お気楽少女の異世界転移――チートな仲間と旅をする――

敬二 盤

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第四章『不穏な空気! エグリゲイション聖国』

関話『留めし幼子渡れよ来世』

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『留めし幼子渡れよ来世』
著者 ディア・ダーボー
保管場所 世界識別番号380351の231・時空の狭間図書館



昔々、とある雷鳴が鳴る夜に一人の赤子が生まれました。

その赤子は白く透き通った髪と、黒く落ち着いた瞳の子であった。

両親は、そんな赤子にローホと名付けた。

ローホはあまり泣かない子だった。

ローホは生まれてすぐに泣かずに、両親を困らせた。

しかし健康に、すくすく育っては行っていた。

三歳になる頃、ようやく小さいながらも喜怒哀楽の表情を見せる様になり、五歳の頃にはすっかり普通の子供と変わらない様な表情を見せる様になった。

両親はローホが成長する度に、とても喜んでいた。

そして時は経ち、ローホの15歳の誕生日がやってきた。

この世界において15歳とは成人年齢であり、商業ギルドに登録できる様になる年である。

街から離れたこの村において、商業ギルドに登録している者は村に無い物を入手する事ができる希望であった。

そして、小さい頃から商業ギルド登録の試験を合格する為に勉強していたローホは、この記念すべき日に街へ向かう………筈だった。

いざ街へ向かおうと準備万端で馬車に乗り込んだ矢先、母親が倒れたという連絡がローホの耳に入る。

馬車を飛び降り、息も忘れるぐらいの力で母親の前まで走ってきたローホは目にしてしまった。

母親の、苦しそうな姿を。

45歳にローホを産み、愛情を与えながら育ててくれた母親は、もう事切れる寸前であった。

ローホは母親に駆け寄った。

そして母親に声を掛けた。

まだ死なないで、生きて、と。

しかし現実は非情である。

母親はローホの頬を優しく撫でると、震える唇で『ありがとう』と掠れた声で言い、倒れた。

ローホは母親の手を掴んだ。

そして叫んだ。

嫌だ、死なないで、と。

必死の呼び掛けも幸を成さず、段々と冷たくなっていく手の温度を感じたローホは崩れ落ちた。

それと同時に、自分の中で変な感情が暴れまわるのを感じる。

そしてその感情が自身の心臓付近に集まっていくのも………。

ローホにはそれが何なのか理解できなかった。

しかしどうすれば良いのかは、自然と理解できた。

母親の手を強く握ったままのローホは、慰めようとした父親の手を払い、母親の手を両手で握り直して呟いた。

『この世界は二人だけ  あなたに出会えた事の心からの喜び』

その言葉はやけに透き通っていて、部屋どころか村全体に響いていた。

その声に反応するかの様に母親の周りに無数の粒子が集まり、ローホの周りを赤いバラの様な幻影が舞う。

そして粒子は母親に浸透していき、母親の姿が光に包まれる。

光は少しづつ弱まって行き、完全に晴れた時には………四十代ぐらいまで若返った母親の姿があった。

母親と、父親は混乱した。

母親は自分の身に起きた事に付いていけず、父親はローホの力を理解できなかった。

そして三人の元に、先程の声と光を見て軽く騒ぎになっていた村人達が押し寄せる。

何があったのかを知る為に。

押し寄せた先には固まる父親、若返っている母親、そして手を握ったままバラの幻影を出しているローホ。

村人達は恐怖した、謎の力を扱う少女に。

次の日、ローホは村人達から冷たく扱われた。

石を投げられたり、人が離れていったり。

仲が良かった友人達も、ローホからは逃げる様になった。

唯一両親だけは離れていかなかったが、その分両親に対する風当たりも強くなっていった。

そしてローホは決意した。

この村から出ようと。

