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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
四話 「僕の名前は風見照」
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マミが客室で、無防備に眠り込んでいる頃。
周辺の散策にも飽きた私は、諦めて波出家の玄関前に戻って来ていた。
家の中へ入っていくことに、緊張だけでなく悔しさにも似た感情はあったのだが。
マミのことが心配になったので、仕方なく邪魔することに決めたのだった。
「……中身もご大層なことだなあ」
持たざる者の僻みであることくらいは、私にも分かっていた。
それでも絢爛たる設えが、嫌らしく映ってしまうのはどうしようもないことだった。
ぶつぶつと嫌味を呟きながら、私は玄関ホールの真ん中辺りまで歩き。
さてどこへ向かえばいいものかと、首を傾げていた。
「とりあえず、誰かいないか見て回るか……。一応俺も、招かれてるらしいしな」
前方には二階へ続く階段。左右には廊下。
二階へ上っていく気にはなれなかったので、私はとりあえず右手側の廊下へ進んでみた。
家の者がいるなら、その人にマミの居場所を聞けばいい。それくらいに考えていたのだ。
そして、廊下を進んですぐに人の姿は見つかった。
「……ん、誰だろう」
ちらりと見えたのは白衣。
後姿だったので、顔はまるで見えなかったが……ボサボサの髪が特徴的な男性が、扉の向こうへ消えていった。
後を追うと、扉の横には図書室とプレートが付いている。
関係者以外立ち入り禁止という場所でもなさそうだったので、話を聞くには丁度いいだろうと、私も中に入っていった。
波出家の図書室は、図書館と言い換えても良さそうなほどの蔵書数を誇っていた。
室内には無数の本棚が並び、その一つ一つが私の背丈以上……六段もある本棚だった。
国内の本だけに留まらず、あらゆる言語の書籍が集められており。
中にはかなり希少なものもあるだろうと容易に想像出来るほどだった。
本の種類は勿論医学書がメインであり、他には辞書や専門雑誌などが取り揃えられている。
当時の私の知識では、到底読めるものではなく。
背表紙に書かれている文字ですら、把握出来ないものばかりだった。
そんな本のジャングルを進み、先ほど見かけた人物を探す。
彼は部屋の奥で窓からの陽光を明かりにして、洋書を読んでいるところだった。
私が近くまで歩いていくと、彼はゆっくりとページから視線をこちらへ向け。
まぶたをぱちくりとさせてから、不思議そうに訊ねてくるのだった。
「……おや、君は?」
「えっと、俺は……」
どう説明すればいいだろうと言葉に詰まってしまう。
しかし、彼の方から勝手に答えを出してくれた。
「……あ、ああ。そうか、君がトオルくんだね」
「どうして名前を?」
「ああ、いやね。マモルから話を聞いてたものだから」
彼はマモルのことを下の名前で呼んだ。
そのことから、彼が単なる使用人でないことは察せられた。
立場が逆転し、こちらが不思議そうな顔をする番になり……そこで、彼は笑う。
「はは、自己紹介しておくよ。僕の名前は風見照。よろしくね、トオルくん」
「は、はあ……よろしくお願いします」
快活なこの青年に、そのときの私は少しばかり面食らったが、マモルほどの嫌悪感を抱かないこともまた感じていた。
……この、冴えない男が風見照。
全ての悲劇の始まりとなった、降霊術という儀式を生み出した男だった。
純粋で、優しかった男。
しかしそれ故に悲劇を生み出し、最後まで止めることの出来なかった男だった――。
周辺の散策にも飽きた私は、諦めて波出家の玄関前に戻って来ていた。
家の中へ入っていくことに、緊張だけでなく悔しさにも似た感情はあったのだが。
マミのことが心配になったので、仕方なく邪魔することに決めたのだった。
「……中身もご大層なことだなあ」
持たざる者の僻みであることくらいは、私にも分かっていた。
それでも絢爛たる設えが、嫌らしく映ってしまうのはどうしようもないことだった。
ぶつぶつと嫌味を呟きながら、私は玄関ホールの真ん中辺りまで歩き。
さてどこへ向かえばいいものかと、首を傾げていた。
「とりあえず、誰かいないか見て回るか……。一応俺も、招かれてるらしいしな」
前方には二階へ続く階段。左右には廊下。
二階へ上っていく気にはなれなかったので、私はとりあえず右手側の廊下へ進んでみた。
家の者がいるなら、その人にマミの居場所を聞けばいい。それくらいに考えていたのだ。
そして、廊下を進んですぐに人の姿は見つかった。
「……ん、誰だろう」
ちらりと見えたのは白衣。
後姿だったので、顔はまるで見えなかったが……ボサボサの髪が特徴的な男性が、扉の向こうへ消えていった。
後を追うと、扉の横には図書室とプレートが付いている。
関係者以外立ち入り禁止という場所でもなさそうだったので、話を聞くには丁度いいだろうと、私も中に入っていった。
波出家の図書室は、図書館と言い換えても良さそうなほどの蔵書数を誇っていた。
室内には無数の本棚が並び、その一つ一つが私の背丈以上……六段もある本棚だった。
国内の本だけに留まらず、あらゆる言語の書籍が集められており。
中にはかなり希少なものもあるだろうと容易に想像出来るほどだった。
本の種類は勿論医学書がメインであり、他には辞書や専門雑誌などが取り揃えられている。
当時の私の知識では、到底読めるものではなく。
背表紙に書かれている文字ですら、把握出来ないものばかりだった。
そんな本のジャングルを進み、先ほど見かけた人物を探す。
彼は部屋の奥で窓からの陽光を明かりにして、洋書を読んでいるところだった。
私が近くまで歩いていくと、彼はゆっくりとページから視線をこちらへ向け。
まぶたをぱちくりとさせてから、不思議そうに訊ねてくるのだった。
「……おや、君は?」
「えっと、俺は……」
どう説明すればいいだろうと言葉に詰まってしまう。
しかし、彼の方から勝手に答えを出してくれた。
「……あ、ああ。そうか、君がトオルくんだね」
「どうして名前を?」
「ああ、いやね。マモルから話を聞いてたものだから」
彼はマモルのことを下の名前で呼んだ。
そのことから、彼が単なる使用人でないことは察せられた。
立場が逆転し、こちらが不思議そうな顔をする番になり……そこで、彼は笑う。
「はは、自己紹介しておくよ。僕の名前は風見照。よろしくね、トオルくん」
「は、はあ……よろしくお願いします」
快活なこの青年に、そのときの私は少しばかり面食らったが、マモルほどの嫌悪感を抱かないこともまた感じていた。
……この、冴えない男が風見照。
全ての悲劇の始まりとなった、降霊術という儀式を生み出した男だった。
純粋で、優しかった男。
しかしそれ故に悲劇を生み出し、最後まで止めることの出来なかった男だった――。
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