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第157話
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「決まっているだろ!!
お前をっ、傷つけられたくないんだ!!!!!!」
魁蓮の声が、辺りに響き渡った。
魁蓮自身も驚くほどの声量。
間近でその声を聞いた日向は、驚いて固まっている。
あまりにも聞いた事のない魁蓮の声量に加え、魁蓮が発した言葉。
そのふたつが同時に襲いかかってきて、日向の思考を止める。
対して魁蓮は、あまり出さない声量に力が入ってしまい、肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ……」
「えっ……か、魁蓮……それ、どういうことっ……。
傷つけられたくないって…………何でっ」
「小僧……お前はっ、何故いつもそうなのだ……」
「えっ……?」
魁蓮は、ゴクリと唾を飲み込むと、日向を真っ直ぐに見つめた。
こんなにも理解が出来ないならば、ちゃんと言うしか無いだろう。
「小僧、お前は我のものだろう!何故、我の許可もなく身を滅ぼすような真似を考えるのだ!」
「えっ、ち、違っ……僕はただっ」
「何故分からない?
己のものに手を出されて、平気でいられるわけないだろう!愚者に、下劣に……考えるだけで腹立たしい」
「っ……!」
「我のものだという自覚を持て。他の愚者に下るな。下劣に触れさせるな。もう何度も忠告してきたことだぞ!なのにお前はっ」
「ちょっ、ちょっと魁蓮!待って!
どうしちゃったのさ。ずっと思ってたんだけど、今までそんなこと言わなかったじゃん!前だって……」
「………………………………」
日向の発言に、魁蓮は言葉が喉に詰まった。
そして同時に、苛立ちがさらに込み上がる。
(我が……己の異変に気づいていないわけないだろ)
そんなの、言われなくても分かっていた。
魁蓮は分かっている、自分が今までとは何かが違うことくらい。
言っていることも、考えることも。
1度だって思ったことない事ばかりが浮かんできて、今までの性格や思考はどこへ行ったのかと思うほど、自分が自分じゃ無いみたいだった。
それもこれも全て、日向が関連していることばかり。
「忌々しいっ……何なんだ、これはっ……」
「か、魁蓮……?」
魁蓮は、自分の胸元をドンッと叩いた。
自分のものに手を出される、それは確かに不愉快な事ではある。
それは嘘では無い、本当に嫌なのだ。
でも、こんなに気にすることだったのだろうか。
手を出されるのは嫌だ、でも取り返しがつかないと分かってしまえば、魁蓮は諦めることくらいできる。
今までだって、そうしてきたことはあった。
なのに、日向は。
日向だけが、そういういうわけにはいかない。
そもそも、諦めるという選択肢が出てこない。
「腹立たしい……」
自分のことなのに、まるで理解できない。
魁蓮は、今までの自分のことを振り返った。
初めは確かに、利用するだけのつもりだった。
類を見ない日向の力は、人間・仙人・妖魔、その全てに対抗出来る力の1つだと。
魁蓮が持ち得る強い力に加えて、日向の全快の力があれば、自分は死ぬこともないし誰も自分に逆らわない。
本当の意味で全てが思い通りになる、そんないい加減な考えだった。
でもその約束はある日を境に、より固いものになった。
【僕を、他の妖魔に殺されないように守ってくれ。もちろん、それ相応の対価もやる】
【ほう?対価はなんだ?】
【……力だけじゃない。僕の、全て】
日向が力だけでなく、身も心も捧げると。
でもその代わりに、日向を守るという条件が増えた。
人間を殺してはいけない、誰一人として。
代わりに、人間である日向を守る。
正直、魁蓮としては腹立たしいものだった。
何故自分がそんなことをしなければならないのか、何故人間如きを守らなければならないのか。
人間を守るなど、妖魔としては屈辱的なもの。
相手が特別な力を持った人間でなければ、気が済むまで痛めつけてから殺している。
だが、日向に関しては逆に好都合だった。
(小僧の全てが我のものならば……痛ぶるのも、利用するのも、殺すのも、全て我の自由……)
必要な時に利用し、不要になったら殺せばいい。
結局、自分に全てを差し出してきた日向があまりにも愚かで、暇つぶしと興味で引き受けた約束だった。
表向きでは優しい姿で対応しながら、本音は無様な姿を愉しむため。
どちらにせよ、日向は人間なのだから。
