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第2話
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「また食べにおいでねー!」
「うん!ありがとう!おばさん!」
小夏おばさんから、お土産用の大福を受け取った日向は、店の前で待っていた2人の元へと駆け寄った。
「土産か?」
「そう!仙人様たちに、お土産!」
「優しいね、日向」
日向はニコッと笑うと、3人は町を歩き始めた。
難しい任務には、必ずと言っていいほど召集がかかる瀧と凪は、こうして日向と町を歩く機会もあまり無い。
そのため、この時間は何より貴重だった。
3人で町を歩きながら話し、そして笑い合う。
こんな些細な時間でも、3人にとっては幸せのひとつ。
「それでね、瀧ったら力を込めすぎて、大きい岩を真っ二つに割っちゃってさぁ」
「あっははは!やりすぎだろ瀧ー!」
「本当にね、弟子たちも震え上がってたんだ」
「うわぁ、瀧……後輩たちに嫌われたんじゃね?」
「んだよ!俺がすげぇ強いって証明だろうが!」
瀧と凪は強いと言えど、まだ年端もいかない少年。
2人がよく聞かせてくれる任務の話は、日向にとってはヒヤヒヤするものもあれば、2人の強さを実感するものもある。
今の自分たちの平和は、彼ら仙人のおかげで成り立っているのだと、そう感じるのだ。
「やっぱすげぇなぁ2人とも。仙人様たちがいれば、この世は平和だな!」
日向が自信満々にそう言うと、凪は顔を曇らせる。
「……そうでも、ないんだよ」
「えっ?」
突然の凪の声に、日向はポカンとしていた。
凪の反応を見ていた瀧は、なにかを察して口を閉じる。
凪は真剣な表情で、俯いていた。
その時。
「双璧殿!!!!!」
背後から、瀧と凪を呼ぶ声が聞こえた。
3人が振り返ると、2人と同じ仙人の格好をした数名の仙人が、慌てた様子で駆け寄ってきている。
その姿に、瀧と凪は真剣な表情になった。
「どうした」
「東の村に、妖魔が数体現れたと報告が。現在、数名の仙人が対応してますが、既に怪我人もいるようで」
「「…………」」
瀧と凪は、互いに見つめあって頷き合う。
そして、凪は仙人たちから話を聞き、代わりに瀧は日向の視線に合わせて屈んだ。
「日向。ちょっくら行ってくるわ。お前はさっさと拠点に戻っておけ。いいな?」
「うん。僕のことは気にしないで」
「ああ、悪ぃ」
瀧はガシガシと、少し乱暴に日向の頭を撫でた。
この2人ならば、大丈夫。
そう分かっていても、やはり日向は不安だった。
大抵の任務ならば、ほかの仙人で事足りる。
だがこの2人にお鉢が回ってきた場合は、危険な状態だと暗示させるのだ。
そのため、今東の村に現れたという妖魔は、力があるということ。
2人でなければ、対処出来ない敵だということ。
不安で押しつぶされそうだ。
「……気をつけて」
「ははっ、わーってる。任せとけ」
瀧はニッと笑うと、待っていた凪や仙人たちの元へと向かい、そしてそのまま東の村へと走り出した。
ひとり取り残された日向は、全員の背中が見えなくなるまで見守り、ただ無事を祈った。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
仙人たちを見送った日向は、瀧に言われた通り拠点に戻ってきていた。
ここは、仙人たちが住まう拠点「樹」
中心部であるこの町には、多くの仙人が世を守り続けている。
日向は仙人ではないが、ある事情でこの場所に住んでいた。
ひとり帰ってきた日向は、少し不安を感じながら靴を脱ぐ。
「おや、帰ってきたのかい?日向」
「あっ」
ふと、声が聞こえた。
日向が顔を上げると、仙人の格好をした老人が、優しい笑みを浮かべて日向を見つめている。
「ただいま、仁おじさん。
あ、これお土産。茶屋の大福だよ」
彼の名は「清水 仁」
この世にいる仙人を束ねる総監督の「仙主」を努めており、瀧と凪の祖父だ。
いつも通り、ただいまの挨拶をする日向だったが、少し元気が無いことに気づいた仁は、日向の元へ近づいて顔を覗く。
「どうしたんだい?浮かない顔だが」
「ああ……さっき、瀧と凪と一緒に居たんだけど、後輩くんたちに召集されて」
「心配なんだね」
「うん」
仁は、俯く日向を優しく抱き寄せる。
日向は、元捨て子だった。
まだ赤子だった日向が森の中に捨てられていたところを、仁が偶然見つけて保護したのが始まりだ。
日向は霊力を持っていなかったため、仙人になることは出来なかった。
それでも、仁は我が子のように日向を育てた。
日向からすれば、仁は親代わりだ。
「瀧と凪なら心配ないさ。あの子たちの強さは、日向がよく知っているだろう?」
「……うん」
「帰ってきたら、出迎えてあげなさい。2人はきっと喜んでくれるよ」
「……わかった」
日向はきゅっと、仁の服を掴んだ。
やはり、どれだけ年月を重ねても、心配することに変わりは無い。
それほど、仙人は危険な役職なのだ。
日向は、ただここで待つことしか出来ない。
