貞操逆転国の亡命代行

空の小説マン

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第十九話 白紙

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最後の戦いを終えたウルフが、階段から姿を現す。
クロミネとベティは、廊下で彼を迎え、真剣な表情を見せた。
彼女らにウルフは、静かな口調で語る。
「終わったよ、奴との肩は付いた。
もう校舎に、魔物が現れることはない」
ウルフの言葉を聞き、クロミネは安堵の息をついた。
「そうか、終わったか。お前には苦労をかけたな」
落ち着いた笑みを浮かべるクロミネの横で、
ベティが口角を上げ、大きく笑ってみせた。
「アタシは何の心配もしてなかったけどな!
途中で魔物も湧かなくなったし、
速攻でケリ付けてるモンかと思ったぜ!」
安心する二人に向けて、ウルフは礼を述べた。
「お前達が魔物を倒してくれたお陰で、奴の魔力が切れたんだ。
奴に勝てたのは、お前達のお陰だ。ありがとう」
するとウルフは、二人に囲まれ、鋭い眼差しで睨みつけられた。
「では、詳しい話を聞くとしようか。
私達を騙していたことについて」
「ボコボコにしてやるって、さっき言ったよな?
覚悟しろよ?野外演習場でタイマンだコラ」
彼女らに連れられたウルフは、冷や汗をかきながらも、廊下から姿を消した。

こうして、襲撃者騒動は、幕を下ろしたのである。

◇◆◇◆◇◆◇

数日後。

校舎の復旧作業が進む中、ウルフは、寮内の自室にて、
ニカルクアからの文書に目を通していた。
文書の内容は、以下のものだ。

『拝啓、ニカルクア所属兵 ウルフ殿。

先日のグルマド国の妨害工作以来、
ルィフメー王国は、ニカルクアの諜報活動の有無を調査している。
無論、君の事を切り捨てる気はない。
今回の件は、グルマド国が独自で計画した撹乱作戦として、
ルィフメー王国に話をつけるつもりだ。

だがそれに伴い、ロビン・アダムスカの亡命代行任務が難しくなった。
今、このタイミングで、君が変装していた亡命対象が姿を消せば、
我々ニカルクアの関与が、疑われかねない。

ニカルクア上層部は、亡命代行任務の中止を、視野に入れている。
我々がルィフメーに関与した痕跡も、証拠も残さず、全てを白紙に戻すと。
本件について、君も考えを纏めておいてくれ。

敬具、ニカルクア国軍大佐より』

書状を読み終わったウルフは、誰にも悟られず、静かに港町へと向かうのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

ルィフメー王国 港町の宿屋にて。

ウルフは、本物のロビンが身を隠す宿屋に訪れ、
書状の内容の一部を、彼に伝えた。
「つまりロビン、お前の亡命作戦が、中止になってしまうかもしれないんだ。
この事について、お前の意見を聞かせてほしい」
ウルフに尋ねられ、ロビンは一人考え込んだ後、静かに口を開き、答えた。

「ニカルクアへの亡命は、諦めることにするよ。
俺の亡命次第で、ルィフメーとニカルクアの関係が悪化して、戦争になりかねないなら、
俺の亡命は、取りやめた方がいい」

寂しそうに微笑む彼を見て、ウルフは、真剣な眼差しで聞き返した。
「質問を変えよう、お前の本音を聞かせてくれ。
両国が、戦争するかしないかは別として、
お前の正直な気持ちを教えてほしい」
ウルフの真っ直ぐな瞳を見て、ロビンは薄暗い表情を浮かべ、手に力を込めて話した。
「...本当は、ルィフメーを去りたい。
俺は、生まれた頃から迫害を受けてきた。
奴隷のように扱われ、両親にだって、軽蔑の目で見られてきたんだ。
魔法も使えず、力もない俺にとって、ルィフメーは、生き辛過ぎる場所なんだ...」
声を震わせるロビンの言葉を聞き、
ウルフは脳裏で、ゾリドの言葉と重ね合わせる。
ルィフメー王国の男性として、ゾリドと同じ境遇を受けていたロビンを前に、
ウルフは肩を叩いて、優しく言葉を送った。
「一つだけ、残された選択肢がある。
この書状の裏側に、追記された文が隠されていたんだ」

ウルフは、大佐の書いた文書裏の追記を見て、ロビンに読み上げた。

『追伸、もし君やロビンが、亡命作戦の続行を望んでいるなら、私に考えがある。
ウルフ、是非君にも協力を頼みたい』
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