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29 ゲームと現実の乖離
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「こんな感じで報復したんです。当時の惨状を見て、わたしの親世代はこのまま馬鹿な王子たちに国を任せたら滅亡すると痛感したようですね」
他人事のようにソフィーは言うが、目の前の儚げな女性が簡単に一国を亡ぼせる力を持つことを知った双子は怯えるしかない。
「えっと……お咎めは無かったんですか?」
「逆に訊くけど、誰がわたしを罰せるというんです?」
「「ですよねー……」」
双子は揃って乾いた笑いを浮かべる。ソフィーはだらしなくソファに体をもたれかかって昔を振り返る。
「まぁ、無関係の人の暮らしを奪いたくはなかったので、恋に浮かれた馬鹿どもの所有物以外は魔法できっちり直しました。その後わたしは貴族籍を捨てて、元陛下に国立図書館の館長にしてもらって、裏切ることのない本と一緒に静かに過ごしているって感じです」
「ソフィーさんなら、憎い元婚約者がいる国なんて捨てて他国で生活もできたと思うんですけど、どうして留まったんですか」
ナナの問いかけに、ネネも頷く。
ソフィーは深くため息を吐いた。
「……こんなくそくらえな国でも、前世のわたしが愛した場所ですからね。無力なわたしは頭がお花畑としか思えないふわっふわなストーリーに救われていました。だったら、わたしの行為が大好きだったシナリオにどう影響するのか見届けたいと思った。……それだけです」
それでも、元婚約者の話が嫌でも聞こえてくるこの国にいるのは苦痛だったけど、とソフィーは気だるげに呟いた。
だが突然起き上がり、双子の肩をぎゅっと掴んだ。二人をじっと見つめるその表情は、誰かの面影を探しているようだった。
「でもね、ある日わたしの人生に光が差したの。とってもかわいい、愛しい教え子に出会えて、わたしは生きるのが苦しくなくなりました」
「それって」
「お姉ちゃん?」
ソフィーの顔が、声が、甘く蕩ける。
「まだ五歳くらいだったでしょうか? たまたまカウンターに出ていたわたしに赤髪の女の子が近づいてきて、『ごほんのよみかた、おしえてください』って。身なりはずいぶんみすぼらしかったですが、天使みたいにかわいかったから、一目でヒロインだと分かりました。あんまりにかわいかったから、わたしは決意したんです」
急変ぶりに慄く双子はソフィーから距離を取ろうとするが、がっしり掴む手がそれを許さない。
「恋なんてくだらないものからこの子の人生を守るために……一人で生き抜ける力をつけさせてあげようって」
「あー……」
「それで、あんな原作とかけ離れたスペックに……」
「ちなみに、サシャちゃんが恋愛に夢なんて見ないように、心中やら不倫やらの泥沼な恋愛ものしか読ませなかったのも、今の彼女がある原因ですかね」
「「教育に悪い!」」
大切な姉に何を教えているんだと抗議する双子などどこ吹く風で、ソフィーは目を細める。
「ま、わたしが直々に教えたサシャちゃん以外のキャラも、皆かなり違う風に育ちましたが。『白の災害』以降、元陛下たちが熱心に教育したんでしょうね」
双子は顔を見合わせた。二人は先ほど見た攻略対象たちがそんなにゲームと違うという印象を受けなかった。
「じゃあ、オルドルートでお気に入りのエピソードを教えてくれます?」
「え? えっと……ヒロインと想いが通じ合ったけど、殿下がヒロインに恋しているのも知っていて、恋と忠義の板挟みになって苦しむオルド様のシーンとか、良かったけど。嫉妬に狂った殿下から逃げるために、二人で他国に駆け落ちするとことか感動的で――」
「才能ある貴重な兵を私情で排除する王族も、それを諫めない臣下も大問題ですよね。恋人のために祖国を捨てるなんて、国を守る者としての義務感が欠如してると言わざるを得ないかと」
「うっ」
好きなルートをばっさり否定されて、ナナは胸を押さえた。
「リアムルートは?」
「んー……商家の跡取りに生まれたけど、画家になる夢を捨てきれなかったリアム様の苦悩を知って、ヒロインがリアム様のご両親を説得するシーンが、二人の絆の強さを示していていいなぁって。町のはずれの小さな家で、ヒロインが献身的にリアム様を支えるスチルとか、とっても幸せそうで――」
「自分の夢くらい自分で伝えてほしいですよね。しかも結局両親の援助をもらっているのがダサいし。それに、ただの金持ちのボンボンならそんな生き方も許されたかもしれないですが、レンブラント家は王家の諜報部門を担う家なのに、何甘ったれてんだって話ですよ」