無事を祈り続けることしか出来ない。
今日も無事に帰ってきて欲しいと、願うばかりだ。
「うん!ありがとう!おばさん!」
小夏おばさんから、お土産用の大福を受け取った日向は、店の前で待っていた2人の元へと駆け寄った。
「土産か?」
「そう!仙人様たちに、お土産!」
「優しいね、日向」
日向はニコッと笑うと、3人は町を歩き始めた。
難しい任務には、必ずと言っていいほど召集がかかる瀧と凪は、こうして日向と町を歩く機会もあまり無い。
そのため、この時間は何より貴重だった。
3人で町を歩きながら話し、そして笑い合う。
こんな些細な時間でも、3人にとっては幸せのひとつ。
「それでね、瀧ったら力を込めすぎて、大きい岩を真っ二つに割っちゃってさぁ」
「あっははは!やりすぎだろ瀧ー!」
「本当にね、弟子たちも震え上がってたんだ」
「うわぁ、瀧……後輩たちに嫌われたんじゃね?」
「んだよ!俺がすげぇ強いって証明だろうが!」
瀧と凪は強いと言えど、まだ年端もいかない少年。
2人がよく聞かせてくれる任務の話は、日向にとってはヒヤヒヤするものもあれば、2人の強さを実感するものもある。
今の自分たちの平和は、彼ら仙人のおかげで成り立っているのだと、そう感じるのだ。
「やっぱすげぇなぁ2人とも。仙人様たちがいれば、この世は平和だな!」
日向が自信満々にそう言うと、凪は顔を曇らせる。
「……そうでも、ないんだよ」
「えっ?」
突然の凪の声に、日向はポカンとしていた。
凪の反応を見ていた瀧は、なにかを察して口を閉じる。
凪は真剣な表情で、俯いていた。
その時。
「双璧殿!!!!!」
背後から、瀧と凪を呼ぶ声が聞こえた。
3人が振り返ると、2人と同じ仙人の格好をした数名の仙人が、慌てた様子で駆け寄ってきている。
その姿に、瀧と凪は真剣な表情になった。
「どうした」
「東の村に、妖魔が数体現れたと報告が。現在、数名の仙人が対応してますが、既に怪我人もいるようで」
「「…………」」
瀧と凪は、互いに見つめあって頷き合う。
そして、凪は仙人たちから話を聞き、代わりに瀧は日向の視線に合わせて屈んだ。
「日向。ちょっくら行ってくるわ。お前はさっさと拠点に戻っておけ。いいな?」
「うん。僕のことは気にしないで」
「ああ、悪ぃ」
瀧はガシガシと、少し乱暴に日向の頭を撫でた。
この2人ならば、大丈夫。
そう分かっていても、やはり日向は不安だった。
大抵の任務ならば、ほかの仙人で事足りる。
だがこの2人にお鉢が回ってきた場合は、危険な状態だと暗示させるのだ。
そのため、今東の村に現れたという妖魔は、力があるということ。
2人でなければ、対処出来ない敵だということ。
不安で押しつぶされそうだ。
「……気をつけて」
「ははっ、わーってる。任せとけ」
瀧はニッと笑うと、待っていた凪や仙人たちの元へと向かい、そしてそのまま東の村へと走り出した。
ひとり取り残された日向は、全員の背中が見えなくなるまで見守り、ただ無事を祈った。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
仙人たちを見送った日向は、瀧に言われた通り拠点に戻ってきていた。
ここは、仙人たちが住まう拠点「樹」
中心部であるこの町には、多くの仙人が世を守り続けている。
日向は仙人ではないが、ある事情でこの場所に住んでいた。
ひとり帰ってきた日向は、少し不安を感じながら靴を脱ぐ。
「おや、帰ってきたのかい?日向」
「あっ」
ふと、声が聞こえた。
日向が顔を上げると、仙人の格好をした老人が、優しい笑みを浮かべて日向を見つめている。
「ただいま、仁おじさん。
あ、これお土産。茶屋の大福だよ」
彼の名は「清水 仁」
この世にいる仙人を束ねる総監督の「仙主」を努めており、瀧と凪の祖父だ。
いつも通り、ただいまの挨拶をする日向だったが、少し元気が無いことに気づいた仁は、日向の元へ近づいて顔を覗く。
「どうしたんだい?浮かない顔だが」
「ああ……さっき、瀧と凪と一緒に居たんだけど、後輩くんたちに召集されて」
「心配なんだね」
「うん」
仁は、俯く日向を優しく抱き寄せる。
日向は、元捨て子だった。
まだ赤子だった日向が森の中に捨てられていたところを、仁が偶然見つけて保護したのが始まりだ。
日向は霊力を持っていなかったため、仙人になることは出来なかった。
それでも、仁は我が子のように日向を育てた。
日向からすれば、仁は親代わりだ。
「瀧と凪なら心配ないさ。あの子たちの強さは、日向がよく知っているだろう?」
「……うん」
「帰ってきたら、出迎えてあげなさい。2人はきっと喜んでくれるよ」
「……わかった」
日向はきゅっと、仁の服を掴んだ。
やはり、どれだけ年月を重ねても、心配することに変わりは無い。
それほど、仙人は危険な役職なのだ。
日向は、ただここで待つことしか出来ない。
無事を祈り続けることしか出来ない。
今日も無事に帰ってきて欲しいと、願うばかりだ。
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