自分の為、そして両親の為にも。

ローホは少しの旅支度を済ませると、両親になにも告げずに村を出ていった。

流石に森を抜けるのは15の少女には厳しく、ローホは少し遠回りした道から街へ向かう事にした。

途中、転けたりして怪我をする事もあったが、自分に芽生えた力を使って怪我した所だけ若返らせる事によって回復していた。

街まで残り九割を切った所で食料が尽きた。

15歳の少女が持ち出せる量というのは大抵その程度の物だ。

さらに村は比較的貧しい部類に入る。

いくつかの干し肉しか持っていけないのは目に見えていた。

それでもローホは歩き続けた。

自分の体が動かなくなるまで。

そして倒れた所を、通りすがりの三人の冒険者に助けられたのだ。

冒険者達はローホに食料を与え、馬車で休ませた。

ローホは冒険者達に感謝し、冒険者達が負っていた傷を治した。

冒険者達はこれに驚き、とある提案をした。

『一緒に冒険者をしないか?』

ローホはその提案に喜んだ。

この力の事さえ隠せば、しばらくは生きていける仕事を見つけたからだ。

そしてローホはその提案に乗った。

ローホと冒険者達は街に着くと、早速ローホの冒険者登録をした。

そしてしばらくは冒険者として軽い仕事を着々とこなしていっていた。

それから三年後、すっかりローホも冒険者の仕事が板に付いてきた。

ローホは元々商業ギルドに登録するつもりであった為、お金の計算等は得意であった。

今はパーティの財布の管理などを任され、素材の分配や売買など、様々な事をしている。

そんなこんなで中々に上手く行っている生活の中、ローホ達の元に一件の依頼が舞い降りた。

それの内容は『使われていない貴族の屋敷の地下に盗賊が住み着いたから退治してくれ』といった、シンプルな物だった。

こういった依頼自体はわりと良くある。

しかしこの依頼は貴族からの『指名依頼』、報酬も高く、よほどの理由があってこの形で依頼したのだと皆は何となく理解した。

私達は一ヶ月掛けて、その依頼先の街まで移動した。

流石に長い道のりだったが『指名依頼』なので断れない。

そしてローホ達はその依頼元の貴族と出会った。

その貴族は痩せていて、今にも骨が見えそうな程に弱々しかった。

その貴族の説明によると、盗賊が根城にしている館は随分前に亡くなった先代が使っていた館で、大切な場所なのだそうだ。

そこから少しの世間話等もしつつ大体の状況が理解できたローホ達は、一日休んでから屋敷に乗り込んだ。

屋敷の中には六人程度の盗賊がおり、まるでローホ達が来るのをわかっていたかの様に襲いかかってきた。

それを三人が連携して一人づつ剣で倒していき、傷付いた側からローホが回復していく。

そして六人全員を、無傷で倒せたのだ。

倒した盗賊達を縛り上げ、上へ連れて帰ろうとすると、突如火球が飛来し、盗賊達を焼き付くしてしまった。

冒険者達が何事かと火球が飛んできた方向を見るが、もう遅い。

冒険者達がこの街で最後に見たのは、こちらに投げられ光輝く転移結晶だった。

それによりローホ以外の全員は、どこか遠い所へ転移させられた。

残ったローホも、魔法によってあっという間に気絶させられた。

気絶していたローホが目を覚ますと、周りから煩いほどの機械音が響いていた。

何かが回転する音、排熱の為に鳴るプシューという音など、様々な機械音が。

ローホからは何が周りにあるのかわからなかった。

しかし、自分が丸い球体の中で身動きできない状態で囚われている事はわかった。

そんな状態のローホの前に、盗賊退治を依頼してきた貴族がゆっくりと歩いてきた。

貴族はローホが起きた事に気が付くと、誰も聞いていないのに説明を始める。

『この機械は一人の人間に永遠の命を与える特別な機械』『その機械を動かすには時間魔法という特殊な魔法を使える人間が必要』『とある村から逃げ出した一人の少女がその魔法を持っていると知り、今回の指名依頼で呼び出して捕まえた』という事を。

