【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗

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第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】

二十六話 『ドール』(現実世界)

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 伍横町の北方に佇む一軒の邸宅――霧夏邸。
 降霊術の噂に彩られた、幻想の屋敷だった。
 三年前には凄惨な事件が引き起こされ、町内で一躍有名になったこの建物。
 しかしそれも時代の流れにより、つい先日解体が完了し、跡形も無くなってしまった。
 今では、だだっ広い土地が残るのみだ。
 門の柵は取り外され、入口は解放されている。
 普通ならばそこに『売地』などの看板があってもよさそうだが、何故かそういうものは一切ない。
 曰くつきの場所ゆえ、処理もややこしくなっているのかもしれない。
 この場所が他の人の手に渡ることは、暫くの間なさそうに思われた。

「……やっぱり、こんな場所じゃ何の手掛かりも掴めないよね」

 所有の問題はともかく、建物が無くなった今となっては、降霊術に関する手掛かりもなさそうだ。
 邸内には図書館があったらしいが……そこに収蔵されていた書籍も全て処分されているだろう。
 望みがあるとすれば、ハルナちゃんがちらりと口にしたことのある地下室だが。
 地面はすっかりならされていて、地下への入口がどこにあるかを確かめるのは困難だった。

「駄目、かな。あれだけ噂になったのに、誰もやり方は知らないんだ。……簡単に、分かるわけもないか」

 もう帰ろう。僕は諦めて、くるりと踵を返す。

 ――しかし、振り返った先に。

「……降霊術が欲しいか」
「え……」

 フード付きのローブに身を包む、謎の人物の姿があった。

「だ、誰……」

 一目見ただけで、その人物が異様な雰囲気を放っていることは瞭然だ。
 ローブで全身を隠しているのみならず、その人物の顔には『仮面』がつけられていた。
 目も口も、三日月のような弧を描き。
 まるでこちらを嘲笑うかのような、不気味な笑顔が刻まれているのだった。

「お前は、降霊術を求めているか」
「え――えっと」

 あからさまな不審者だ。こういう場面でなければ、一目散に逃げだして警察を呼ぶレベルの。
 だが、この仮面の男から『降霊術』という明確な単語が発せられたために、僕は魅入られたようにその場から動けなくなっていた。

「答えたまえ」
「……欲しいです。大事な人を……呼び戻せるのなら」

 有無を言わせぬ口調に、本音が零れる。
 すると仮面の男は、無遠慮にすぐ傍まで近づいてきて、こちらの様子を観察し始めた。
 その間にこちらも男を観察してはみたのだが……あまりにも奇妙過ぎて。
 彼が本当に人間かということすら、分からなくなってしまうだけだった。

「……ふむ、なるほど。嘘偽りはないようだな」

 しばらくの沈黙の後、男はこくりと頷いた。
 そして、一冊の本をそっと差し出してきた。

「この本を使うといい」

 ボロボロに擦り切れた一冊の本は、表紙の文字を判別することも殆ど不可能になっているものの……辛うじて、降霊という文字が書かれていることが分かった。

「こ、これ……まさか降霊術の?」

 問いかけに対して、仮面の男が肯定の言葉を発することはなかった。
 彼は自分の思惑通りに事が運ぶことしか考えていないようで。

「場所は……そう、三神院がいいだろう」
「三神院? 確かに、あそこなら……」
「偶然にも利害が一致しているようだな。何よりだ」

 仮面の男はそう言って、僕に本を押し付ける。
 躊躇いがちにそれを受け取ると、彼はすぐさまくるりと身を翻した。

「さて。その本で、君は君の願いを叶えたまえ」
「あ、あの……ありがとうございます! でも、あなたは一体……」

 最後に名前くらいは聞いておかなければ。
 そう思って呼び止めた僕に、彼は振り返ることもせずに名前だけを名乗った。

「私は……『ドール』という。もしかすれば、またどこかで会うこともあるかもしれないな」

 ドール――人形。
 馬鹿馬鹿しいその名前に、僕はしかし畏れにも似た感情を抱くばかりなのだった……。





 そこまでを話し終え、ミオくんは申し訳なさげにハルナちゃんを一瞥する。

「……それで、僕はその人物にもらった本を読み、深夜に三神院へ忍び込んで降霊術を行った。その結果が今この状態、ということだね」
「なるほど……」

 僕とヨウノは中々その話を呑み込めなかったが、ハルナちゃんだけはすぐに受け止めたようで、

「一度だけの降霊術だから、まだセーフなわけか」

 などと呟いていた。

「それにしてもなあ、そのドールってやつは何者なんだろ。ひょっとすると、湯越郁斗より前の所有者だったりするのかな……」
「それはちょっと分からないや。ごめんね」
「ううん、それはいいんだけど」

 彼女はそう言ってから、

「何にせよ、その人からもらった本に書かれていたのは本物の降霊術のやり方だった。そしてミオくんは、ツキノが死んだことに耐え切れず、誘惑に負けてしまったということなのね……」
「……うん」

 死者の魂を呼び戻せる。
 その誘惑に屈し、降霊術を手にしたミオくんは……その術式を執り行った。
 だが、一つ疑問が浮かぶ。
 ミオくんが呼び戻したかったのはあくまでもツキノちゃんだ。
 しかし、結果として僕たちの元に現れたのはツキノちゃんでなく、ヨウノだった……。

「どうして呼び出したかったツキノちゃんでなく、ヨウノの魂だけが現れたんだろう」
「はい、それが分からないんです。降霊術は思いの力に左右されるから、近しい存在だとしても別の人だけが呼び戻されることなんて、なさそうなものなんですけど……」

 ハルナちゃんが悩ましげにそう話したとき、隣にいたヨウノがふいに、あっという声を上げた。

「……それは、多分ね」

 …………

 ……
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