貞操逆転国の亡命代行

空の小説マン

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第十四話 葛藤

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ウルフは、校舎から距離を置き、敷地内と外を隔てる外壁へ足を進めると、
校舎の方から、火の手が上がっているのが、見て取れた。

すると、校舎の方へ向かっていく教官達が、彼の前から駆けつけ、
ウルフは咄嗟に、物陰へ身を隠した。
切迫した表情の教官達を見て、ウルフは眉を顰める。
(一体何が起こってるっていうんだ?
とにかく一度、態勢を立て直し、状況を分析しないと)

ウルフは、任務前に覚えた学内の構造を頼りに、
用水路へと続く、階段へ辿り着き、
地上から降りて、薄暗い地下通路へと、足を踏み入れた。

その先にある出口から、敷地外へと脱出を試みるウルフ。
しかし、彼の後ろから、数々の生徒達の声が聞こえ、
ウルフは素早く、水路の淀んだ水の中へと、潜伏した。

どうやらこの用水路は、生徒達の避難経路でもあったらしく、
火災から逃れる為、外へと目指す生徒達が、目の前を通過したのを見て、
ウルフは、水から這い出て、自身の脱出ルートを考えた。
(生徒達と、同じ場所に出るのはマズイな。
だが問題ない。道中に、地上へと上がれる梯子がある。
そこから、敷地外を目指そう)
ウルフが再び、用水路を進み、梯子のある場所まで辿り着くと、
生徒達が逃げた方向に、ドス黒い魔物が、佇んでいるのが見て取れた。
(こんなところにまで魔物が!!
マズイ!通路の先を目指す生徒達が襲われる!
だが、俺の姿を見られるには...)

梯子に手をかけたウルフは、目を閉じ、葛藤した末、
生徒達を助けるべく、梯子を離れ、通路の先へと向かった。

生徒達を追い、用水路の先へと、足を進めたウルフは、
大きな鼠の姿をした魔物を視認する。
地面で腰を抜かした、女子生徒を睨みつけ、
前歯を剥き出しに襲おうとする、魔物へ向かって、
ウルフは、剣を鞘から引き抜き、肉薄した。
次の瞬間、女子生徒へ向かって、襲いかかる魔物の前に、
ウルフは割って入り、刀身で、魔物の噛み付きを受け止めた。
「コイツは俺が止める!早く避難を!!」
地面に座り込む女子生徒を背に、
ウルフは、魔物の歯から剣を引き抜き、再び剣先を、鋭く差し向けた。
すると素早く横へ、回避する魔物を見て、
ウルフは、敵の瞬発力や移動速度が、特出していると把握した。

間合いを取った魔物が、口から、酸性の液体を飛ばしてくるのを見て、
ウルフは前転で躱し、距離を詰め、斬撃を放った。
迫りくる刃を回避するため、魔物は後退して、間合いを取ると、
ウルフは、地面を踏み込み、再度接近する。

すると魔物は背後に、水路を囲う柵が、立てられているのに気付き、
ウルフが退路を塞ぐ為、柵の前まで、誘導していたことを悟った。
退くことの出来ない魔物は、迫りくるウルフに向かって、
反撃の噛み付きを繰り出す。
すかさずウルフは、剣先を魔物に向け、近付いてくる口内に、刃を突き刺した。

速度で劣る魔物に対し、誘導と待ちの構えで、
勝利したウルフは、剣を引き抜いて、鞘に納める。
静かにその場を、立ち去ろうとする彼に向かって、
助けてもらった女子生徒が、近付いて声をかけた。
「あの、もしかしてあの時の...」
ウルフに声をかけたのは、なんとシルビアだった。
彼女の顔を見て、ウルフは顔を逸らして、去ろうとすると、
シルビアは、行く手に回り込む。
「ダメダメ!今度は逃さないよ。
ちゃんと御礼を言うまでは」
シルビアに、顔を覗き込まれるウルフは、無言のまま、顔を遠ざけた。
するとシルビアは、静かな口調で、彼に問いかける。
「ひとまず、僕と一緒に来てくれないかな?
君も、学校の外を目指しているんだろう?
そうすれば、君がここで何をしているのか、僕はこれ以上、追求しないよ」
シルビアの提案を受け、教官達に通報されるリスクと、天秤にかけたウルフは、
無言のまま、彼女と共に、梯子から地上へと登った。

