愛恋の呪縛

サラ

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第3話

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 夜。
 日向は自室で、瀧と凪が帰ってくるのを待っていた。
 事前に2人の大福を確保して、読みかけの書物を読んで時間を潰す。
 だが、心配が上回ってしまうせいで、書物を読んでいても、内容がしっかり入ってこない。
 胸騒ぎばかりが起きてしまうのだ。



 (大丈夫かな……2人とも)



 今日は、どうしてか帰りが遅い。
 何かあったのでは無いのか。
 そう思っていたその時だった。



「おい!誰か、救急箱持ってきてくれ!」

「っ!」



 遠くの方で、慌てる声が聞こえてきた。
 日向は読んでいた書物を放り投げて、窓から外を眺める。
 すると、なにやら仙人たちが慌てていた。
 日向がじっと目を凝らして見つめると……

 拠点の入口に、怪我をした凪を支えながら歩く瀧の姿があった。



「……凪っ!?」



 日向はその光景に目を見開き、慌てて部屋を飛び出した。








「凪様!」

「医者を、医者に連絡しろ!」



 仙人たちは、凪の怪我に大慌て。
 それもそのはずだ、双璧が怪我をすることはほとんどない。
 そのうちのどちらかが怪我をしても同様だ。
 だから、彼らからすれば緊急事態と変わらない。
 凪は頭から血を流し、所々切り傷もある。
 軽傷ではなかった。



「おい凪、ついたぜ」

「……ああ、すまない……」

「いいって」



 他の仙人たちとは違い、瀧は至って冷静だった。
 だが、心は落ち着いていない。
 状況が状況だったとはいえ、凪がここまで怪我をするのは、幼い頃以来だからだ。
 瀧は不安にさせないようにと、なんとか平静を保つ。
 すると、



「凪!」



 騒ぎを聞き付けた日向が、瀧たちの元へと駆け寄ってきた。
 瀧が日向に気づくよりも早く、日向は怪我をしている凪に近づく。



「凪!凪!?」

「っ……ひな、た?」

「意識はあるね、よかった……」



 まだ話せる凪に、日向は心から安堵する。
 だが、凪の怪我はただ事では無い。
 2人の様子を見ていた瀧は、慌てふためく仙人たちに、声をはりあげた。



「凪の治療は、日向に任せる!ここにいる者は、東の村に残っている仙人たちの手伝いに行け!」

「えっ、し、しかし!瀧様っ」

「安心しろ、日向の治療の腕は保証している。心配しなくていい、とにかく直ぐに行け!」

「「「は、はい!」」」



 瀧の指示に、慌てていた仙人たちはビシッと敬礼をして、すぐに出発の準備を進めた。
 そして瀧は、凪の心配をしている日向に声をかける。



「日向……悪ぃ、を貸してくれ」

「もちろんだよ、瀧。とりあえず凪の部屋へ」

「ああ」



 日向は瀧と一緒に凪を支え、凪の部屋へと向かった。





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





 凪の部屋にたどり着いた2人は、凪を寝台に寝かせ、瀧は窓や扉を全て閉めた。
 ロウソクに火をつけて、明かりを灯す。
 寝台に寝かせたあと、日向は怪我の具合を確かめた。



「酷い……大丈夫だよ、凪。すぐ終わるから」



 そういうと日向は、両手を凪の体にかざした。
 そして、力を込める。
 瀧は全ての窓と扉を閉め終えると、寝台の近くにあった椅子に腰掛けて、日向の姿をじっと見つめた。



「………………」



 直後、凪を淡い光が包み込む。
 輝きを纏い、優しい温かさすら感じた。
 すると淡い光に包まれた凪の傷は、まるで時間を巻き戻すかの如く、ゆっくりと治っていく。
 その神秘的な光景に、見つめていた瀧はゴクリと息を飲む。


 七瀬日向には、ある大きな秘密があった。
 霊力を持たない代わりに、彼だけが持ったもの。
 それは、彼以外は持たない神秘な力。
 治療法も無ければ、瀕死な状態で助からない者でも、彼にかかれば全て治っていく。
 類を見ない、その奇跡に近い力。
 全ての傷や病を治す……

