貞操逆転国の亡命代行

空の小説マン

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第六話 信念

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これは、過ぎ去りし人の記憶。

空から雪降る東国の片隅。
御屋敷の庭先にて、黒髪の幼い少女が、母親から白い一太刀を譲り受ける。
「いいこと?この太刀は、代々黒峰家の剣士が譲り受ける、何物をも断つことの出来る業物。
善なる者にも、悪しき者にも、握れば全てを断つ力を与える。
故に、この太刀に掛かる責任は、とても重い。
悩む日々も生まれることでしょう。
でもいつか、貴方がこの太刀を使って、何かを守りたいと望む日が来れば、
その悩みは自ずと、自分の信念に、進化を遂げるはずよ」
母親から一太刀を譲り受け、幼き少女は深々と頭を下げた。
「今日これから、貴方は黒峰家の誇り高き剣士よ。
ルィフメー王国へ行っても、日々精進なさい」
母親から激励され、少女は、決意を抱いた瞳を浮かべた。

◇◆◇◆◇◆◇

クロミネが目を覚ますと、そこは軍学校の医務室のベッドの上だった。
近くの椅子には、ロビンが腰を下ろしており、クロミネが目覚めたのに、気付いた彼は、
眠たそうな目を擦り、語りかけた。
「ようやく目覚めたか、ここは学校の医務室だ。
安心しろ、西部市街の件は、ひとまず落着した」
するとクロミネは、上体を起こし、自身の体を見回した後、ロビンに問いかけた。
「被害は?」
薄暗い顔を覗かせる彼女に、ロビンは正直に答える。
「ウチの教官の何名かが犠牲になった。
ただ幸い、市街の住民達の人命に、影響は殆ど出なかったらしい。
教官達の救助活動が、迅速だったお陰だろう。
もっとも家屋は、大半が焼けてしまったがな」
「...そうか」
ロビンの話を、耳に入れたクロミネは、表情から陰りが消えず、ため息を吐いて、肩を落とした。
「私は、人を守れているのだろうか...」
静かに言葉を呟く彼女に対し、ロビンは聞き返した。
「どうした?急に」
「いや、何でもない。
少し昔を思い出してな、気が沈んだだけだ。
忘れてくれ」
気恥ずかしそうに、頭を掻くクロミネを見て、ロビンは、少し考えた後言った。
「人を守りたいっていう、信念が折れない限り、人は人を守る為に、剣を振ることが出来る。
そして振った剣は、確実に人の為に役立つ。
少なくとも市街の住民は、お前の働きで、救われているはずだ」
ロビンの真っ直ぐな言葉を聞いたクロミネは、しばらく沈黙した後、彼に言葉を返した。
「忘れてくれと言ったはずだぞ。全く」
するとクロミネは、ロビンの方を向き、改まって礼を述べた。
「感謝するぞロビン。此度は、お前に色々救われたな。
この恩は必ず返す。約束だ」
彼女の言葉を聞いたロビンは、照れくさそうに笑った後、
椅子から立ち上がって、医務室を後にした。

◇◆◇◆◇◆◇

翌日、ロビンは校舎に戻り、人気の無い廊下を歩いていると、
ベティが仁王立ちで、彼を待ち構えていた。
彼女は、ロビンが現れるや否や、鋭い目つきで、ガンを飛ばす。
「よぉ、随分遅かったじゃねえか」
ベティは、至近距離まで近づき、ロビンの胸ぐらを掴んで、睨みつける。
「テメェ、最近調子乗り過ぎじゃねえか?あぁ?
魔物ぶっ倒した次は、市街に駆り出されるだァ?
魔法も使えねえのに、しゃしゃってんじゃねえよコラ」
するとロビンは、冷たい視線をベティに送った。
「頼むから勘弁してくれ、最近色々あって疲れてるんだ」
するとベティは、ロビンを廊下の床に、突き飛ばした。
「ケッ、喧嘩する前から、言い訳並べてんのかよ。
なら始めっから身の程弁えろや」
拳の骨を鳴らすベティを前に、床に腰を下ろすロビンは、立ち上がって口を開いた。
「何か気に触ったなら謝るよ、今後は気を付けて生活する。
だからもう構わないでくれ」
腰を低く接するロビンに、ベティは、苛ついた様子で応えた。
「分かってねえなァ、アタシは気に入らねえ奴を見つけたら、必ずぶん殴ると決めてんだよ。
だから何を言われようが、アタシはテメェをぶん殴るぜ」
理不尽過ぎる決まり事を押し付けられ、ロビンは、ため息を深く吐いた。
「分かったよ、どうせ何を言っても納得しないんだろう。
お前の望む通りにする。これでどうだ?」
ベティが、ニヤリと笑みを浮かべ、拳を固めて近付いてくると、
ロビンは、指を差して静止させた。
「ただし条件がある。
もし戦うというのなら、この場で戦うわけにはいかない。
やるなら野外演習場でやろう」
するとロビンは、ベティに付いてくるよう指示し、
彼女は渋々、彼の後ろを追従して、教室を後にした。

◇◆◇◆◇◆◇

野外演習場に辿り着いた二人は、向かい合って相対する。
するとロビンが、剣を床に置くのを見て、闘志を剥き出しにするベティは問いかけた。
「オイ、何の真似だ?」
「素手の相手に向かって、剣で挑んだ所で意味はない。
素手対素手で決着だ」
彼の言葉を聞き、ベティは眉間に皺を寄せた。
(舐めやがって、こっちは魔法を使えるんだぞ?
その余裕が、いつまで続くか見物だなァ)
ベティは、戦いの血を滾らせ、拳を固めてゆっくりと接近する。
ロビンもまた、素手で構えを取り、迫りくるベティを迎え撃つ。
戦闘態勢を整えた両者の間合いが、刻一刻と詰められた。
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