異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第二章 君は宰相になっていた

40.聖男、異世界でホットケーキを作る

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「みにゃとは俺を傷つけて謝るだけ?」

 ルシアンがニヤニヤと僕の顔を見てくる。
 明らかに何か企んでいるのだろう。
 小さい頃のルシアンはいじわるなんてしなかったのにな……。

「わかったよ……」
「何を――」
「ホットケーキ作ってあげる!」
「ふぇ……?」

 僕は急いで立ち上がりキッチンに向かう。
 さすがにこの場にいるのは、少し恥ずかしいからね。
 現場から逃亡するに限る。
 なのに――。

「なんで……ルシアンもきてるの。それにアリスさんも」
「だって、みにゃと迷子になってたじゃん」
「うっ……」

 いざキッチンに向かおうとしたら、屋敷が広くてどこにあるのかわからなかった。
 屋敷の廊下は長いし、扉が全て同じ扉だから迷子になるのは仕方ない。
 結局追ってきたルシアンに運ばれて厨房に連れて行かれた。
 相変わらず抱えられて運ばれるのは何でだろうか……。

 それに宰相の屋敷になると、キッチンじゃなくて厨房レベルなんだね。
 どうやらここで使用人も含めて、食事を作っているらしい。

「ねぇ、私のことはアリスでいいわ」
「わかっ――」

 話している途中でルシアンに引き寄せられて、後ろから口を塞がれる。

「なぜ、お前まで来てるんだ?」
「だって、私だってミナトさんのホットケーキ食べたいんだもん!」

 アリスは見た目が大人ぽくても、思ったよりも中身が子どもだった。
 10歳だとほぼ子どもだもんね。
 それよりも――。

「るちあん! くるじい!」

 大きな手のルシアンに殺されるところだった。
 手で覆われると鼻と口が塞がれるからね。

「ふふっ、可愛いね」
「可愛らしいわね」

 そう言って、ルシアンに強く抱きしめられる。
 色々と恥ずかしくなってくるし、力も強いから僕はすぐに隙間から逃げる。

「あんまりいじめると、ホットケーキ作らないよ!」
「「えー!」」

 どうやらいじめている自覚はあるのだろう。
 それにホットケーキが食べられないとわかり、二人ともおねだりするように見つめてくる。

「うっ……わかったよ」

 僕は渋々、ホットケーキを作ることにした。

「ミナトさんって思ったよりもチョロ……可愛いわね」
「みにゃとは俺のだぞ!」

 後ろでルシアンとアリスは歪みあっていた。
 兄妹だと知ったら、ただの兄妹喧嘩にしか見えない。
 きっと帰すって言ってたのも、よくあることなのかもしれないね。
 心配して損しちゃった。

「あのー、小麦粉と卵、牛乳とかはありますか?」

 僕が伝えると料理人の方が用意してくれた。
 そういえば、マヨネーズを食べて騎士たちが体調を崩していたけど……。

「ねぇ、ルシアン。卵ってどうやって扱ってる?」
「あぁ、基本的には水洗いをしてるぐらいだな」
「あー、そういうことね。ルシアンが作ってるマヨネーズって卵を少し加熱してる?」

 僕の言葉にルシアンは驚きながら頷いている。
 割と料理が好きな僕は一度卵について調べたことがある。
 もちろん医学的なことを含めて、課題になったことがあるからね。

「卵って洗って放置すると菌が中に入りやすくなるから、消毒やしっかり加熱しないと危ないからね」

 卵は水洗いのみだと、保護している膜が壊れて菌が入りやすくなる。
 特にサルモネラ菌は騎士たちに出ていた症状と同じだから、管理がちゃんとできてなかったのだろう。
 殻が卵に触れないように注意して卵を割る。
 スプーンで卵黄のみ別のお皿に移す。

「みにゃと、いつものホットケーキと違うよ?」
「この世界にホットケーキミックスってないでしょう?」
「うん……。だから、作ってみたけど真っ黒になるか薄いやつになる」

 きっとベーキングパウダーの代わりになるものを見つけられなかったのだろう。
 調理道具はある程度は揃っているから、問題はなさそう。

「はい! これルシアンの仕事ね!」

 ボウルに卵白を入れて泡立てるように伝える。
 卵を冷蔵庫から取り出したから、ある程度はメレンゲになるだろう。

「じゃあ、アリスはこっちで材料を混ぜてね」
「えっ……私もやるの?」
「やらないの?」
「やる!」

 アリスも嬉しそうにボウルに入れた材料を混ぜ合わせていた。
 ルシアンとアリスって結構性格も似ているような気がしたけど、思ったよりも似ていた。
 できた生地とメレンゲをさっと混ぜて、フライパンの上で焼いていく。

「砂糖も入っているけど……果物のジャムとかはちみつはあったりしますか?」

 料理人は少し渋い顔をしていた。

「んー、まだその辺はないかな」

 代わりにルシアンが答えてくれた。
 現状、食糧もそこまで豊富にあるわけではないようだ。
 ホットケーキには砂糖が多めに使われるが、パンケーキは食事としても使われることが多い。
 そのため、砂糖は少なめでジャムやはちみつなどで甘さを調整する。
 今回は思ったよりも素朴なパンケーキになりそうだね。
 焼き上がってきたパンケーキをひっくり返すと、プルプルと揺れていた。

「みにゃと、これもホットケーキなのか?」
「ホットケーキっていうよりは、スフレパンケーキって呼ばれているかな」

 焼き上がったパンケーキを重ねていく。
 ホットケーキに近いボリュームで焼き上がったから、見た目は美味しそうにできた。
 ふわっと甘い香りが広がり、二人とも僕を挟んでギュッと押してくる。
 よほど早く食べたいのだろう。

「ミナトさんってすごいわね」
「でしょ! みにゃとはすごいんだから!」

 なぜかルシアンが威張っているが、これぐらいは工夫したらいくらでも作れるんだけどね……。
 今にも食べたそうにしていた二人にフォークとナイフを渡す。
 するとルシアンはそのままフォークを刺してかぶりついた。

「くくく、食べ方は変わらないんだね」
「うん……久しぶりのみにゃとの味だ」

 嬉しそうに食べている姿を見ていると、ついつい僕も笑顔になってしまう。
 体は大きくなっても、隣にいるルシアンは昔の無邪気なままだった。
 ただ、妹のアリスが見ている前でその食べ方をするのは良くなかったね。
 アリスも同じようにフォークを刺してかぶりついていた。
 貴族の令嬢なのに、厨房に立ちながら食べて……まぁ、気にしない日があってもいいのかもね。
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