をしているつもりはないけど、こんなに心苦しいとは思わなかった。
「あの……僕は出てきますので……」
「何でみにゃとが出て行くんだ! アリスを今すぐ帰らせろ!」
ルシアンの言葉に執事やメイドが部屋に入り、アリスを帰そうと強く掴む。
アリスも帰りたくないのか必死に抵抗していた。
「ルシアン、やめろ! 女性にそんなことするなんて最低だぞ!」
「みにゃと……」
僕はルシアンを突き放し、アリスの元へ駆け寄る。
「手を放してください!」
僕の言葉に執事やメイドの動きが止まった。
その瞬間に僕はアリスを引っ張る。
「大丈夫ですか? ケガはないです?」
「なによ……」
今にも泣きそうな顔のアリスに僕はどうすることもできない。
ただ、僕の存在がこの場で邪魔なのはわかっている。
「俺のことが嫌いなのか……」
ルシアンも泣きそうな顔をしている。
あのキリッとして強そうな宰相の姿はどこにいったのだろうか。
きっと今のルシアンを見たら、誰も怖がらないぞ。
「僕は二人の邪魔をしたくないだけです! ルシアンもまずは婚約者を大事にして!」
僕は大きな声で叫ぶ。
もう僕だってこんなこと口に出したくはないよ。
でも二人の邪魔をするつもりはないからね。
だが、ルシアンとアリスはその場で呆然としていた。
「「婚約者……?」」
「だって、二人とも同じような指輪を着けているじゃん!」
二人とも左手の薬指を見ると、クスリと笑っていた。
「ああ、そういうことか」
「ミナトは天然なのね」
殺伐としていた空気が一瞬にして穏やかになる。
ルシアンはなぜか手を口元に当てて、ニヤニヤしているし、アリスはどこか呆れている。
「みにゃと、俺とアリスは婚約者ではないよ」
そう言ってルシアンは何かを唱えると、指輪が輝き出す。
その手には剣が握られていた。
まるで魔法みたいな光景に僕は驚いた。
「これは換装の指輪と言って、武器や防具が入っているのよ」
そう言って、アリスも呪文を唱えると細めの剣を握っていた。
あれ……ひょっとして僕は勘違いしていたのだろうか。
「えーっと、ルシアンの婚約者はアリスさん……」
ルシアンの顔を見ると、大きく首を振っていた。
チラッとアリスを見ても同じだ。
「ごめんなさい」
僕がその場で謝ると、二人は笑っていた。
「いやー、俺はみにゃとに嫉妬してもらえて嬉しいけどね。俺は婚約者なんていないし、みにゃとがいれば他はいらないよ」
さらっと甘い言葉を放つルシアンに恥ずかしくなってくる。
ただでさえ勘違いして恥ずかしいのに。
「それにアリスはまだ子どもだよ」
「そうよ。私はこれでも10歳よ?」
「10歳!?」
やはりこの世界の子どもは成長が早いようだ。
10歳といえばルシアンが学園に行く話をしていた時と同じだ。
ルシアンは通算すると数年程度、日本にいたことになるから成長も遅い方だって――。
「勘違いしてごめんなさい」
うん……あの成長の早さなら、アリスを婚約者として勘違いしちゃうよね。
僕は再び二人に謝った。
でも、それと同時にルシアンに婚約者がいなかったことにホッとする自分がいた。
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