◇◆◇◆◇◆◇

軍学校の敷地外へと出た二人は、街へと続く森の手前にある、
古びた小屋の中で、腰を下ろした。

無言を貫くウルフに対し、シルビアは、興味深そうに尋ねる。
「君、ロビンくんと剣筋が似てるね?
ダンジョンで助けてもらった時、戦う姿を見たんだけど、
さっきの剣捌きと、そっくりだったよ」
彼の元に身を寄せるシルビアは、畳み掛けるように、質問を飛ばした。
「それに僕が、森で人に襲われた時、助けてくれたのも君だったよね?
顔は見てないけど、後ろ姿がそのまんまだ」
視線を逸らすウルフの、目の前に近づき、じぃっと顔を近づけるシルビア。

すると彼女は、真剣な眼差しで、ウルフに語りかけた。
「君、もしかして、ロビン君に変装していたのかい?
そして変装を解いた後、僕と偶然、用水路で居合わせた。
違うかい?」
極限まで追い詰められたウルフは、見つめたまま眼前へと近づく、シルビアに対し、
観念したように、口を開いた。
「分かった、降参だ。
まさかお前に、ここまで洞察力があったとは。
助ける相手を間違えたかもな」
往生して、沈黙を破るウルフを前に、シルビアは、自身満々に微笑んだ。
「フフッ、安心しなよ。
君の正体を、バラす真似はしないから。
なんたって君は、僕を三度も助けてくれた、恩人だからね」
するとシルビアは、表情を曇らせ、ウルフに言葉を送った。
「でも一体、どういう状況なんだい?
避難前に、教官から聞いた話だと、
今、校舎に火を付けて回っているのは、
ロビン君の格好をした者だって聞いたよ?
火元から離れた用水路に、君が居るなら、
一体誰が今、ロビン君の変装を...」
するとウルフは、シルビアの言葉を受け、真剣な眼差しで答えた。
「恐らく、俺以外の第三者だ。
俺は、校舎に火が放たれる以前に、その第三者から、襲撃を受けた。
そして無理やり、変装を解かされた後、
用水路を逃走中、お前と遭遇したんだ。
つまり、俺を襲撃した第三者が、今、ロビンの変装をして、
校舎に放火していると、考えていいだろう」

自身の推測と、現在に至るまでの経緯を、説明したウルフ。
彼の話を聞いて、現状を把握したシルビア。
切迫した事態を前に、彼女は、焦りを露わにした。
「じ、じゃあマズイじゃないか!
生徒達が、危険な目に遭ってるだけじゃなく、
ロビン君の変装をした人が、暴れている今、
以前変装していた君に、罪が被るかもしれないってことだろう?」
問いかけるシルビアを前に、ウルフは、真っ直ぐな瞳で口を開く。
「罪が被るのはいい、問題は生徒達の安全だ。
奴が野放しになっている以上、学校にどれほどの被害が及ぶか...」
そう言いながらウルフは、一人静かに考え込んだ。
(いずれにせよ、この事態を早く、大佐に報告しなければ。
襲撃している第三者が、わざわざロビンに変装しているなら、
俺の妨害を目的とする、何らかの撹乱行動を、起こしている可能性が高い。
下手な事をされる前に、奴を止めるのが先決だ)

するとウルフは、決意を胸に立ち上がり、小屋の扉を開く。
立ち去ろうとする彼を見て、シルビアは問いかけた。
「ど、何処へ行くつもりだい?」
「軍学校へ戻る。
放火している襲撃者を、止めなければ」
彼女の問いに答えたウルフは、小屋の外へ出て、用水路へと足を進める。
任務を果たす為、そして自分の信念の為、
戦地へと赴く彼の背中を、シルビアは、じっと見つめるのだった。
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