異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第二章 君は宰相になっていた

44.聖男、常識の違いを知る

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 目の前にはこの国の国王と騎士団長がいる。
 それを知った途端、どこか緊張感が走る。
 だけど、今はそれどころじゃない。

「あのー、病み上がりなので体を休ませてくださいね? また症状をぶり返すか、もっと悪くなりますよ?」

 僕はボソッと呟くと、全員の視線が向けれた。
 騎士たちは顔色を変え、すぐにベッドに入り横になった。

「ははは、ミナトくんよ! 君は面白いやつだ!」
「へっ……?」

 ユリウスは僕の肩をバシバシと叩く。
 国王ってもっと威厳がある人だと思ったが、フランクな人だった。

「こいつらは基本言うことを聞かないからな」
「ヴォルフラムの言う通りだ」
「俺は騎士団長のヴォルフラムだ。こいつらを助けてくれてありがとう」

 一際大きな男に頭を下げられ、思わず僕はビクッとしてしまった。
 目の前に大きな壁が現れたような感じだからね。

「騎士団長、聖男をいじめないでくださいよ!」
「俺らの聖男なんですからね!」

 ベッドで寝ている騎士がヴォルフラムに文句を言っている。
 それだけ騎士団長と騎士の距離感も近いのだろう。
 良い職場環境なんだね。

「僕は様子を見てきますね」

 少し居心地の悪くなった僕は寝ている騎士たちに近づいていく。

「体調は問題ないですか? 吐き気があったり、熱があったりとかはないですか?」
「この通りで元気だぞ!」

 騎士は力こぶを作り、笑顔で微笑んでいる。
 本当に昨日吐いていたのかと思うほど元気だ。
 顔色も悪くないから、吐き気は落ち着いているのだろう。

「ご飯は食べれてますか?」
「あー、中々食べる気にはならないな」 
「あっ、聖男が食べさせてくれるなら、俺は食べられますよ!」
「なっ、お前ずるいぞ!」

 食事介助をしてもらいたいのだろうか?
 それぐらいならよくやっていたから僕でもできる。

「食事介助が必要なら僕がやりましょうか?」
「「「へっ……?」」」

 なぜかその場から静かになる。
 食事介助ってそんなに禁忌なんだろうか。
 首を傾げていると、アシュレイが肩を叩き小声で話しかけてくれた。

「ミナト様、今の言葉には婚約の意味も含まれていますよ」
「えっ……えええええ!」

 あまりにもびっくりして、僕の声が部屋いっぱいに広がる。
 その様子を見て、国王を含めみんなニコニコとしていた。
 どうやら知らなかったのは僕だけのようだ。
 きっと食べさせるのがいけないのだろう。

「それなら代わりに食べやすい料理を作りますね! 食べさせるのはできません!」

 昨日食べたものを食べているとしたら、食事自体が美味しくない可能性もある。
 体調が悪い時は特に食欲が落ちやすいからね。
 僕はチラッとアシュレイを見ると、耳元で再び呟いた。

「ミナト様、作ってあげることがそもそもプロポーズになります」
「すみません! 婚約はできません!」

 僕はすぐに謝った。
 なぜ、今までルシアンは何も言わなかったのだろうか。
 それにアシュレイとアリスも僕のご飯を食べている。
 僕って尻軽な男だと思われているのか?

「ははは、ミナトくんは面白い子だね。未成年に聖男と手料理はプロポーズとしての決まり文句だよ」

 国王の言葉に僕はホッと胸を撫で下ろす。
 それなら僕は関係なさそうだ。

「よかったです。僕は未成年ではないので……」
「「「えっ……?」」」

 なぜか部屋は音一つなく静かになる。
 今までの中では一番静かで、唾液を飲む音がはっきりと聞こえるほどだ。
 それに驚いていたのは、アシュレイも同じだった。

「ミナトくんは今……いくつなんだ?」
「僕ですか? 今年で28歳になりました」
「「「うえええええ!」」」

 騎士たちの驚いた声に僕は耳を塞ぐ。
 ……全然元気じゃん!
 ご飯が食べられないのも嘘のような気がしてきた。

「私よりも年上なのか……」
「これは詐欺だ……」
「本当に聖男なんじゃないのか……」

 どうやら僕はこの世界では若く見えるのだろう。
 アリスもまだ学園に通ってなくても大人ぽかったからね。
 日本人って比較的童顔が多いし、身長も低いから仕方ない。

「そういえば、みなさんがさっきから言う〝聖男〟ってなんですか?」

 僕は近くいるアシュレイに聞いてみた。
 この世界に来て、ちょくちょく耳にする言葉だ。
 何か意味のある言葉だとは思うが、今の僕には見当がつかなかった。

「それはルシアン様に聞いた方が良いと思います」

 アシュレイはその場で悩んでいたが、結局教えてもらえなかった。
 その後も騎士たち全員の容態を確認したが、症状が残っている者は誰もおらず元気そうだ。
 ただ、揃って脈拍が高かったのは、騎士たちがさっきまで動いていたからだろうか。
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