愛恋の呪縛

サラ

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第80話

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 突如として現れた、灰色の雲。
 その雲から、ゴロゴロと雷の音が聞こえた。
 雲は、魁蓮たちがいる町だけでなく、周りにあった軽く被害を受けていた町まで広がる。



「無傷では、終わらせねぇぞ……!!!!!」



 すると、異型妖魔の全身を雷が覆った。
 体内から流出する雷の妖力が、飲み込むように異型妖魔にまとわりつく。
 同時に、頭上の雲の雷音が激しさを増した。
 町全体に、ビリビリとしたものが広がる。

 そして、異型妖魔の妖力が極限まで満たされた瞬間。





奥義おうぎ……大雷柱だいらいちゅう!!!!!!!」





 異型妖魔は空に伸ばしていた片手を握りしめ、思い切り地面にバンっと拳を打ち付けた。
 直後。



 ドオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!



 複数の町を覆い尽くしていた灰色の雲から、まるで柱のような雷が、轟音を立てて落とされた。
 轟音は花蓮国全体に響き渡り、落雷の衝撃で地は揺れた。
 そして、大きな雷の柱の中にいた人々と建物は、全身で雷を受ける。
 ただの雷では無い、異型妖魔の極限まで溜め込んだ妖力が加わった雷。
 当然、当たった全員が丸焦げで即死。
 建物も粉々になり、辺りで炎が一気に燃え上がる。

 複数の町が、落雷1つで壊滅した。



















「はぁ、はぁ、ゔっ……はっ、はぁ……」



 今の攻撃で、異型妖魔は妖力を使い果たしていた。
 全身は傷だらけの血だらけ。
 朦朧とする意識の中、地面に膝をつく。
 周りを見渡せば、大火事状態。
 人間は誰1人生き残っていなかった。



 (殺せたのか……?いや、そもそも無傷ではいられないはずっ……)



「ゴホッゴホッ……」



 1度に大量の妖力を放ったせいか、異型妖魔は反動で吐血していた。
 正直、もう助からないところまで来ている。
 その代わり、大打撃を与えられたはずだと、高を括っていた。



「ここまでの攻撃っ……流石の鬼の王でもっ」



 その時。



 パン、パン、パン。



 何やら、手を叩く音が聞こえる。
 異型妖魔がその音へと視線を向けると……



「ククッ、なかなかやるでは無いか。見事だぞ?」

「……はっ……?」



 顔を上げた先には、手を叩きながら異型妖魔へゆっくりと近づく魁蓮の姿が。
 目を凝らさずとも分かる、余裕の面持ち。
 そして……その体は、無傷だった。



 (な、んで……)



 異型妖魔は、言葉を失った。
 今の攻撃は、確かに町全てを飲み込んだ。
 人間が全員死んだように、魁蓮にも攻撃は当たるはず。
 ならばなぜ、この男は無傷なのか。
 魁蓮は異型妖魔の近くまで来ると、足を止めた。



「異型は、奥義も扱えるのか?少々驚いたぞ。
 だが、は無理だったか?我を殺すならば、禁伝でなければ勝てぬ」

「禁、伝……?」



 魁蓮の言葉に、異型妖魔は首を傾げた。
 その反応に、魁蓮は眉を上げる。



「そうか。貴様らは人工的に作られた妖魔故、知らぬのか。まあ、奥義を扱えただけでも褒められたものだろう」



 そう言うと魁蓮は、腕を組んで話しだす。
 


「奥義は、妖魔が扱う技の真骨頂。扱えるのは、言葉を話し知能が備わっている強き妖魔のみの大技だが、奥義は強き妖魔であれば、誰でも到達できるものだ。
 対して禁伝きんでんは、強き妖魔でも限られた者しか扱えない、奥義を超えた大技……秘義とも言える」

「秘義……?」

「禁伝は奥義とは違い、その妖魔が強く影響を受けたものが基盤となり、それが技として構成される。当たれば瞬殺の必中技だが、技の規模と妖力の消費が桁違い故、扱うのは極めて困難だ。
 反動が来る者もいれば、最悪死ぬ者もいる」



 妖魔が扱う技の頂点が「奥義」ならば、
 その頂点を超え、限界突破した技が「禁伝」
 異型妖魔のように、雷を使った最高峰の技ではなく、妖力や備わった力は関係なしに、その妖魔が1番影響を受けたものが技となる、極めて珍しいものだ。



「禁伝はふとした時に気づくものであり、己で作り上げるものでは無い。
 まあ、そこから技を磨くという手はあるがなぁ」

「……その口ぶり的に、アンタは持ってんだろうな」

「さてな。好きに考えておけ」



 そう言うと魁蓮は、異型妖魔の足元にミンを作り出す。
 もう力が入らない異型妖魔は、されるがままだった。
 ただ足元から広がる影を見つめるだけ。



「異型とはいえ、幾分マシな戦いだった。
 誉めてやる、いいあそびにはなったぞ?」

「……ハハッ、そうかよ。そりゃ光栄だな」



 異型妖魔は小さく笑うと、目を閉じた。
 もう、抵抗する気力さえ無かったようだ。
 己の死を受けいれたところで、魁蓮は妖力を込める。
 そして……



シャオ



 魁蓮が呟くと、異型妖魔は内側からバンッと弾け飛んだ。
 辺りに異型妖魔の肉片が飛び散り、その場に血だまりが出来上がる。
 魁蓮は笑みを消すと、じっとその血だまりを見つめた。