 【全快の力】

 彼の力を知っているのは、瀧・凪・仁の3人だけ。



「……んっ……」



 日向の力でたちまち傷が治った凪は、ゆっくりと瞼を開けた。
 ほとんど傷が治ると、日向は力を込めるのを止めて、凪の様子を伺う。



「凪!大丈夫!?」

「……日向?あれ、私……」

「っ……よかったぁ!」



 日向は思わず、凪に抱きついた。
 その様子に、傍で見ていた瀧も安堵の息を漏らす。



「日向が治してくれたんだよ、凪」

「えっ!?日向、どうしてっ」

「どうしてじゃないよ!心配したんだから!」

「それはっ……」

「凪、諦めろ。今回ばかりは、日向の力が無かったら危なかったんだからさ」



 瀧はそう言いながら立ち上がると、凪に抱きつく日向の頭を優しく撫でた。



「ありがとな、日向。まじで助かった」

「全然。僕は、治すことしか出来ないから」

「十分だろ。霊力に治療の力は無い。お前は凄ぇよ」



 この力がなんなのか、誰も分からない。
 力に気づいたのは、修行で瀧が足を骨折した時。
 なぜかは分からない、ただ当時の日向は「治せると思う」の一点張りで、任せたところ力が判明した。
 骨折していた瀧の足も、元通りだった。
 その日から、日向の力は彼らの秘密となった。
 誰かに知られれば、利用されるかもしれない危険性があったからだ。

 霊力の派生かと考えたこともあったが、全くの別物だった。
 どれだけ古い書物や巻物を見ても、似たようなものは書かれていない。
 本当に、謎に包まれた力なのだ。



「でも、凪がこんな怪我するなんて……どうして」

「村人を避難させたんだが、逃げ遅れた親子がいてな。その親子を守った矢先、それを狙ってきた妖魔がいて攻撃してきたんだ。凪は親子を守るのに必死で、構えてなかったからな」

「そんなっ……」

「でも、その後妖魔は俺が全部倒したから、後始末や村人は弟子たちに任せて、俺たちだけ先に戻ってきたんだよ。ったく……妖魔の野郎、面倒なことを」



 瀧はチッと舌打ちしながら、手を腰に当てた。
 もし凪がいなければ、親子はどうなっていたのか。
 もし瀧がいなければ、妖魔はどうなっていたのか。
 終わったことなのに、今更になって不安が襲ってくる。
 仙人ではない日向からすれば、書物に書かれている浅い知識でしか妖魔は理解していない。
 だから、どれほど危険なのか、考えても全ては知り得ないのだ。



「日向、本当にありがとう。君のおかげだよ」

「ふふっ、おう!」



 凪は日向の頬を撫でると、日向はニコッと笑った。
 そんな2人の様子を見ていた瀧は、ふと口を開く。



「凪……もう、いいんじゃねえの」

「っ……」



 ポツリと呟いた瀧の言葉に、優しい笑みを浮かべていた凪の表情が固くなった。
 日向はその変化に気づき、キョロキョロと2人を見比べている。



「話しても大丈夫だろ、日向も17歳だ。
 もう昔みたいに、餓鬼じゃねえんだから」

「……そうだね……」

「2人とも、なんの話しをしているの?」



 日向が首を傾げると、凪は抱きついていた日向をゆっくりと離し、自分の隣へと座らせる。
 2人は、真剣な表情を浮かべていた。
 それは今まで見た事がないくらい、緊張感のある顔。
 日向はポカンとしていると、凪はコホンと咳払いをして口を開く。



「今日、日向が「仙人様がいれば、この世は平和」って言った後に、私が「そうでもない」って言ったのは、覚えてる?」

「覚えてるよ」



 その会話は、昼間に話した内容だった。



「そう言った理由があるんだよ。それを、君に話そうと思って。本当は、仙人じゃないから話さなくてもいいと思っていたけど、君には知っておいて欲しい」

「……?」

「今から話すのは、仙人ならば全員が知っている、あるひとつの伝説の話だよ」

「伝説?」



 一体、なんの話しをするのだろうか。
 日向がそのまま凪の言葉を待っていると、凪は話し始めた。



「今から1000年前に存在したと言われる妖魔。
 鬼の王【魁蓮かいれん】の伝説さ……」
 
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