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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
三十三話 「悲劇の主人公だったってわけだ」
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「……ありがとう、ハルナちゃん。もう、歩けるくらいは回復したよ」
「そっか。……ならよし」
場が落ち着いたところで、ハルナから手当てを受けていたマヤが、お礼を言った。
足をぶらぶらと動かしているところを見ると、確かに痛みは引いてきているようだった。
……ミツヤたちが犬飼家から帰還したとき、光井家には既に他のメンバーが集結していた。
マスミとミオとミイナ。三人はそれぞれ三神院と流刻園に飛ばされており、そこから脱出する途上で事件にまつわる情報も得られていた。
ここでようやく合流を果たせたので、一同は見聞きした情報を共有しようということになり、時計は無いがおよそ二十分ほど話を続けていた。
「……それで、間違いないだろう。矛盾は多分……ない」
全ての情報が出揃い、全員の意見が一致したところで、マスミはそう結論を下す。
「三神院で僕が聞いた犬飼真美の病状、流谷めいさんが遺した流刻園時代の詳細、それに……幼少期の日記。全てがその答えに繋がる筈だ」
三つの場所で得られた情報。その一つ一つが単体でも同じ答えを示している。
ならば、それはもう揺るがない真実である筈だ。
「ちょっとそれは……アレだな。哀れ……いや。要するにドール自身ですら、悲劇の主人公だったってわけだ」
「主人公……といえる存在かは、分からないけどね」
ミツヤの呟きに、マスミはそう返して笑う。
ドールを哀れに思う、力ない笑みだ。
「多分、本当のことはドール自身もまだ思い出してないんでしょうね。だから、一心にマミさんを蘇らせようとしてる。確かに、それならお姉ちゃんたちに任せた方法は、すごい効果があると思うけど……何だろう。それは、ちょっと可哀そうで……」
「……アキノちゃん」
可哀そう、というアキノの言葉は、一同の心に深く響いた。
そう。これまで憎き存在だと思っていたドールが、哀れに思えるなんて。
この真相は、あまりにも悲しい。
遠い過去から始まったこの事件は……ただただ誰にとっても、悲劇でしかなかった。
「過去の事件も見方が変わってくるね。ある意味それは、誰もが救いを求めた結果だった。それなのに、救われた者がいなかったっていう……」
「波出守と風見照が、犬飼真美に対して何かをしようとして、事件が起きた……そこまでは掴めていたけど。その何かとは加害ではなく、むしろ救いを与えようとしてたっていうことだね」
流谷めいが遺したのは、彼女が生前流刻園でマミと交流していた頃の情報と、波出家で起きた事件の概要。
そこには殆ど全ての事実が綴られていたとはいえ、マミたちが死亡した理由までは分からなかった。
けれども、ピースを繋ぎ合わせれば、その理由もどんな形なのかが容易に見えてきたのだった。
「そう、そして……彼はドールになったんだ。あの体以外の全てを失って」
大切な人も、その記憶すらも。
全てを失い、ドールは関節人形になった。
ある意味でそれは……救いだったのかもしれない。
記憶が消えたまま過ごす方が、むしろ幸せだっただろう。
降霊術に染まることさえなければ。
「……真実を知って、壊れちゃわないといいけど。そんなのを知ったら、僕ならおかしくなっちゃうよ、絶対」
それまで余計な口出しはすまいと黙っていたマヤも、ついそんなことを零す。
信じていたものが覆される。それが耐え難い苦しみであることを、彼は知っている。
「もしそうなって、自暴自棄になったら。大変なことになっちゃうかもしれない」
「……霧夏だな」
「え? 霧夏って……」
「いや……気にするな」
マヤが目を丸くするのに、ミツヤは失言だったと舌打ちする。
ただ、マヤも邪魔にはならないようにと、それ以上は聞いてこなかった。
霧夏邸事件を生き延びた彼なら、霧夏という言葉の意味を理解しているので、不安はある筈だったが。
「……よし、会議はこれで終わろう。そろそろ、ドールのところに向かわなくちゃいけない」
椅子に掛けていたマスミが、すっくと立ち上がる。それを受けてミオも、
「うん……急いだ方がいいかも」
と、壁から背を離して言った。
「目指すは波出家、ですね」
「はい。……行きましょう」
「手遅れになっちゃう前にね」
女性陣も、それぞれ発破をかける。
目指すのは、波出家。
全てが始まり、そして全てを終わらせる場所だ。
「……ソウシ、お前は出来ればマヤと残っておいてくれ。まだ満足に動けないだろうしよ」
「えー、今度は留守番かよ、期待外れだな」
「バカ、お前が出したんだろ、そいつ。責任持て」
「はいはい、了解しましたよ」
マヤとソウシには残ってもらうことにして、残りのメンバーで波出家へ向かう。
