愛恋の呪縛

サラ

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第26話

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 その後、白虎と化した虎珀の背中に乗った日向は、虎珀と共に町から離れた森の近くへと来ていた。
 既に町には結界が張られており、町にいた妖魔たちも、城の近くで待機している。
 その先頭には、結界を張り続ける司雀の姿があった。



「すげぇ、こんなでっけぇ結界……」

「当たり前だ、司雀様の結界術は誰にも負けない」



 (凪の、上級版って感じだな……)



 仙人の中でも結界術に秀でている凪だが、司雀の結界は、その上位互換ほどの強さだった。
 今まで凪の結界術しか見てこなかった日向は、その圧倒的な完成度に驚いている。
 その時。





 ドオオオオオオン!!!!!!!





 遠くの方で、大きな衝撃音が響いた。



「あの音っ!」

「……龍牙っ……」



 衝撃音が聞こえた方角には、何かがぶつかって立ち上がった煙が見える。
 町にある建物とは別の建築物が崩れ続け、ぶつかり合いの激しさを物語っている。
 日向はその激しさに、顔を歪ませていた。
 龍牙が助けに来てくれた時、龍牙の怪我が酷くなっていることに、日向は気づいていた。
 恐らく、龍牙は怪我を我慢して戦っている。



「……大丈夫だよね、アイツっ……」



 つい、日向はそう口にしていた。
 魁蓮の次に強いと言われている存在に対して、失言してしまったと慌てて口を手で抑えるが、日向の言葉を聞いていた虎珀は、怒ることも無く真面目な顔をしていた。



「心配するな。龍牙は、魁蓮様が認めた実力者だ。簡単には負けない」

「っ……うん」





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





 その頃。



「ぐっ……!!!!!」



 龍牙と異形妖魔は、激戦を繰り広げていた。
 妖力を使った攻撃、肉弾戦、その全てを使って互いを削り合う。



「っ……!!」



 戦う度に、龍牙の足が痛みを増していた。
 高いところから着地したり、足を使った攻撃をすれば、激痛が全身を駆け巡る。
 正直、異形妖魔が人間の姿に変わる前ならば、勝ち筋はかなり見えていた。
 だが今は、肉弾戦でもほぼ互角。
 体力削りの激突になり、怪我のせいで必要以上に体力が削れていた。



「あ゛っ!!!!!」



 龍牙が攻撃を繰り出すと同時に、異形妖魔の拳が龍牙の腹部へと入り込む。
 衝撃に重みが加わった拳に、龍牙は後方へと激しく殴り飛ばされた。
 少しでも気を抜けば、意識を飛ばしに来る攻撃。
 全身に妖力を回し続けていなければ、隙をつかれて完全に相手の流れになってしまう。



「ゲホッ、ゴホッ……ああ、くそっ」



 腹部から感じる痛みに耐えながら、龍牙はゆっくりと立ち上がる。
 だが、異形妖魔はそれを許さない。
 一瞬で龍牙の前へと現れ、軽々とした動きで龍牙の顔面に再び拳をぶつけた。
 しかし、龍牙は建物にぶつかる前に体勢を整え、上手く着地する。



「おらあああ!!!!」



 瞬時に溜めた妖力を、異形妖魔目掛けて投げつけると、妖力は斬撃へと姿を変えて、異形妖魔に一直線で向かっていく。
 どんなに硬い建物でも真っ二つになる龍牙の斬撃。
 だが、異形妖魔は自分の前に膜のようなものを張り、龍牙の斬撃を難なく避ける。



「チッ……」



 この斬撃を避けることができたのは、魁蓮のみ。
 本気で殺し合えば、司雀も虎珀も忌蛇も、一溜りもなく切り刻まれるだろう。
 それほどの威力だというのに、簡単に弾かれたことに龍牙は苛立っていた。



「テメェ、何モンだよ……異形妖魔とはいえ、出来すぎちゃいねぇか?」



 龍牙は汗を拭いながら、異形妖魔に語りかける。
 異形妖魔は真っ直ぐに龍牙に向き合うと、手のひらに妖力を溜めていく。



「ワレラ、オウノフッカツ、マッテイタ」

「あ?王の復活?魁蓮のことか?」

「ダガ、マダメザメテイナイ。マダ、コロセナイ」

「意味わかんねぇな……王の復活ってのが魁蓮だとしたら、もう目覚めたじゃねえか。封印は解かれたぞ」

「ダメダ、ダメダ……マダ、タリナイ……
 ダカラ、コロス。カ厶ナギヲ、サシダス」

「…………」



 (マジでわかんねぇ…………)



 なにか情報が掴めればと語りかけたが、異形妖魔から返ってくる言葉は、何一つ理解できなかった。
 せめて覚えられる言葉だけでも覚えておこうとするが、根拠も目的も分からないままでは、言葉だけじゃ物足りない。
 なにより、異形妖魔の強さが桁並外れている。
 魁蓮と出会って以降、負け無しの実力を誇っていた龍牙だが、そんな龍牙と互角に戦い合える妖魔がいることが驚きだ。



 (ああ、くそっ……いってぇな……)