「覡、か……」



 新たに分かった、異型妖魔たちの目的。
 だが、魁蓮は本当に身に覚えがなかった。
 なぜ自分が持っていると思われたのか、いくら考えても思いつかない。
 ふぅっと小さく息を吐くと、辺りを見渡す。



「人間を殺さずに戦うのは、少々骨が折れるな」



 魁蓮は、異型妖魔と戦いながら気をつけていた。
 人間を1人も殺さないようにすることを。
 誰も殺さない、それが日向との約束だった。
 技も全て、異型妖魔にだけ影響が行くようにした。
 結局、異型妖魔の手によって皆殺しになってしまったが、魁蓮にとってはどうでもいいこと。
 殺せないとはいえ、人間の生死に興味は無い。



「いつの世も、人間は忌々しいな」



 そう魁蓮が呟いた瞬間。



 

 キィィィィィィィィン!!!!!!!!!!!





 魁蓮の背後で、甲高い音が鳴り響く。
 魁蓮は、ゆっくりと振り返った。



「生きていたか……糞餓鬼」



 背後にいたのは、双璧の1人・瀧だった。
 瀧は剣で魁蓮に切りかかろうとしたが、魁蓮が瞬時に足元から出したジアの鎖で、防がれてしまった。
 瀧は1度離れると、剣の切っ先を魁蓮に向けて睨みつける。



「テメェの仕業か……?」



 どうやら、町の被害のことを聞いているようだった。
 異型妖魔がいなくなった今、疑われるのは仕方の無いことだろう。
 魁蓮はため息を吐くと、体ごと振り返る。



「そう思うか?
 貴様の霊力ならば、この被害が誰によるものか分かるはずだが。意地でも我のせいにしたいらしいな」

「だって、有り得ねぇだろ。
 テメェが、人間を1人も殺していないなんて。これだけ暴れたってのにっ……」

「ククッ、分かっているではないか。
 我は人間なんぞ殺しておらぬと」

「っ……なんでだ、何を考えてやがるっ……!」



 瀧は魁蓮を睨みつけると、魁蓮はニヤリと口角を上げた。



「覚えているだろう?小僧との約束。
 小僧が我のものである限り、我は人間を殺さん」

「っ!」

「案ずるな、小僧は我の城で息災だ」



 ふと、魁蓮は眉を八の字にして、煽るような笑みを浮かべる。



「小僧には、愉しませてもらっている。
 何時も、良い声で鳴くからなぁ……?」



 当然、嘘だ。
 瀧を煽るための虚言に過ぎない。
 だが、相手が魁蓮というせいか、瀧はそれが嘘だと見抜けなかった。
 瀧は瞬時に剣に霊力を込めると、再び魁蓮へと飛び出した。
 素早い動きで振り下ろされた剣を、魁蓮は同じように鎖で受け止める。



「日向にっ、何をしている!?日向を返せ!!!!」

「返す……?あれは我のものだぞ?
 どこに自分の所有物を渡す莫迦がいる……?」

「日向は仙人じゃない、普通の人間だ!!!!!
 テメェが利用していい子じゃない!!!!!!」

「ハハッ、殺気立っているなぁ。
 若さ故か?ククッ、良い良い」



 すると突然、瀧の剣を受け止めていた鎖が強度を増し、思い切り瀧を弾け飛ばす。
 瀧はすぐに身構えたため、難なく地面に降り立った。
 だが、瀧の怒りは収まらない。
 怒りに身を任せている瀧の姿に、魁蓮は困ったように笑った。



「心配せずとも、小僧は殺さん」

「……は?」

「事情が変わってなぁ。
 小僧を殺すのは惜しい。近々、面白いものが見れるぞ?」

「………………」



 (まあ、、殺さんがな……)



 その時、魁蓮は瞬時に妖力を込めた。
 空気の異変に気づいた瀧は、すぐに剣を構える。
 魁蓮は瀧を見つめながら、ニヤリと口角を上げた。



「小僧が待っているのでな、黄泉へ帰るとしよう。
 またな、仙人の餓鬼よ。次は殺してやる」



 魁蓮はそう言うと、フッと姿を消した。
 1人取り残された瀧は、ガクッと力が抜ける。





「瀧!!!!!」





 その時、後ろから凪の声がした。
 瀧が振り返ると、凪は慌てた様子でこちらに走ってきている。
 凪が瀧の元へたどり着くと、息を整えながら口を開いた。



「もう!なんでいつも1人で行くのさ!危ないから2人で居ようって言ったじゃん!」

「……悪ぃ」

「あれ、どうしたの?」

「……いいや、何でもねぇよ。行こうぜ」

「え、う、うん……」



 瀧は凪の言葉を遮り、歩き出す。
 剣を鞘に入れると、先程の魁蓮の言葉を思い出していた。





【事情が変わってなぁ。
 小僧を殺すのは惜しい。近々、面白いものが見れるぞ?】





 (何を企んでやがる……鬼の王……)
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