これだけの人数が集まっていられることは、誰にとっても心強いことだった。
「……よし、出発だ!」
マスミの号令に、一同は高らかに応じる。
そして、波出家への進攻が開始された。
「そっか。……ならよし」
場が落ち着いたところで、ハルナから手当てを受けていたマヤが、お礼を言った。
足をぶらぶらと動かしているところを見ると、確かに痛みは引いてきているようだった。
……ミツヤたちが犬飼家から帰還したとき、光井家には既に他のメンバーが集結していた。
マスミとミオとミイナ。三人はそれぞれ三神院と流刻園に飛ばされており、そこから脱出する途上で事件にまつわる情報も得られていた。
ここでようやく合流を果たせたので、一同は見聞きした情報を共有しようということになり、時計は無いがおよそ二十分ほど話を続けていた。
「……それで、間違いないだろう。矛盾は多分……ない」
全ての情報が出揃い、全員の意見が一致したところで、マスミはそう結論を下す。
「三神院で僕が聞いた犬飼真美の病状、流谷めいさんが遺した流刻園時代の詳細、それに……幼少期の日記。全てがその答えに繋がる筈だ」
三つの場所で得られた情報。その一つ一つが単体でも同じ答えを示している。
ならば、それはもう揺るがない真実である筈だ。
「ちょっとそれは……アレだな。哀れ……いや。要するにドール自身ですら、悲劇の主人公だったってわけだ」
「主人公……といえる存在かは、分からないけどね」
ミツヤの呟きに、マスミはそう返して笑う。
ドールを哀れに思う、力ない笑みだ。
「多分、本当のことはドール自身もまだ思い出してないんでしょうね。だから、一心にマミさんを蘇らせようとしてる。確かに、それならお姉ちゃんたちに任せた方法は、すごい効果があると思うけど……何だろう。それは、ちょっと可哀そうで……」
「……アキノちゃん」
可哀そう、というアキノの言葉は、一同の心に深く響いた。
そう。これまで憎き存在だと思っていたドールが、哀れに思えるなんて。
この真相は、あまりにも悲しい。
遠い過去から始まったこの事件は……ただただ誰にとっても、悲劇でしかなかった。
「過去の事件も見方が変わってくるね。ある意味それは、誰もが救いを求めた結果だった。それなのに、救われた者がいなかったっていう……」
「波出守と風見照が、犬飼真美に対して何かをしようとして、事件が起きた……そこまでは掴めていたけど。その何かとは加害ではなく、むしろ救いを与えようとしてたっていうことだね」
流谷めいが遺したのは、彼女が生前流刻園でマミと交流していた頃の情報と、波出家で起きた事件の概要。
そこには殆ど全ての事実が綴られていたとはいえ、マミたちが死亡した理由までは分からなかった。
けれども、ピースを繋ぎ合わせれば、その理由もどんな形なのかが容易に見えてきたのだった。
「そう、そして……彼はドールになったんだ。あの体以外の全てを失って」
大切な人も、その記憶すらも。
全てを失い、ドールは関節人形になった。
ある意味でそれは……救いだったのかもしれない。
記憶が消えたまま過ごす方が、むしろ幸せだっただろう。
降霊術に染まることさえなければ。
「……真実を知って、壊れちゃわないといいけど。そんなのを知ったら、僕ならおかしくなっちゃうよ、絶対」
それまで余計な口出しはすまいと黙っていたマヤも、ついそんなことを零す。
信じていたものが覆される。それが耐え難い苦しみであることを、彼は知っている。
「もしそうなって、自暴自棄になったら。大変なことになっちゃうかもしれない」
「……霧夏だな」
「え? 霧夏って……」
「いや……気にするな」
マヤが目を丸くするのに、ミツヤは失言だったと舌打ちする。
ただ、マヤも邪魔にはならないようにと、それ以上は聞いてこなかった。
霧夏邸事件を生き延びた彼なら、霧夏という言葉の意味を理解しているので、不安はある筈だったが。
「……よし、会議はこれで終わろう。そろそろ、ドールのところに向かわなくちゃいけない」
椅子に掛けていたマスミが、すっくと立ち上がる。それを受けてミオも、
「うん……急いだ方がいいかも」
と、壁から背を離して言った。
「目指すは波出家、ですね」
「はい。……行きましょう」
「手遅れになっちゃう前にね」
女性陣も、それぞれ発破をかける。
目指すのは、波出家。
全てが始まり、そして全てを終わらせる場所だ。
「……ソウシ、お前は出来ればマヤと残っておいてくれ。まだ満足に動けないだろうしよ」
「えー、今度は留守番かよ、期待外れだな」
「バカ、お前が出したんだろ、そいつ。責任持て」
「はいはい、了解しましたよ」
マヤとソウシには残ってもらうことにして、残りのメンバーで波出家へ向かう。
これだけの人数が集まっていられることは、誰にとっても心強いことだった。
「……よし、出発だ!」
マスミの号令に、一同は高らかに応じる。
そして、波出家への進攻が開始された。
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