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第三部【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】
二十三話 犯人
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エイコは数日前の放課後、ユウキを呼び出した。
自らの胸の内に秘めた思いを伝えるために。
そして、彼の名前のように勇気を振り絞って伝えた言葉は。
けれども僅かな逡巡の後、否定されることになったのだ。
「……ごめん」
「……え」
実のところエイコは、ユウキが自分を拒絶することはないと考えていた。
何故なら、二人の交友はすこぶる順調だったからである。
クラスが違うという不満くらいはあったものの、そんなことすら物ともせず。
周囲からは既に付き合っているのではないかと思われるほどに、彼女らは良好な関係を築いていたのだ。
「何でって思うのは、当然だよ」
エイコから目を背けながら、ユウキは呟く。
「うん……俺もね。エイコちゃんのこと、その……好き、だから」
「ユウキ、くん……」
やっぱり自分の思いは間違いじゃなかった。
そう思うのと同時に、ならばどうして告白を受け入れないのかと、エイコはもどかしくなる。
「……でもね。俺、怖いんだ」
「怖い……?」
「そう」
ユウキは、目元を片手で覆いながら、力なく笑った。
その手が心なしか震えているように、エイコには見えた。
「人を好きになるって……愛し合うってどういうことなんだろうってさ……」
*
『……そのときまだ私は、それがどういう意味なのかを分かっていなかった。結局ユウキくんは私を拒絶しただけなんだって、そう思ってしまった。ユウキくんの家族が……どんなものだったのかなんて、知らずに』
「……そうか、ユウキくんは」
新垣勇気が抱えていた、家族の問題。
玉川理久という一人の男によって崩壊した、愛のカタチ。
ユウキが恋愛というものを忌避することも、無理はない。
たとえどれだけ好意を持った相手でも……近づき過ぎたら不幸になるかもしれないと、ユウキは考えていたのだ。
『そして今日、ユウキくんの父親がここへやって来て……私は、ユウキくんが首を絞められて殺されているのを見てしまった。それだけじゃない。ユウキくんのお母さんも……殺されかけていた』
やはり殺人の犯人はリクだったのだと、ミオは納得する。
まあ、それは分かり切ったことではあったが。
『ユウキくんの思いを少しでも知ることができたのに、そのときもう、ユウキくんは生きてはいなくて。私は……私はどうしても、一言謝りたかったのに……』
「……それで、その後きみは……?」
エイコには悪いが、ここからが重要な筈と、ミオは頭の中に事件の構図を描きながら問う。
『……誰かに知らせなきゃと思ったとき。ミイナちゃんの姿が見えて……私は彼女に、あなたのお父さんが暴れてるから逃げてって、警察に連絡してって言って。彼女が蒼白な顔で立ち去った後、後ろから走ってくるあの人が見えました。多分、二人のお母さんが最後の抵抗をしたのか……あの人は、お腹から血を流しながらもこちらへ向かってきたんですが、三年一組まで私が逃げると、あの人はそこで力尽きてしまったんです』
「力尽きた……」
『……はい』
つまり、エイコはリクに追われていたものの、逃げ遂せたのだ。
三年一組で事件の犯人であるリクは、死亡した……。
『だから私は――あの人で、降霊術を』
――降霊術。
その言葉が、ミオの脳裏にある結論を閃かせた。
「き、きみ……まさか」
『だって、最後にどうしても一度謝りたくて……!』
エイコはじわりと涙を浮かべる。
だが、ミオにはそれを気にするより先に、考えるべきことがあった――。
自らの胸の内に秘めた思いを伝えるために。
そして、彼の名前のように勇気を振り絞って伝えた言葉は。
けれども僅かな逡巡の後、否定されることになったのだ。
「……ごめん」
「……え」
実のところエイコは、ユウキが自分を拒絶することはないと考えていた。
何故なら、二人の交友はすこぶる順調だったからである。
クラスが違うという不満くらいはあったものの、そんなことすら物ともせず。
周囲からは既に付き合っているのではないかと思われるほどに、彼女らは良好な関係を築いていたのだ。
「何でって思うのは、当然だよ」
エイコから目を背けながら、ユウキは呟く。
「うん……俺もね。エイコちゃんのこと、その……好き、だから」
「ユウキ、くん……」
やっぱり自分の思いは間違いじゃなかった。
そう思うのと同時に、ならばどうして告白を受け入れないのかと、エイコはもどかしくなる。
「……でもね。俺、怖いんだ」
「怖い……?」
「そう」
ユウキは、目元を片手で覆いながら、力なく笑った。
その手が心なしか震えているように、エイコには見えた。
「人を好きになるって……愛し合うってどういうことなんだろうってさ……」
*
『……そのときまだ私は、それがどういう意味なのかを分かっていなかった。結局ユウキくんは私を拒絶しただけなんだって、そう思ってしまった。ユウキくんの家族が……どんなものだったのかなんて、知らずに』
「……そうか、ユウキくんは」
新垣勇気が抱えていた、家族の問題。
玉川理久という一人の男によって崩壊した、愛のカタチ。
ユウキが恋愛というものを忌避することも、無理はない。
たとえどれだけ好意を持った相手でも……近づき過ぎたら不幸になるかもしれないと、ユウキは考えていたのだ。
『そして今日、ユウキくんの父親がここへやって来て……私は、ユウキくんが首を絞められて殺されているのを見てしまった。それだけじゃない。ユウキくんのお母さんも……殺されかけていた』
やはり殺人の犯人はリクだったのだと、ミオは納得する。
まあ、それは分かり切ったことではあったが。
『ユウキくんの思いを少しでも知ることができたのに、そのときもう、ユウキくんは生きてはいなくて。私は……私はどうしても、一言謝りたかったのに……』
「……それで、その後きみは……?」
エイコには悪いが、ここからが重要な筈と、ミオは頭の中に事件の構図を描きながら問う。
『……誰かに知らせなきゃと思ったとき。ミイナちゃんの姿が見えて……私は彼女に、あなたのお父さんが暴れてるから逃げてって、警察に連絡してって言って。彼女が蒼白な顔で立ち去った後、後ろから走ってくるあの人が見えました。多分、二人のお母さんが最後の抵抗をしたのか……あの人は、お腹から血を流しながらもこちらへ向かってきたんですが、三年一組まで私が逃げると、あの人はそこで力尽きてしまったんです』
「力尽きた……」
『……はい』
つまり、エイコはリクに追われていたものの、逃げ遂せたのだ。
三年一組で事件の犯人であるリクは、死亡した……。
『だから私は――あの人で、降霊術を』
――降霊術。
その言葉が、ミオの脳裏にある結論を閃かせた。
「き、きみ……まさか」
『だって、最後にどうしても一度謝りたくて……!』
エイコはじわりと涙を浮かべる。
だが、ミオにはそれを気にするより先に、考えるべきことがあった――。
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