「ぐっ……ていうか、リアム様にそんな設定があったの⁉︎」
色んな衝撃を受けているネネを横目に、ソフィーは目を伏せた。
「極めつけは、アルフレッドですよね……」
他人事のようにソフィーは言うが、目の前の儚げな女性が簡単に一国を亡ぼせる力を持つことを知った双子は怯えるしかない。
「えっと……お咎めは無かったんですか?」
「逆に訊くけど、誰がわたしを罰せるというんです?」
「「ですよねー……」」
双子は揃って乾いた笑いを浮かべる。ソフィーはだらしなくソファに体をもたれかかって昔を振り返る。
「まぁ、無関係の人の暮らしを奪いたくはなかったので、恋に浮かれた馬鹿どもの所有物以外は魔法できっちり直しました。その後わたしは貴族籍を捨てて、元陛下に国立図書館の館長にしてもらって、裏切ることのない本と一緒に静かに過ごしているって感じです」
「ソフィーさんなら、憎い元婚約者がいる国なんて捨てて他国で生活もできたと思うんですけど、どうして留まったんですか」
ナナの問いかけに、ネネも頷く。
ソフィーは深くため息を吐いた。
「……こんなくそくらえな国でも、前世のわたしが愛した場所ですからね。無力なわたしは頭がお花畑としか思えないふわっふわなストーリーに救われていました。だったら、わたしの行為が大好きだったシナリオにどう影響するのか見届けたいと思った。……それだけです」
それでも、元婚約者の話が嫌でも聞こえてくるこの国にいるのは苦痛だったけど、とソフィーは気だるげに呟いた。
だが突然起き上がり、双子の肩をぎゅっと掴んだ。二人をじっと見つめるその表情は、誰かの面影を探しているようだった。
「でもね、ある日わたしの人生に光が差したの。とってもかわいい、愛しい教え子に出会えて、わたしは生きるのが苦しくなくなりました」
「それって」
「お姉ちゃん?」
ソフィーの顔が、声が、甘く蕩ける。
「まだ五歳くらいだったでしょうか? たまたまカウンターに出ていたわたしに赤髪の女の子が近づいてきて、『ごほんのよみかた、おしえてください』って。身なりはずいぶんみすぼらしかったですが、天使みたいにかわいかったから、一目でヒロインだと分かりました。あんまりにかわいかったから、わたしは決意したんです」
急変ぶりに慄く双子はソフィーから距離を取ろうとするが、がっしり掴む手がそれを許さない。
「恋なんてくだらないものからこの子の人生を守るために……一人で生き抜ける力をつけさせてあげようって」
「あー……」
「それで、あんな原作とかけ離れたスペックに……」
「ちなみに、サシャちゃんが恋愛に夢なんて見ないように、心中やら不倫やらの泥沼な恋愛ものしか読ませなかったのも、今の彼女がある原因ですかね」
「「教育に悪い!」」
大切な姉に何を教えているんだと抗議する双子などどこ吹く風で、ソフィーは目を細める。
「ま、わたしが直々に教えたサシャちゃん以外のキャラも、皆かなり違う風に育ちましたが。『白の災害』以降、元陛下たちが熱心に教育したんでしょうね」
双子は顔を見合わせた。二人は先ほど見た攻略対象たちがそんなにゲームと違うという印象を受けなかった。
「じゃあ、オルドルートでお気に入りのエピソードを教えてくれます?」
「え? えっと……ヒロインと想いが通じ合ったけど、殿下がヒロインに恋しているのも知っていて、恋と忠義の板挟みになって苦しむオルド様のシーンとか、良かったけど。嫉妬に狂った殿下から逃げるために、二人で他国に駆け落ちするとことか感動的で――」
「才能ある貴重な兵を私情で排除する王族も、それを諫めない臣下も大問題ですよね。恋人のために祖国を捨てるなんて、国を守る者としての義務感が欠如してると言わざるを得ないかと」
「うっ」
好きなルートをばっさり否定されて、ナナは胸を押さえた。
「リアムルートは?」
「んー……商家の跡取りに生まれたけど、画家になる夢を捨てきれなかったリアム様の苦悩を知って、ヒロインがリアム様のご両親を説得するシーンが、二人の絆の強さを示していていいなぁって。町のはずれの小さな家で、ヒロインが献身的にリアム様を支えるスチルとか、とっても幸せそうで――」
「自分の夢くらい自分で伝えてほしいですよね。しかも結局両親の援助をもらっているのがダサいし。それに、ただの金持ちのボンボンならそんな生き方も許されたかもしれないですが、レンブラント家は王家の諜報部門を担う家なのに、何甘ったれてんだって話ですよ」
「ぐっ……ていうか、リアム様にそんな設定があったの⁉︎」
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