魁蓮が大嫌いな、人間の1人なのだから。
その、はずだったのに……。
(……全ては、我の失った記憶のせいだっ……)
この世に復活した瞬間。
抜け落ちたように思い出せない、過去の記憶。
覚えているのはほんの少しで、他者との関係性は忘れていなかった。
だから何とか隠し通すことが出来たものの、周りは口を揃えて言う。
『日向は、魁蓮の大切な人。或いは似ている人』
だから、殺したくても殺せない。
失われた記憶を取り戻すための存在として、今日まで生かしてきた。
なのに、記憶は一向に戻らない。
と思えば、試行錯誤しているうちに日向は誰かに呪縛をかけられている。
頭にくる、本当に腹立たしい。
口では誰のものにもならないと言っていたくせに、見知らぬ誰かに縛られている。
この上なく、魁蓮の神経を逆撫でするには十分だ。
でも、ちゃんと振り返ると……少し引っかかる。
「魁蓮!ねぇ、魁蓮!!」
腹立たしい、忌々しい。
こんな人間如きに動かされている自分に、魁蓮は心底呆れてしまう。
だと言うのに、どうしても手離したくないと思ってしまうのだ。
日向は、ちゃんと自分のもののはずなのに。
本人だって、それを認めて受け止めている。
なのに、どうしてだろう。
何かが足りない、まだ足りない、満ちていない。
見えない穴があって、埋まった気がしないのだ。
「魁蓮ってば!ねぇ魁蓮!!!!」
欠けた記憶の部分なのか。
別の何かが抜け落ちているのか。
それが分かれば、どれだけ楽だろう。
自分のことが分からなくなることなんて、1度もなかったのに。
(小僧……お前を見るだけで、腹立たしくなる……。
何も理解出来ていない、その顔がっ……)
思えば、いつからだっただろう。
こんなにも、日向のことに対して神経質になったのは。
大して気にもしなかったのに、日向の力さえ残っていれば、日向という存在なんてどうでもよかったのに。
一体、いつから……。
魁蓮がそう考えるのは、いつしか多くなっていた。
自分のことが分からなくなって、挙句日向を見ればもっと分からない。
心臓か内蔵か、何かがムズムズして仕方がない。
はっきり言って、気持ちが悪かった。
だから離れたい、自分の頭を整理するために。
でも離れたら……どこかに行って消える気がした。
何故そう思うのか、何故気になるのか。
以前と同じだ、意味のわからないことを気にしだす。
冷静になれ、何度もそう言い聞かせて。
何が駄目なのか、何を求めているのか。
自分は、一体…………いや、違う。
1番気にするべきは、過去だ。
抜け落ちた過去の記憶に、全てが隠されている。
どうして失った?思えば、何故封印された?
どうして日向は、復活させることが出来た?
何故?どうして?何が起きている……?
自分は……………………何者なのか。
「魁蓮!!!!!!!!!!」
「っ…………」
その時。
思考がぐちゃぐちゃになっていた魁蓮の耳に、司雀の声がした。
ここは裏山だ、なぜ司雀の声がした?
魁蓮が疑問を抱いて顔を上げると……。
「落ち着きなさい……力を押えて」
顔を上げた先は、大きな杖を構える司雀。
何かを守るようにして構える忌蛇。
そして…………。
忌蛇の後ろで、何やら苦しみながら涙を流している日向の姿があった。
お前をっ、傷つけられたくないんだ!!!!!!」
魁蓮の声が、辺りに響き渡った。
魁蓮自身も驚くほどの声量。
間近でその声を聞いた日向は、驚いて固まっている。
あまりにも聞いた事のない魁蓮の声量に加え、魁蓮が発した言葉。
そのふたつが同時に襲いかかってきて、日向の思考を止める。
対して魁蓮は、あまり出さない声量に力が入ってしまい、肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ……」
「えっ……か、魁蓮……それ、どういうことっ……。
傷つけられたくないって…………何でっ」
「小僧……お前はっ、何故いつもそうなのだ……」
「えっ……?」
魁蓮は、ゴクリと唾を飲み込むと、日向を真っ直ぐに見つめた。
こんなにも理解が出来ないならば、ちゃんと言うしか無いだろう。
「小僧、お前は我のものだろう!何故、我の許可もなく身を滅ぼすような真似を考えるのだ!」
「えっ、ち、違っ……僕はただっ」
「何故分からない?
己のものに手を出されて、平気でいられるわけないだろう!愚者に、下劣に……考えるだけで腹立たしい」
「っ……!」
「我のものだという自覚を持て。他の愚者に下るな。下劣に触れさせるな。もう何度も忠告してきたことだぞ!なのにお前はっ」
「ちょっ、ちょっと魁蓮!待って!
