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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
三話 「腕の良い研究者がいてね」
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体が丈夫でないマミは、少しだけ客室で休憩してから、邸内を散策していた。
廊下には使用人の女性が二人いて、掃除をしながら挨拶をくれたので、マミもぎこちなくではあるが挨拶を返していた。
客室があるのは邸宅の二階東側であり、客が立ち入りできるのも大体が東側。西側は私室が集まっているらしく、殆どの部屋が施錠されているようだった。
そんな西側の廊下へ入ってみたところで、ちょうどマモルと鉢合わせする。
彼は奥の扉から出てきたばかりのようで、その扉の横には研究室とプレートが取り付けられていた。
「どう、マミちゃん。何か面白いものでも見つけたかい?」
「ああ、いえ……ただただ広さに驚いてます。そこが、お薬の研究所ですか?」
「その通り。小さいけど地下室も設けてあって、本格的なことが出来るようになってるんだ」
マモルは手をひらひらと動かしながら答える。
「腕の良い研究者がいてね。……風見照っていう奴なんだけど。ぼーっとしててドジそうに見えるんだが、その筋ではかなり有名な奴なのさ」
「へえ、風見さん……」
生憎マミは世間の流行などあまり詳しくなかったので、風見照という名は知らなかったのだが、どうやら当時から既に、彼はそれなりに名の知られた人物のようだった。
「今度紹介するよ。今は根つめて研究してるっぽいからさ」
「はい、お願いします」
マモルの提案に、マミは笑顔でそう答える。
それは、人との関わりを忌避していた彼女らしからぬ対応だった。
マモルがマミに対して、どれほど影響を与えているか。
そのことを痛感させられる一幕だった。
「……これからどうする?」
マモルの用事は片付いたようなので、この後二人で何をしようかと訊ねてくる。
本当なら時間的にもティータイムと行きたかったのだろうが、マミは予想以上に気を張っていたらしく、
「そうですね……家の中なのに歩き疲れちゃって。ちょっとだけ、部屋でお休みさせてもらおうかな」
少し青ざめた顔で、マモルにそう告げた。
口元には笑みがあったものの、本当に疲れていることはマモルも理解出来たので、
「はは、オッケーオッケー。ゆっくり休んでくるといいよ」
と、彼女を引き止めることはしなかった。
申し訳なさそうにマミは頭を下げ、歩いてきた道のりを引き返す。
そんな彼女をマモルは心配だからと、部屋に戻るまでエスコートするのだった。
「……はぁ」
部屋に戻り、マモルと別れてから、マミはベッドに腰かけてまた溜め息を吐く。
スプリングの効いたベッドはギシギシという音とともに、彼女を優しく受け止めた。
「気疲れしちゃったかな……少し、寝ちゃおう」
まぶたを擦りながら、マミは呟く。
人様の家で寝てしまうなどはしたないと分かってはいるのだが、彼女の我慢は限界のようだった。
男友達の家。普通の人ならさして珍しいシチュエーションではないかもしれない。けれどマミにとっては、この訪問は大冒険だったのだ。
そうした理由もあって、彼女が気疲れすることも仕方ないことだった。
「大丈夫、だよね……」
彼女はそっと、掛け布団を捲る。
そしてベッドに潜り込み……程なく穏やかな眠りに落ちていった。
廊下には使用人の女性が二人いて、掃除をしながら挨拶をくれたので、マミもぎこちなくではあるが挨拶を返していた。
客室があるのは邸宅の二階東側であり、客が立ち入りできるのも大体が東側。西側は私室が集まっているらしく、殆どの部屋が施錠されているようだった。
そんな西側の廊下へ入ってみたところで、ちょうどマモルと鉢合わせする。
彼は奥の扉から出てきたばかりのようで、その扉の横には研究室とプレートが取り付けられていた。
「どう、マミちゃん。何か面白いものでも見つけたかい?」
「ああ、いえ……ただただ広さに驚いてます。そこが、お薬の研究所ですか?」
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マモルは手をひらひらと動かしながら答える。
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「へえ、風見さん……」
生憎マミは世間の流行などあまり詳しくなかったので、風見照という名は知らなかったのだが、どうやら当時から既に、彼はそれなりに名の知られた人物のようだった。
「今度紹介するよ。今は根つめて研究してるっぽいからさ」
「はい、お願いします」
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それは、人との関わりを忌避していた彼女らしからぬ対応だった。
マモルがマミに対して、どれほど影響を与えているか。
そのことを痛感させられる一幕だった。
「……これからどうする?」
マモルの用事は片付いたようなので、この後二人で何をしようかと訊ねてくる。
本当なら時間的にもティータイムと行きたかったのだろうが、マミは予想以上に気を張っていたらしく、
「そうですね……家の中なのに歩き疲れちゃって。ちょっとだけ、部屋でお休みさせてもらおうかな」
少し青ざめた顔で、マモルにそう告げた。
口元には笑みがあったものの、本当に疲れていることはマモルも理解出来たので、
「はは、オッケーオッケー。ゆっくり休んでくるといいよ」
と、彼女を引き止めることはしなかった。
申し訳なさそうにマミは頭を下げ、歩いてきた道のりを引き返す。
そんな彼女をマモルは心配だからと、部屋に戻るまでエスコートするのだった。
「……はぁ」
部屋に戻り、マモルと別れてから、マミはベッドに腰かけてまた溜め息を吐く。
スプリングの効いたベッドはギシギシという音とともに、彼女を優しく受け止めた。
「気疲れしちゃったかな……少し、寝ちゃおう」
まぶたを擦りながら、マミは呟く。
人様の家で寝てしまうなどはしたないと分かってはいるのだが、彼女の我慢は限界のようだった。
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「大丈夫、だよね……」
彼女はそっと、掛け布団を捲る。
そしてベッドに潜り込み……程なく穏やかな眠りに落ちていった。
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