貞操逆転国の亡命代行

空の小説マン

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第十六話　成長

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少女は、かつて天才だった。

幼い頃から、魔法の天才と評された彼女は、
いつしか、軍学校の魔術筆頭と成り得る才能を、持ち合わせていた。
しかし彼女の両親は、それでも納得しなかった。

少女の身体に、魔導回路を調整する手術を行い、
男性の体に含まれる成分を、体内に取り入れた。
そして歴史上で初めて、魔法を扱う少年として、世に名を轟かせる為、
両親は少女を、男として育て上げようと目論んだ。

しかし、手術の結果は、誰も望まないものとなった。
少女は手術を終えると、魔法が扱えなくなり、
無力な子供と化してしまった。
両親は、それでも家督の為、少女を天才と称して育てた。
彼女を見る両親の目が、幻滅の眼差しに変わったのを見て、少女は心に影を落とす。

魔法の扱えない無力な自分を、何も出来ない非力な自分を、
彼女は、弱りきった心を胸に、恨み、嫌い、自己嫌悪に陥った。

そんな彼女は、自身を魔物から救ってくれた男の姿を見て、憧憬の眼差しを向けた。

魔法を使えないにも関わらず、持ちうる五体を駆使して戦う彼に、
少女は、憧れと尊敬を抱いた。
何も出来ず、何も踏み出せない自身と比べ、
彼女は拳を握り、感情を震わせた。
(彼に比べて、僕はなんて情けないんだ。
僕だって...僕だって！前に進まなくちゃいけないんだ！)
決意を胸に秘めた少女、シルビアは、
剣を握り、戦地へ歩みを進めた。

◇◆◇◆◇◆◇

ウルフの前に、姿を現したシルビアは、剣を手に、魔物へ突進した。
彼女の差し向けた剣先は、魔物の体に突き刺さる。
すると魔物は、剣先を刺されながらも、シルビアに向けて、腕を薙ぎ払った。
攻撃を受けたシルビアは、遥か後方に吹き飛ばされる。
地面に倒れる彼女を見て、ウルフは、すぐさま駆け寄ろうとした。
「シルビア！！」
すると、行く手を阻むように、彼の前に巨大な魔物が、立ちはだかった。

ふらついた足取りで、立ち上がるシルビアは、震えた手で、剣を握り締める。
迫りくる魔物の攻撃を前に、彼女は必死に、剣で防御するも、
強い衝撃を身に受け、背後にある壁に叩きつけられた。
「ごはぁっ...！」
口から血を流す彼女は、朦朧とする意識の中、迫りくる魔物の群れを、視界に入れた。
全身と内臓が、ボロボロになりながらも、
シルビアは、地に足を付け、諦めず剣を構える。

徐々に、距離を詰める魔物達に向かって、
彼女は、剣先を向けると、決意を瞳に宿し、全身に力を込めた。

「ぼ、僕は、最後まで戦い続ける！
かつて彼が、僕を守ってくれたように、
今度は、僕が彼を守る！！」

無意識に、体内の魔導回路へ、力を込めた彼女は、
眩い光を剣先に宿す。

そして魔物達の群れに、敵視を向けたシルビアは、
声を上げ、体内から魔力を解放した。
「これが僕の、全力だあああああ！！！！！」
秘められた魔力を放出し、シルビアは剣先から、聖なる光を放射する。
魔物の群れへと、放たれた魔法は、眩い輝きと共に、次々と魔物達の体を消滅させた。

場に居た魔物の群れを、全て消滅させたシルビアは、力を使い果たし、
地面に、崩れ落ちるように倒れた。
すぐさま駆けつけるウルフが、彼女の上体を掴むと、
シルビアは、朧げな意識の中で、彼に言葉を送った。
「ど、どうかな...僕は、君の役に立てたのかな...？」
小さく微笑むシルビアを見て、ウルフは頷いて応えた。
「お前が居なければ、俺は死んでいた。
お前は、命の恩人だ」
するとシルビアは、彼の膝元で、クスリと笑みを浮かべ、静かに意識を失った。

ウルフは、彼女を両手に抱え、すぐさま医務室へと向かおうとした。
すると彼の前に、何者かが姿を現した。

ウルフと出会ったのは、生徒達の救護活動に奔走するロアだった。
切迫した状況の中、ウルフはロアに懇願する。
「頼む！急を要するんだ！
彼女を、シルビアを診てやってくれ！」
必死に頭を下げるウルフを見て、ロアは唖然とした顔で、口を開いた。

「もしかして...ロビンくん？」

ロアに、正体を見透かされたウルフは、息を呑んで、彼女に尋ねる。
「分かるのか？」
「分かるよ！君の真剣な眼差し、声、態度。
ロビンくんそっくりじゃん！
姿を変えても、お見通しなんだから！」
するとロアは、ウルフからシルビアを受け取り、彼女を抱えて言った。
「急を要するんでしょ？彼女は私に任せなよ！
私のお節介魂を甘くないでよね！」
ロアは、ウルフを笑顔で送り出すと、
彼はロアに礼を述べ、一目散に校舎の方へ駆けていった。

火の手の上がる場所へ向かう、ウルフの背中を見て、ロアは、心配そうな眼差しを向けた。
「無事に帰ってきてよ、ロビンくん...！」

◇◆◇◆◇◆◇

軍学校の校舎内へと、足を踏み入れたウルフは、燃え広がる廊下を突き進み、
逃げ遅れた生徒達と、襲撃する張本人を探し回った。
すると彼の前に魔物が、行く手を阻むが如く現れる。
迫りくる魔物に対して、ウルフは剣を抜き、迎え撃つ態勢を取る。

次の瞬間、ウルフの目の前に、二人の人影が現れ、
一人は、魔物を殴り飛ばし、もう一人は、怯んだ魔物を一刀両断した。
ウルフの前に現れたのは、構えを取るクロミネとベティだった。

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