愛恋の呪縛

サラ

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第169話

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 ある日の、昼頃。



「おーい虎!そっち持ってくれー!」

「少し待て!こっちを先に終わらせなきゃいけない!」

「ああ、龍牙さん!僕行くよ!」

「おぉ!悪ぃな忌蛇!」



 魁蓮との言い争いが起きたあの日から、いつの間にか3ヶ月以上が経っていた。
 様々なことが起こって、時の流れが遅く感じた夏の季節は消え去り、気づけば11月下旬。
 世は秋をまとい、冬を取り込む準備を進めていた。
 黄泉は今日も今日とて、穏やかな気温の中。
 今は、少し肌寒く感じる程度だ。



「なあ虎ー、もう少し高くしてもいいんじゃねえの?」

「でも、高すぎると危ないだろ。俺はこれでもいいと思うが……忌蛇はどう思う?」

「んー……でも、もう少し高くても大丈夫、だと思う。高い方が喜びそう。それに、子どもが使うとはいえ妖魔の体だから、落ちても問題ない……と思う」

「うっし!忌蛇もこう言ってるし、もっと高くするぞー!」

「ったく……少しだけだぞ?龍牙」



 ここ最近、肆魔は子どもが遊べるを庭で作っていた。
 事の発端は、司雀が彼らに話した内容だった。
 司雀の調べによれば、黄泉で暮らしている子ども妖魔が、年々増えているという。
 子どもたちは、大人の手伝いをしたりして過ごしているが、生憎この黄泉には子どもが遊べるような場所も、遊具もなかった。
 子どもは、元気いっぱい遊んでなんぼだ。
 何か子どもたちが喜ぶものは無いかと司雀が悩んでいた時、日向が「遊具を作ってはどうか」と提案した。
 それがきっかけで始まったのだ。

 肆魔と名乗るだけある彼らは、黄泉にいる妖魔たちに比べれば知能もある。
 協力すれば、遊具を作るのは難しいことではない。
 初めは何も考えずにいきなり作業に取り掛かったが、今は十分形になってきているところ。
 丈夫な木を使った、木造遊具になっていた。

 そしてその制作には、も参加している。



「ここ、ツルで縛った方が良さそうだな……。
 日向ぁ!長ぇツル作ってー!」

「了解ー!」



 そう、日向もこの制作に参加していた。
 それも組み立てる係ではなく……
 木造遊具の、材料制作だった。

 日向は龍牙から指示を受けると、慣れた手つきで力を込めていき、その力からツルを作り出した。
 一瞬で数本のツルを作ると、日向はツルに問題ないかの確認をし、何も無いと分かればひとつにまとめた。



「龍牙、高いところにいるな……」



 日向は視線を上に向けた。
 ツルをお願いした龍牙は、遊具でもかなり高い所にいた。
 ツルは出来たものの、簡単には届けられない。
 少しでも早く届けるために、なにか出来ないかと頭で考える。



「あっ、そうだ!」



 ふと、日向はあるひとつの考えを思いつく。
 すると早速日向は、先程と同じように力を込めて、地面にそっと触れた。
 直後、地面から大きな根が顔を出した。
 根はそのまま、引き寄せられるように日向の元へと近づいてくる。
 目の前まで根が近づいてくると、日向はまるで動物を愛でるように、根を優しく撫でた。
 そして、まとめたツルを指さす。



「突然呼んで悪ぃ、ちょっと頼みがあるんだ。
 このツルを、上にいる龍牙に届けてくれ」



 日向は根にまとめたツルを乗せると、根は遊具の高い場所で作業をしている龍牙に向かって伸びていった。
 上へ上へと伸びていく根、そして龍牙の所までたどり着くと、根はトントンと龍牙の背中を叩く。



「ん?……うお!びっくりした!!」



 背後まで伸びてきた根に、龍牙は目を見開く。
 すると、下にいた日向は、龍牙に手を振りながら大声を出した。



「龍牙ー!そこに乗せてるから取ってー!」

「ん?おぉ、これか!超頑丈じゃん!
 さっすが日向!ありがとなー!」

「お易い御用だよー!」



 龍牙は根が持ってきたツルを受け取り、再び作業に戻る。
 そして役目を終えた根は、ゆっくりと日向の所へ戻ってきた。



「凄く助かったよ、ありがとな!」



 戻ってきた根を撫でながらそう言うと、根はそのままゆっくりと地面の中へと戻っていった。

 この3ヶ月の間、彼らには様々な出来事があった。
 中でも1番変化があったのは、紛れもない日向だ。



 この3ヶ月の変化。
 まずは、龍牙がを習得したこと。
 初めて異型妖魔が黄泉に襲撃してきたあの日以来、龍牙は密かに修行に励んでいた。
 自分に足りないもの、伸ばすべき部分、その全てを振り返り続け、やっと達成した目標だった。
 今は奥義が上手く使えるよう、効率のいい妖力の扱い方を練習しているところだ。

 そして次に、龍牙と虎珀。
 魁蓮との言い争いの日から数日後、どうやら自然と元の関係に戻ることが出来たという。
 特別話し合いもせず、ごく自然と。
 確かに、はたから見れば以前と変わらない2人のようにも見えるが、龍牙の態度は明らかに変わった。
 虎珀にやたらと近づくことは無くなり、彼に甘えるような仕草もしなくなった。
 どこか壁を作っているような、龍牙の態度。
 そしてその変化は、虎珀もうっすらと気づいている。
 ぎこちない面も出てきた2人、今の彼らの関係性の真相は、誰にも分からない。
 一体、お互いのことをどう思っているのか。

