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第二章
6案山子
しおりを挟む部活も仕事も無い放課後、明日は土曜で休日。
週末だからと大目に出された宿題を片づけてしまおうと図書館にいた時のことだった。
金曜日の閉館直前の図書館には俺以外の利用者どころか何故か図書委員すらいなかった。司書の先生は今日出張中という事は知っていたが代わりに図書委員ぐらいいてもよさそうなのだが……。まぁ閉館時には戸締りにくるだろう。
冬も間近なこの時期は5時を過ぎれば外も鮮やかなオレンジ色で、開けっ放しにしていた窓から入る風が肌寒く感じる。
そろそろ帰ろうかとシャーペンと消しゴムを筆入れにしまおうとした時、ガラっと勢いよく入口のドアが開いた。
「……っ!」
振り向けばそこには木製の猿のような仮面を被った生徒が経立っていた。
「オズ……?」
その奇妙ないでたちは俺にその存在を特定させた。
彼は走っていたようで入口から少し離れている俺にも荒い息遣いが聞こえ、肩で上下させていた。
これはどうするべきなのか思案しようとした時、入り口のその更に向こうの方から怒鳴り声のような声が聞こえた。
「どっちに行った!!」
「図書館だ!!」
ソレは聞いたことのない声だったが、お面の生徒がビクリと肩を震わせたので追われていることが分かった。
そしてその瞬間、俺はとっさに彼に声をかけた。
「カウンターの中の掃除ロッカーに隠れろ」
「っ!?」
猿面は一瞬迷う様な素振りを見せたがすぐにカウンターを飛び越え、音も立てずにロッカーの中へ入った。制服の隅が挟まることも無く開かない限りそこに人がいるとはバレないだろう。
そして、俺は椅子から立ち上がり驚いた様な表情を作って開いている窓の方にゆっくりと歩いた。
少しして、予想通り後ろから声がかけられた。
「おい! そこの生徒!!」
「は、はいっ……!?」
肩をビクリと震わせ勢いよく振り返る。と、そこには腕に風紀と書かれた腕章をつけた二人の上級生がいた。
「何でしょうか……?」
状況が分からず面喰っているフリをすれば二人は駄目だ、と呆れた顔をした。
「今此処に案山子が来ただろう、どこへやった?」
「はい? かかし?」
今度は本当に面喰った。なんだかかしって、忍者か?
「お面を被った怪しいやつが来ただろう!?」
「あ、あの猿みたいなのですか!」
「そうだ! そいつはどこへ行った!!」
大声で怒鳴られ理不尽さを感じつつ怯えた様子で窓の方を見れば風紀委員は盛大に舌打ちした。
「何故捕まえなかった!!」
「え……いや、えっと。何ですか?」
半泣きのような表情で聞けば二人は完全に諦めた顔をしため息をついた。
どうやら上手く騙せているらしい。さすが俺、田中に勧誘されていただけはある。
「案山子はOZだ。OZは非公認組織で風紀委員が追っている。そのくらい知っておけ!」
「お、OZって……あのっ!? 学園内都市伝説じゃなくて実在するんですか!?」
「お前も見ただろう!! 変な仮面を被った生徒はOZだ。今度見つけたら捕まえるか無理なら風紀に連絡しろ。一応掲示板や報道の機関誌でアナウンスしているんだがなぁ……?」
「あ……すみません」
しっかり読んだことありませんでした、と小声で言えばまたため息を漏らされた。
更に何か言いつのろうとする上級生にもう一人の黙っていた方が口を出した。
「もういいだろう。この子も悪気があったワケじゃないんだ。ソレに、目の前に突然、翁の能面を付けた奴が現れたら怖いだろう。分かっていたとしても危険人物が現れたら逃げる方が先決だ。今回は案山子だから良かったもののコレがライオンだったらこの子の方が危なかったんだ」
「……分かったよ。とにかく、そこの……1年、だよな? 今度お面をつけた怪しい奴を見付けたら風紀に連絡しろ。分かったな!」
それだけ言い、荒々しい口調の方が携帯端末を取り出した。
「もしもし、案山子は取り逃がしました。……すみません、また図書館の窓から裏の雑木林の方に逃げたようです。……はい、わかりました」
「何だって?」
「もう追わなくていいだとさ。ったく、やってらんねぇぜ。……あ」
ポケットに携帯をねじ込むと風紀委員その1はふと思い出しように俺の方を見た。
「おい、お前」
「はい……?」
「さっきは捕まえろとか言ったが、案山子……さっき此処に来た奴とおかめの面の時だけにしろ。鬼と狐に出会ったら、逃げろ」
「あ……はい」
よく分からずにまぬけな返事をしたが、風紀委員の二人はソレを聞くと踵を返し部屋から出て行った。
二人の姿が完全に見えなくなってから俺はカウンターに向かって声をかけた。
「風紀委員は行っちゃいましたよー」
それから少しして、カタンと音を立ててロッカーが開かれお面をしたままの生徒が恐る恐る出てきた。
「はじめまして、案山子さん?」
そう声を掛ければお面を被っているので定かではないが彼は驚いた様に俺を真っ直ぐ見たのだった。
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