 戦っている間も痛いが、何もせずに立っていると、集中が途切れて痛みを感じやすくなる。
 歯を食いしばり、龍牙は足の痛みを我慢した。
 これほどの実力を異形妖魔が持っているのならば、怪我が全く治らず酷く悪化するのにも納得がいく。
 ただの傷では無い、そう思うには十分の強さだった。
 そうして互いが見つめ合い続けていると、



「……………………」



 ふと、異形妖魔が左方向へと視線を流した。
 そして、じっと何かを見つめている。
 龍牙が片眉を上げて伺っていると、異形妖魔はずっと溜めていた妖力を、左へと向ける。
 そして、ゆっくりと口を開けた。





「ジャマダ、コロス」

「は?何言って…………っ!!」





 龍牙もつられて視線を向けると、龍牙の視線の先には、大きな動物のようなものが見えた。
 普通の動物ならば、肉眼では認識できない距離にいるが、それでも認識できる大きさの動物。
 それがなんなのか、考えなくても理解出来る。



「っ!よせ!!!!!!」





┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈



 龍牙が激戦を繰り広げる中、日向はあることを疑問に思う。
 それは、魁蓮のことだった。



「虎珀、なんで魁蓮アイツは助けに来ねぇの?」

「口を慎め人間!魁蓮様をアイツ呼ばわりするな!」

「えぇ、ご、ごめん。いやそれより!
 黄泉が大変なことになってんのに、何やってんだよ」

「……簡単に言えば、伝わってないんだ」

「は?どういうこと?」



 虎珀は日向を背中に乗せたまま、狙われないようにと少しずつ移動する。
 異形妖魔の攻撃を気にしながら、いつでも対応できるようにと身を潜めながら。



「黄泉は、魁蓮様の妖力の影響で、黄泉で起きていることが外に漏れにくくなっている。ここで殺し合いが起きても、現世には伝わらない」

「じゃあ、知らないってこと!?」

「そういう事だ。魁蓮様が黄泉に戻ってこない限り、この状況を知ることは無い。だから大変なんだ」

「ええっ、何やってんだよ

「人間!!!」

「ああもうごめんって!」



 現世にいる仙人が、黄泉についての情報があまり掴めていないのも、これが原因なのだろう。
 仙人に何も悟られないようにするためなのだろうが、今のこの状況では、情報が外に盛れないことが1番厄介なものだった。
 黄泉と現世を繋ぐ出入口に行こうにも、その近くで龍牙が戦っているため、近づくことも出来なかった。



「だが……まだ望みはある」



 ふと、虎珀がそう呟いた。
 日向が視線を落とすと、虎珀は黄泉の入口を見つめた。



「黄泉の状況を確認しにくるのは、魁蓮様でなくてもいいんだ」

「……どういうこと?」

「……忌蛇きじゃだ」

「忌蛇?忌蛇って、あの仮面の子?」

「ああ」



 虎珀が出した名前は、肆魔の1人である忌蛇。
 肆魔の中で、日向が1番関わっていない謎の多い妖魔だ。
 思い返せば、初めて会ったあの日から、日向は忌蛇の姿を見ていない。



「忌蛇は、黄泉より現世にいることが多いんだ。魁蓮様が現世にいる時、司雀様への伝達係として動くこともある。何かしらのきっかけで、忌蛇が黄泉へ入ってくれば、状況を見て魁蓮様に報告してくれるはず」

「じゃあ、それに賭けるしかないってことか」

「ああ……魁蓮様の居場所を、忌蛇が知っていればいいんだが……」



 その時。



 ドオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!



「うわっ!!!!!!!!」



 日向と虎珀の近くで、大きな爆発が起きた。
 日向は反射で頭を手で守り、ギュッと目を閉じる。
 虎珀はサッと日向を尻尾で守り、爆発に耐えた。



「なにっ!?」



 日向が目を開けて状況を確認すると……



「……えっ……」



 日向と虎珀の前には、1人の影が。
 だが、その姿に日向は驚愕していた。
 続けて虎珀も目を開け、目の前の光景に唖然とする。

 爆発で起きた砂埃の中には、2人を守って立ち尽くす龍牙がいた。
 しかし、2人の前にいた龍牙の姿は……
 全身傷だらけで大量出血の、おぞましい姿だった。



「ハァ……ハァ……」

「龍牙!!!!!」



 これには、虎珀も衝撃を受けている。
 龍牙は、ゆっくりと肩で息をしていた。
 少しフラフラしながら、倒れないようにと踏ん張っている。
 何が起きたのだろうかと確認する前に、ガタッと龍牙の前から音がした。
 日向が音の方へと視線を向けると、そこには真っ黒な人間の姿になった異形妖魔がいた。
 すると、異形妖魔は日向を真っ直ぐに見つめ、日向に向けて手を出してくる。
 そして、ポツリと呟いた。


「シネ」





 その頃。
 ある妖魔が、黄泉の入口から顔を覗かせていた。
 古い鬼の仮面をつけたその妖魔は、黄泉で起きている騒動に目を見開いている。



「何これっ……魁蓮さんを探さないとっ……!」



 黄泉で起きている騒動に驚き、その妖魔はサッと姿を消した。
 そして、そのまま現世へと戻ってくると、慌てて駆け出す。
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