どうしちゃったのさ。ずっと思ってたんだけど、今までそんなこと言わなかったじゃん!前だって……」
「………………………………」
日向の発言に、魁蓮は言葉が喉に詰まった。
そして同時に、苛立ちがさらに込み上がる。
(我が……己の異変に気づいていないわけないだろ)
そんなの、言われなくても分かっていた。
魁蓮は分かっている、自分が今までとは何かが違うことくらい。
言っていることも、考えることも。
1度だって思ったことない事ばかりが浮かんできて、今までの性格や思考はどこへ行ったのかと思うほど、自分が自分じゃ無いみたいだった。
それもこれも全て、日向が関連していることばかり。
「忌々しいっ……何なんだ、これはっ……」
「か、魁蓮……?」
魁蓮は、自分の胸元をドンッと叩いた。
自分のものに手を出される、それは確かに不愉快な事ではある。
それは嘘では無い、本当に嫌なのだ。
でも、こんなに気にすることだったのだろうか。
手を出されるのは嫌だ、でも取り返しがつかないと分かってしまえば、魁蓮は諦めることくらいできる。
今までだって、そうしてきたことはあった。
なのに、日向は。
日向だけが、そういういうわけにはいかない。
そもそも、諦めるという選択肢が出てこない。
「腹立たしい……」
自分のことなのに、まるで理解できない。
魁蓮は、今までの自分のことを振り返った。
初めは確かに、利用するだけのつもりだった。
類を見ない日向の力は、人間・仙人・妖魔、その全てに対抗出来る力の1つだと。
魁蓮が持ち得る強い力に加えて、日向の全快の力があれば、自分は死ぬこともないし誰も自分に逆らわない。
本当の意味で全てが思い通りになる、そんないい加減な考えだった。
でもその約束はある日を境に、より固いものになった。
【僕を、他の妖魔に殺されないように守ってくれ。もちろん、それ相応の対価もやる】
【ほう?対価はなんだ?】
【……力だけじゃない。僕の、全て】
日向が力だけでなく、身も心も捧げると。
でもその代わりに、日向を守るという条件が増えた。
人間を殺してはいけない、誰一人として。
代わりに、人間である日向を守る。
正直、魁蓮としては腹立たしいものだった。
何故自分がそんなことをしなければならないのか、何故人間如きを守らなければならないのか。
人間を守るなど、妖魔としては屈辱的なもの。
相手が特別な力を持った人間でなければ、気が済むまで痛めつけてから殺している。
だが、日向に関しては逆に好都合だった。
(小僧の全てが我のものならば……痛ぶるのも、利用するのも、殺すのも、全て我の自由……)
必要な時に利用し、不要になったら殺せばいい。
結局、自分に全てを差し出してきた日向があまりにも愚かで、暇つぶしと興味で引き受けた約束だった。
表向きでは優しい姿で対応しながら、本音は無様な姿を愉しむため。
どちらにせよ、日向は人間なのだから。
魁蓮が大嫌いな、人間の1人なのだから。
その、はずだったのに……。
(……全ては、我の失った記憶のせいだっ……)
この世に復活した瞬間。
抜け落ちたように思い出せない、過去の記憶。
覚えているのはほんの少しで、他者との関係性は忘れていなかった。
だから何とか隠し通すことが出来たものの、周りは口を揃えて言う。
『日向は、魁蓮の大切な人。或いは似ている人』
だから、殺したくても殺せない。
失われた記憶を取り戻すための存在として、今日まで生かしてきた。
なのに、記憶は一向に戻らない。
と思えば、試行錯誤しているうちに日向は誰かに呪縛をかけられている。
頭にくる、本当に腹立たしい。
口では誰のものにもならないと言っていたくせに、見知らぬ誰かに縛られている。
この上なく、魁蓮の神経を逆撫でするには十分だ。
でも、ちゃんと振り返ると……少し引っかかる。
「魁蓮!ねぇ、魁蓮!!」
腹立たしい、忌々しい。
こんな人間如きに動かされている自分に、魁蓮は心底呆れてしまう。
だと言うのに、どうしても手離したくないと思ってしまうのだ。
日向は、ちゃんと自分のもののはずなのに。
本人だって、それを認めて受け止めている。
なのに、どうしてだろう。
何かが足りない、まだ足りない、満ちていない。
見えない穴があって、埋まった気がしないのだ。
「魁蓮ってば!ねぇ魁蓮!!!!」
欠けた記憶の部分なのか。
別の何かが抜け落ちているのか。
それが分かれば、どれだけ楽だろう。
自分のことが分からなくなることなんて、1度もなかったのに。
(小僧……お前を見るだけで、腹立たしくなる……。
何も理解出来ていない、その顔がっ……)
思えば、いつからだっただろう。
こんなにも、日向のことに対して神経質になったのは。
大して気にもしなかったのに、日向の力さえ残っていれば、日向という存在なんてどうでもよかったのに。
一体、いつから……。
魁蓮がそう考えるのは、いつしか多くなっていた。
自分のことが分からなくなって、挙句日向を見ればもっと分からない。
心臓か内蔵か、何かがムズムズして仕方がない。
はっきり言って、気持ちが悪かった。
だから離れたい、自分の頭を整理するために。
でも離れたら……どこかに行って消える気がした。
何故そう思うのか、何故気になるのか。
以前と同じだ、意味のわからないことを気にしだす。
冷静になれ、何度もそう言い聞かせて。
何が駄目なのか、何を求めているのか。
自分は、一体…………いや、違う。
1番気にするべきは、過去だ。
抜け落ちた過去の記憶に、全てが隠されている。
どうして失った?思えば、何故封印された?
どうして日向は、復活させることが出来た?
何故?どうして?何が起きている……?
自分は……………………何者なのか。
「魁蓮!!!!!!!!!!」
「っ…………」
その時。
思考がぐちゃぐちゃになっていた魁蓮の耳に、司雀の声がした。
ここは裏山だ、なぜ司雀の声がした?
魁蓮が疑問を抱いて顔を上げると……。
「落ち着きなさい……力を押えて」
顔を上げた先は、大きな杖を構える司雀。
何かを守るようにして構える忌蛇。
そして…………。
忌蛇の後ろで、何やら苦しみながら涙を流している日向の姿があった。
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