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第三部【流刻園幻想 ―Omnia fert aetas―】
二十二話 二人
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「……だから、そうだね。わたしって、実はそんなに七不思議のことなんか信じてなかったのかも」
「はは、なんだよそりゃ」
相も変わらず明かり一つない教室内で。
オレたちは二十年という時間を埋めるように、ずっと言葉を交わしていた。
互いに多くのことが変わってしまって、もう取り戻すことなんて出来ないけれど。
少なくとも、あの頃を思い出しながら、話すことくらいは出来たから。
「わたしが楽しみだったのは。……そんなのただの噂話だろって笑い飛ばしてくれるユウくんを見ることだったんだと思う。なんていうか、カッコいいなあーって思ってたんだもん」
「よ、よしてくれ。あんなんでカッコいいとか思われてたなら恥ずかしすぎる。……というか、お前はホントに面倒臭い奴だったんだなあ」
「もう、ユウくんったら! ……何年ぶりかな、その言葉聞いたの」
そうやって頬を膨らませたミイちゃんは、けれどもすぐに表情を緩ませる。
えへへ、と笑う彼女は、あの頃とそっくりだった。
「……はあ、娘の前で恥ずかしいったらありゃしないぜ」
「……ううん、全然構わないよ? だって……今が一番、夫婦だなって思うもん。そりゃあ、今までは違ってたから……だけどさ」
「……うん」
新垣勇作と、古沢美代。
確かに表面上はずっと変わらない付き合いだった筈なのに。
オレの中身は別人にすり替わり、それを知る術もない彼女は、ただただ信じて傍にいるしかなかった。
それは、あまりにも救いのない日々だった……。
「……ごめんね、ユウくん」
「馬鹿、何でお前が謝るんだよ。悪いのは……分かりきってるじゃねえか」
玉川理久。
オレの親友、だった筈の男。
「……リクくんだって、優しかったはずなのにね」
「それでも……悪魔の囁きに、乗せられてしまったんだな」
人は、普通に生きていれば叶わない筈の願いを前にしたとき、平静ではいられなくなる。
それでもそこで、踏み止まる者もいるだろうが……リクにはとても、出来なかったわけだ。
どうしても、ミイちゃんが欲しかったわけだ。
「……ね、ユウくん」
「うん?」
「もし……リクくんが私に告白していても。それは叶わない願いだったって思う?」
ミイちゃんが、試すようにオレへ訊ねてくる。
だからオレは、当たり前だろと笑いながら、こう返した。
「オレとミイちゃんなんだからさ」
「……へへ、良かった。そう思っててくれて、本当に」
声を詰まらせながら、ミイちゃんはまたオレの胸に埋まる。
「馬鹿、泣くなって。……ったく」
ミイナちゃんが微笑ましい顔でこちらを見つめているのが、とても恥ずかしくってならないのだ。
「……そうだ。色々言いたいことはあるけれど、今はこの空間からミイナを出してやりたい」
「あ……うん、そうだよね」
「この空間は……ミイちゃんと、多分エイコって子が降霊術を行って作り出したんじゃないのかな。だとしたら、二人を浄化出来たわけだしこの空間も元に戻りそうなものだけど」
「……それは、ごめんだけどわたしにも分からない」
ミイちゃんは緩々と首を振る。
しかし、オレが今口にしたような楽観的な考えは持っていないようだった。
「でも、もしここが誰かの強い未練で閉ざされてるとしたらさ……あの人だって、その一員なんじゃないかな」
「……はあ。メイさんにも言われたけど、やっぱりなのか」
降霊術の暴走には、複数回の儀式が条件となる。
けれど、今回はたまたま術者二人が死亡しただけであって……その二人の悪霊を浄化したからといって、空間が解放される可能性は極めて低いのだ。
霊の空間は、強い未練を持った悪霊を浄化しなければ、解放されない。