ローホは恐怖した。

これからこの機械の心臓部となって、苦しみ続ける事を理解したからだ。

ローホは抵抗しようとするが全く力が入らない。

必死でなんとかしようとしているローホを嘲笑うかの様に高笑いした貴族は、永遠の命を与えられる側の装置に座り、レバーを押した。

ローホが囚われている球体の周りの部品が回転しだし、甲高い稼働音を鳴らす。

そしてローホは手足から何かが吸い取られていくのを感じた。

それらが吸い取られる度に、ローホはとてつもない苦痛を感じた。

まるで全身の血を抜かれている、そんな苦痛を。

稼働音が大きくなるにつれて、苦痛は大きくなっていく。

そんな様子を貴族は高笑いしながら眺めている。

もうすぐ永遠の命が手に入るのだ。

それはもう、嬉しくて堪らないのだろう。

そして機械の稼働音がこれ以上上がらなくなってきた時、ローホは気を失った。

それと同時に、貴族に魔力が流れ込んでいく。

『あぁ、ようやくだ、ようやく不死の力を手に入れる事ができる!』

そう貴族は喜んだ………しかし現実はそう甘くない。

『ピキッ』ふとそんな音が機械の方からした。

貴族がそちらを見ると、機械の一部がひび割れて魔力が溢れ出ていた。

貴族は焦った。

この装置を起動している間は動けず、修理もできないからだ。

そうこうしている間に、ひび割れは大きく、多くなっていく。

そう、それはまるで想定していた魔力の量を遥かに越えた魔力が、行き場を失って暴れている様だった。

そしてローホが囚われている球体の周りで回る機械が完全に壊れて床に大きな音を経てて落ちる。

そここら小さな部品、大きな部品まで全てが崩壊していく。

勿論それは球体も例外では無い。

ローホを捕らえていた球体は、ひび割れ、風船の様に一瞬で砕けてしまった。

貴族は機械から抜け出し、膝を付いた。

長年作ってきた機械が一瞬にして壊れた現実を理解する事ができずに。

だが、それだけで終わる筈が無い。

機械から漏れ、行き場を失った魔力が取る行動。

それは『所持者の元へ戻る』だ。

『最初の刻は火から始まる』

ローホの近くで魔力が集まり、球体になっていく。

『それは一陣の風で踊る』

球体からは、人間の声の様で違う、変わった音声で詩が響く。

『強く輝く光となりて』

球体は細い糸の様な物を出し、ローホを人形の様に立ち上がらせた。

『深海をも照すであろう』

気絶から目覚めないローホを完全に立ち上がらせた球体は………

『だが砂時計を反転させれば』

ローホの中へと入っていった。

『世界は再び、闇へと還る』

何やら異変に気が付いた貴族が逃げようとするがもう遅い。

『輪廻の輪に逆らう力』

気絶している筈のローホから紡がれる詩は、まるで機械人形の様に冷たい。

『神の力を否定する力』

周辺の空間が歪み始める。

『一つは若返り根源すら無かった事になる』

歪みが強くなり、館が崩壊し始める。

『一つは老い、朽ち果て消える』

ローホの体は瓦礫を突き破って上空に飛び始めた。

『我は時を操る者』

そしてローホの体は光輝き。

『そして裁きを下す者』

消えた。

それと同時にこの街の時間軸がおかしくなり始める。

ある場所は新品同様に戻った後、原材料であった砂まで戻り崩れ落ちる。

またある場所は、腐り落ちて朽ち果てた。

そんな不思議な現象が各地で起き、街は大騒ぎになった。

そして上空には爆ぜた筈のローホが浮いており………また爆ぜる。

その衝撃により、今度は若返った物が古く、古くなった物が若返る。

しかし、前の力も消え去った訳では無く、若返らせる力と古くする力が拮抗している。

そしてこの一瞬で大量のタイムパラドックスが起き、地図からこの街一帯が消え去る事になったのでした。
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