【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗

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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】

二十二話 「見つけてあげなくちゃね」

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「……痛た……」

 全身の痛みとともに、ミオは目を覚ました。
 意識を失う前までは、犬飼真美の自宅前にいた筈だが、気付けば景色は全く違うものに変わっている。
 並べられた勉強机。チョークの跡が残る黒板。
 見覚えのあるこの場所は、そう――流刻園の教室だった。

「ここは……」
「……流刻園、みたいですね」

 声に気付いて後ろに顔を向けると、そこにはミイナがいた。
 どうやらミオとミイナの二人だけが、この場所へと転移させられたらしい。
 何故、降霊術の発動とともに流刻園へ飛ばされたのか。理由は分からないが、状況からして降霊術は成功したと、ミオは判断する。
 確認のため、窓から外の風景を見てみたが……やはり、町には悪霊の姿がちらほらと窺えた。

「どうしてこんなところに飛ばされたんだろうね」
「特異点がどうとか言ってましたよね。もしかしたら、それが原因なのかも……」
「ああ、そうか……霧夏邸、三神院、流刻園、犬飼家、それに波出家の辺りがポイントなんだったか。そのポイントに散り散りになったってことはあるかもね」

 だとすれば、他の仲間たちは別の場所に飛ばされ、合流しようと行動に移っているのかもしれない。

「とりあえず、町は閉じたみたいだし、作戦の第一段階は成功か。次は、みんなと合流しなくちゃね」
「……ですね。ひとまずここから出ましょう」

 つい数週間前にも二人はここから脱出するために、探索していた。
 デジャヴュのようなものを感じながら、二人は教室を抜ける。

「でも、ミオさんがいてくれて良かったです。一人だったら、怖くて動けなかったかもですから」
「そうかな? 意外とミイナちゃん、芯は強いと思うけど」
「うーん、そう見えます?」
「僕に付いて来たくらいだからね」

 流刻園事件の後、屋上でミイナに付いて行くと言われたときのことを思い出して、ミオは笑う。
 彼女の強い気持ちに根負けして、彼はミイナを仲間に引き入れたのだ。
 まあ、ミオの方はそこまで強い根っこを持っているわけではなかったが。

「こうと決めたら、例えば僕が何を言っても曲げなさそうというか」
「ふふ、誉め言葉だと受け取っておきますね」

 真実、それは誉め言葉だった。
 ミイナもそれを理解していたから、胸がぽっと温かくなるのを確かに感じていた。
 そんなやりとりをしながら、彼らはひとまず一階まで下りてくる。
 想定外は常に起こり得ると言っても、今霊の空間は町全体を覆っている。学校内から出られない、ということは無いとミオは踏んでいた。
 ――と。

「……ん?」

 玄関前に、人影があった。
 その体は半透明で、向こうに玄関扉が透けて見えており、一目で霊だと分かる。
 ただ、雰囲気からして悪霊ではなさそうだ。
 恐る恐る近づいていくと、ミオはその人物にどこか見覚えがある気がしてきた。
 体つきからして女性。そして年齢は自分たちよりも上だが、そこまで離れているわけでもない。
 ……流刻園に縁のある女性。思い当たるのは、一人。

「あなたは……ひょっとして」
「……良かったわ、ここで会えて」

 ミオとミイナの姿を見た途端、彼女はくすりと微笑んだ。
 その表情を見て、ミオは今更ながら思う。
 音楽室の少女――メイさんの面影がある、と。

「……流谷、あいさんですか」
「ええ、そうよ」
 
 三神院で、ドールの実験体に選ばれ犠牲になった女性。
 院内で恋人を蘇らせようと試み、怪物と化した恋人に殺害された、悲しき女性。
 あのときは何の関わりも持てなかったが、こんなところで出会うことになるとは、ミオも想像していなかった。

「……円藤深央くんと、新垣美衣奈ちゃんね」
「はい、そうです」

 ミイナが答えると、アイは一つ頷いて、

「メイ叔母さんからの伝言があるの」
「メイさんからの、ですか……」

 伝言。それを聞いてミオは、何故本人が直接来ずに、アイさんに頼んだのだろうと訝しむ。
 誰かに頼むと言うのは、まるで自分が伝えられないことが分かっていたかのようだった。
 そして、その答えもアイは持っていた。
 あまりにも残酷な答えを。

「ドールの儀式を止める上で必要になるだろうからって、遺言みたいなものを……あの人は遺していったの」
「ゆ……遺言って、まさか」

 具体的なことは、アイは告げなかった。
 けれどそれだけで、ミオとミイナは彼女に何が起きたのかを、理解した。
 死者であるメイが、遺言を遺すということ。
 それは、最早霊体としてもこの世に留まれない状況になってしまったということではないのか。
 単にあちら側の世界へ旅立っただけなら、アイも抵抗なく事実を口に出来る筈。
 それをしないということは、メイの不在は良いことでは絶対にないのだ……。

「ここを出る前に、叔母さんの遺言を見つけてあげてくれないかしら。無駄にはならないと、思うから……」

 メイは、保険をかける意味でもそれを遺したらしい。
 流刻園事件で出会った際に伝えておいても良かったのだが、ドールの監視がどれほど厳しいのか分からなかったために、あえてその場では伝えなかったようだ。
 来たるべき時のため。メイはミオに思いを託した。
 ならば、その思いは受け取るべきだろう。

「見つけましょう、ミオさん」
「うん。あの人が僕たちにヒントを遺してくれたなら。見つけてあげなくちゃね」

 ミオの言葉に、アイはそっと零れ落ちる涙を拭いながら、

「……ありがとう、二人とも。メイ叔母さんも、喜ぶわ……」

 少し掠れ気味の声で、そう感謝を告げるのだった。
 話を終えると、ミオとミイナは早速音楽室へと向かった。
 あの日自分たちの脱出を手助けしてくれたメイの、最後の声を聞くために。
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