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第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
二話 魂の欠片(記憶世界)
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病室からの唯一の出口である、スライド式の扉を抜ける。
すると、その先には長い廊下が続いていた。
新しいこの場所も、さっきと変わらずモノクロの空間だ。
ここが現実でない『狭間の世界』だということを嫌でも意識させられる。
廊下はさっきの部屋よりもひび割れが酷く、奥の方は一メートル以上の溝が生じていた。
私に運動神経はないだろうし、飛び越えるのは難しそうだけど……。
「……あれ」
廊下の壁に、小さな何かが置かれてあるのを私は見つけた。
床がひび割れているので、躓かないよう気を付けながら近づいていくと、それが可愛らしい熊のぬいぐるみであることが分かった。
「……こんなところにぬいぐるみか。これも記憶……じゃなくて、魂の欠片なのかな?」
「そうだとすれば、触れることで何か変化があるんじゃないでしょうか」
「わ、分かった」
促されるまま、私はぬいぐるみに軽く触れてみた。表面はかなり毛羽立っており、相当の年月を経たぬいぐるみであることは見た目と感触からよく分かる。
決して柔らかくはない毛先。その快くはない感触に手を離してしまおうかと思ったそのとき。
触れた手のひらを通して、私の意識に何かが流れ込んでくるような、不思議な感覚がやってきた。
見覚えのある子供部屋。
そこで、ぬいぐるみを渡す女の子と、それを受け取って喜ぶ女の子がいた。
そう……こんなことがあったのを、私は確かに覚えている。
このぬいぐるみは……私がすぐ下の妹、ツキノにあげたものだ。
私、ヨウノから妹のツキノへ。
誕生日プレゼントにと、送ったもの。
もちろん私だって子どもだったから、両親にお願いして買ってもらったわけだけど。
ツキノが喜んでるの、とても嬉しかったな。
あの子、一番下の妹に自慢していたな……。
……もう、随分昔の記憶だ。
三人で……いや、家族全員で楽しく過ごせてた、随分昔の――。
「……うん、思い出した気がする。まだちょっと、借り物みたいな感覚ではあるけど……これが魂の欠片なのかな」
「はい。そのようですね」
エオスが笑顔で答えてくれる。
その直後、モノクロの世界がガタガタと振動を始めた。
「あっ……」
エオスが廊下の先を指さす。
その方向を見てみると、さっきまで溝が開いていた部分がいつの間にやら塞がっているのだった。
埋められたわけではない。元々そこに欠落などなかったかのように、綺麗な廊下が続いている。
「混沌とした記憶の世界が修復されて、道が出来ましたね」
「こうして記憶を取り戻していけばいいわけか」
この世界に散在するカケラに触れて。
私自身に記憶が戻れば、この世界もまた戻っていく。
そうして世界が修復されれば、私が目覚めることの出来る出口へ辿り着けるんだろう。
「うん。頑張って元の世界へ戻らなきゃ」
「ええ、ファイトです」
エオスに励まされ、私はやってやるぞと気持ちを改める。
私を待つ人のため、こんなところで閉じ込められているわけにはいかない。
すると、その先には長い廊下が続いていた。
新しいこの場所も、さっきと変わらずモノクロの空間だ。
ここが現実でない『狭間の世界』だということを嫌でも意識させられる。
廊下はさっきの部屋よりもひび割れが酷く、奥の方は一メートル以上の溝が生じていた。
私に運動神経はないだろうし、飛び越えるのは難しそうだけど……。
「……あれ」
廊下の壁に、小さな何かが置かれてあるのを私は見つけた。
床がひび割れているので、躓かないよう気を付けながら近づいていくと、それが可愛らしい熊のぬいぐるみであることが分かった。
「……こんなところにぬいぐるみか。これも記憶……じゃなくて、魂の欠片なのかな?」
「そうだとすれば、触れることで何か変化があるんじゃないでしょうか」
「わ、分かった」
促されるまま、私はぬいぐるみに軽く触れてみた。表面はかなり毛羽立っており、相当の年月を経たぬいぐるみであることは見た目と感触からよく分かる。
決して柔らかくはない毛先。その快くはない感触に手を離してしまおうかと思ったそのとき。
触れた手のひらを通して、私の意識に何かが流れ込んでくるような、不思議な感覚がやってきた。
見覚えのある子供部屋。
そこで、ぬいぐるみを渡す女の子と、それを受け取って喜ぶ女の子がいた。
そう……こんなことがあったのを、私は確かに覚えている。
このぬいぐるみは……私がすぐ下の妹、ツキノにあげたものだ。
私、ヨウノから妹のツキノへ。
誕生日プレゼントにと、送ったもの。
もちろん私だって子どもだったから、両親にお願いして買ってもらったわけだけど。
ツキノが喜んでるの、とても嬉しかったな。
あの子、一番下の妹に自慢していたな……。
……もう、随分昔の記憶だ。
三人で……いや、家族全員で楽しく過ごせてた、随分昔の――。
「……うん、思い出した気がする。まだちょっと、借り物みたいな感覚ではあるけど……これが魂の欠片なのかな」
「はい。そのようですね」
エオスが笑顔で答えてくれる。
その直後、モノクロの世界がガタガタと振動を始めた。
「あっ……」
エオスが廊下の先を指さす。
その方向を見てみると、さっきまで溝が開いていた部分がいつの間にやら塞がっているのだった。
埋められたわけではない。元々そこに欠落などなかったかのように、綺麗な廊下が続いている。
「混沌とした記憶の世界が修復されて、道が出来ましたね」
「こうして記憶を取り戻していけばいいわけか」
この世界に散在するカケラに触れて。
私自身に記憶が戻れば、この世界もまた戻っていく。
そうして世界が修復されれば、私が目覚めることの出来る出口へ辿り着けるんだろう。
「うん。頑張って元の世界へ戻らなきゃ」
「ええ、ファイトです」
エオスに励まされ、私はやってやるぞと気持ちを改める。
私を待つ人のため、こんなところで閉じ込められているわけにはいかない。
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