だとしたら、最後に待ち受けるのがあいつであることは、殆ど確実だった。
「……来やがったな」
地の底から響き渡るような、呻き声が聞こえた。
「はは、なんだよそりゃ」
相も変わらず明かり一つない教室内で。
オレたちは二十年という時間を埋めるように、ずっと言葉を交わしていた。
互いに多くのことが変わってしまって、もう取り戻すことなんて出来ないけれど。
少なくとも、あの頃を思い出しながら、話すことくらいは出来たから。
「わたしが楽しみだったのは。……そんなのただの噂話だろって笑い飛ばしてくれるユウくんを見ることだったんだと思う。なんていうか、カッコいいなあーって思ってたんだもん」
「よ、よしてくれ。あんなんでカッコいいとか思われてたなら恥ずかしすぎる。……というか、お前はホントに面倒臭い奴だったんだなあ」
「もう、ユウくんったら! ……何年ぶりかな、その言葉聞いたの」
そうやって頬を膨らませたミイちゃんは、けれどもすぐに表情を緩ませる。
えへへ、と笑う彼女は、あの頃とそっくりだった。
「……はあ、娘の前で恥ずかしいったらありゃしないぜ」
「……ううん、全然構わないよ? だって……今が一番、夫婦だなって思うもん。そりゃあ、今までは違ってたから……だけどさ」
「……うん」
新垣勇作と、古沢美代。
確かに表面上はずっと変わらない付き合いだった筈なのに。
オレの中身は別人にすり替わり、それを知る術もない彼女は、ただただ信じて傍にいるしかなかった。
それは、あまりにも救いのない日々だった……。
「……ごめんね、ユウくん」
「馬鹿、何でお前が謝るんだよ。悪いのは……分かりきってるじゃねえか」
玉川理久。
オレの親友、だった筈の男。
「……リクくんだって、優しかったはずなのにね」
「それでも……悪魔の囁きに、乗せられてしまったんだな」
人は、普通に生きていれば叶わない筈の願いを前にしたとき、平静ではいられなくなる。
それでもそこで、踏み止まる者もいるだろうが……リクにはとても、出来なかったわけだ。
どうしても、ミイちゃんが欲しかったわけだ。
「……ね、ユウくん」
「うん?」
「もし……リクくんが私に告白していても。それは叶わない願いだったって思う?」
ミイちゃんが、試すようにオレへ訊ねてくる。
だからオレは、当たり前だろと笑いながら、こう返した。
「オレとミイちゃんなんだからさ」
「……へへ、良かった。そう思っててくれて、本当に」
声を詰まらせながら、ミイちゃんはまたオレの胸に埋まる。
「馬鹿、泣くなって。……ったく」
ミイナちゃんが微笑ましい顔でこちらを見つめているのが、とても恥ずかしくってならないのだ。
「……そうだ。色々言いたいことはあるけれど、今はこの空間からミイナを出してやりたい」
「あ……うん、そうだよね」
「この空間は……ミイちゃんと、多分エイコって子が降霊術を行って作り出したんじゃないのかな。だとしたら、二人を浄化出来たわけだしこの空間も元に戻りそうなものだけど」
「……それは、ごめんだけどわたしにも分からない」
ミイちゃんは緩々と首を振る。
しかし、オレが今口にしたような楽観的な考えは持っていないようだった。
「でも、もしここが誰かの強い未練で閉ざされてるとしたらさ……あの人だって、その一員なんじゃないかな」
「……はあ。メイさんにも言われたけど、やっぱりなのか」
降霊術の暴走には、複数回の儀式が条件となる。
けれど、今回はたまたま術者二人が死亡しただけであって……その二人の悪霊を浄化したからといって、空間が解放される可能性は極めて低いのだ。
霊の空間は、強い未練を持った悪霊を浄化しなければ、解放されない。
だとしたら、最後に待ち受けるのがあいつであることは、殆ど確実だった。
「……来やがったな」
地の底から響き渡るような、呻き声が聞こえた。
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