 今度は、忌蛇。
 彼は些細な変化だが、最近筋力が上がったのだ。
 肆魔の中では筋力が1番無かった忌蛇は、ずっとその事を気にしていた。
 そのため、必死に体の訓練を続けていたのだ。
 結果、今となっては筋肉質な体を持つ龍牙を、数秒程度なら抱えあげれるようになった。
 見た目はあまり筋肉がついたようには見えないものの、それなりの成長は出来ている。
 小さな変化でも、本人は大喜びだった。


 そして、1番変化が起きたのが日向。
 彼の変化は、急激な力の成長と扱い方だった。

 3か月前はまだ不慣れだった花を咲かせる方法も、今となっては問題なく出来るようになった。
 それだけではない、植物であればなんでも作り出すことが出来るようになったのだ。
 そして作り出すだけでなく、日向はその作り出した植物を自在に操り、尚且つ自然の中にある植物も、日向の力を与えれば簡単に操ることが出来た。
 この3か月、日向は自分の力と懸命に向き合い続けた結果、この扱い方が可能になったのだと言う。
 もちろん、怪我を治す力も健在だ。
 神秘的な力は、今も尚成長し続けている。



「おーい人間、ちょっといいか」

「ん?何?」

「悪いが、あと少し木材が欲しいんだ」

「木材?同じ種類のやつでいいの?」

「あぁ、頼む」

「任せろ!すぐ作るわ!」



 日向は虎珀からそう言われると、再び力を込めて、今度は種のようなものを作り出した。
 そしてその種を庭に軽く埋めると、日向は種を埋めた場所に向かって力を流し込む。
 直後、地面から芽が顔を出し、みるみるうちに大きく成長していく。
 そしてそのまま伸びていき、一瞬で立派な木へと姿を変えた。



「ここに置いとくわ」

「……便利だな、お前の力」

「植物だけだけどね」



 日向は小さく笑った。
 確かに、日向が操ることが出来るのは植物だけ。
 だが逆に言えば、自然だらけの山や森に入り込めば、彼はほぼ無敵に近いだろう。
 類を見ない日向の力は、まさに人外ものの力だ。




「日向が作る木は、自然にあるやつより頑丈だから、餓鬼どももいっぱい遊べるだろ!」




 作業を終えた龍牙は、トントンと遊具を叩きながらそう話す。
 3ヶ月、日向の力の成長をずっと見てきた肆魔。
 自分たちが今扱っている木材も、全て日向の力によって作られたもの。
 そう考えれば、日向は本当に大きく成長したと言える。
 そしてそれは、全員が同じ意見だった。

 そうして作業を続けていると……



「皆さん、少し休憩しませんか?」



 食堂から、司雀がやってきた。
 司雀の手には、人数分のお茶と食べやすい大きさのおにぎりが乗せられたお盆がある。
 それを見た途端、作業をしていた全員の手が止まった。



「おにぎりを作ったのですが、召し上がります?」

「「「「食べるー!!!!」」」」

「おやおや、ふふっ」





 ┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈





「司雀のおにぎり、うんめぇー!」



 その後、日向たちは庭に座って休憩をとった。
 おにぎりとお茶を囲んで輪になり、ゆったりとくつろいでいる。
 沢山あったおにぎりも、いつのまにか残り少しになっていた。



「あと少しで出来上がりそうだな!完成したら、早く子どもたちのところに持っていきてぇー!」



 龍牙は遊具を見つめながら、目をキラキラさせていた。
 毎日毎日、黄泉にいる子ども妖魔たちのために作ってきた木造遊具。
 喜んでくれるだろうかと期待を胸に、頑張ってきたものだ。



「きっと喜んでくれるさ。皆が頑張って作ったんだもん」



 龍牙の言葉を聞いた日向は、そう話す。
 その時、遊具を見つめていた司雀が、日向に視線を向けた。



「ですが日向様。そんなに力を使ってよろしいのですか?またどこか、体調が悪くなったりとか……」



 司雀は、日向の体調を心配していた。
 というのも、日向の力が成長して上手く扱えるようになったことと同時に、日向の体が少しのだ。
 具体的には、長い時間走ることが出来なくなったり、激しい運動はすぐ息切れを起こすようになった。
 何故かは分からない、不思議な力が大きくなる代償なのかどうかも不明だった。
 だが日向は、意外にもケロッとしている。



「ん?あぁ全然平気よ?対してキツくないし、今日はそんなに力使ってないからさっ」

「それなら、良いのですが……」

「心配すんなって!何かあったら、ちゃんと言うよ。それに、龍牙たちが近くにいるから問題ない!」

「そうですか?ならば、分かりました」



 何かと強くなってきた日向の力。
 司雀は日々心配しているが、日向の元気な姿を見る度に、ほっと胸をなで下ろしていた。

 その時、ふと龍牙が口を開く。



「ところで司雀。最近、魁蓮は帰ってきたのかよ」

「「「「っ………………」」」」
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