忘れてしまえたらいいのに(旧題「友と残映」)

佐藤朝槻

文字の大きさ
11 / 15

彼女のおとぼけ

しおりを挟む
 
 時は遡り、細川ほそかわ親子が猫西家から出たあとのこと。
 

「どうだった? うまくいった?」


 細川が窓の外を眺めていると、運転中の母が話しかけてきた。


「何が?」
「あの男の子じゃないの? 昔、猫にパンあげてた子」
「そうだよ」


 細川がうなずくと、「じゃあ」と母は続ける。


「その猫が飼い主のもとに戻った話はしたんでしょ?」
「してない」
「なぁんで! そのために会いたかったんじゃないの?」
「違う話で盛り上がっちゃった」
「そうなのぉ? どうしても話したいっていうから、わざわざ急用が入ったふりしたのに」


 細川がとぼけると、母は不満を含むため息をこぼした。


「代わりに伝えようか? あの子のお母さんの多英さんとは良くさせてもらってるし」

「いや、いい」

「そーお? でもせっかくだから、はやく教えてあげたいわ。行方不明から一ヶ月かかったからよく覚えてる」

「それは、でも……」


 細川は沈んだ表情を浮かべると、ミラー越しの母は眉根を下げて優しく笑んだ。


「飼い主さんは感謝してたわ」
「……そうだね、ママ。機会があれば伝えるよ」
「そうしてあげなさい。ところで模試の結果はどうだったの?」
「自己採点の感じだと悪くなかった」
「そう。あの男の子を見習って、今年こそ獣医学部受かるといいわね」
「……うん。頑張るね」


 明るく答えたが、内心は爆ぜていた。
 彼が誉められる対象になるのは納得いかない。野良猫に施しを与える者は許さない。
 少しは反省しているかと思ったら、のうのうと保護活動して!
 偽善者は嫌いだ。助けた気になるのは、猫にも人にも無礼だ。英雄になったつもりなら性根からへし折ってやる。

『動物関係の仕事を目指すと思ってた』

 細川は彼の言葉を思い出し、ため息を吐く。こみ上げる殺意を外へ追い出すように。

 首を動かせばキャリーバッグが視界に入る。偽善者をかばうような動きをした、嫌な猫。が、猫に罪はないし、そのような下らない理由で世話をしないなんてことはない。あの男のもとに置いておくくらいなら、引き取ってしまったほうがいいと考えただけ。

 細川は闇に溶け込む長髪を手櫛てぐしですきながら、再び窓の外に目をやった。


「偽善者は本物に勝てないんだから、すっこんでなよ」
  
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...