この満ち足りた匣庭の中で 一章―Demon of miniature garden―

至堂文斗

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Ninth Chapter...7/27

商店で部品を

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「ちょっと寄ってく場所があるんだけど、構わないわよね?」

 学校を出るなり、龍美は僕と満雀ちゃんに向けて訊ねてきた。拒否する理由もないし、拒否されるなんて思っていない口ぶりだし、そもそも既に違う道を進んでいる。僕と満雀ちゃんは、苦笑しつつ了承した。

「千代さんのとこにね。ムーンスパローのパーツを買いに行きたいの」
「はあ。まだ改良するんだね」
「目的はほぼ達成しちゃったからねえ。精度を上げていければいいなって」
「うゆ、流石龍美ちゃん」

 満雀ちゃんに褒められて、豪快に笑う龍美。単純な奴だな、と思うものの、僕も満雀ちゃんに褒められたらこんな風になるんだろうな、きっと。

「千代さんかあ。最近会ってなかったなー」
「満雀ちゃんは仕方ないわよ。私はたまに、親から買い物頼まれたりするせいで、週に一回は会ってるけど」
「僕もたまにあるなあ。あの人、誰が相手でも気さくに話せるから、凄いよね」
「商売柄というより、元からの性格なんでしょうね。素敵な人だわー、私が男だったらお嫁にしたいもの」
「あはは……でも、旦那さんになれた人は、幸せに生きていけそうだね」
「うんうん。間違いないわ」

 問題は、この街にいて千代さんが良いお相手を見つけられるか、というところだな。これから人口は増加していくだろうけれど、その中に、千代さんに見合う人がいるのかどうか。
 秤屋商店が見えてくる。僕らが店の前まで来たとき、丁度千代さんがお客さんを笑顔で送り出していた。

「あら、玄人くんに龍美ちゃん。……満雀ちゃんも? 珍しいわね、いらっしゃい」
「どうも、千代さん。相変わらずお忙しそうですね」
「そんなことないわよー。ウチは品揃え多いけど、お客さんは街の人だけだからねえ。接客してる時間より、商品管理してる時間の方が長いかも」

 千代さんは、そう言って笑いながら、ダンボール箱に詰まっていた商品を取り出し、陳列し始める。彼女の言う通り、店内には様々な物がずらりと並んでいて、この全てを千代さん一人が管理しているのかと思うと脱帽する。仮に僕が同じことをやってみたとして、この中の一つ二つ無くなったところで、絶対に気付かない自信がある。

「で、何か入用?」
「入用ですとも。機械関係は左奥でしたよね、千代さん」
「ああ、また工作の? そうよ、あのちょっと暗くなってる辺りが機械部品のスペースだから」
「はいはーい」

 場所を聞くと、龍美は早歩きでそこまで向かい、目当ての物を探し始める。部品のコーナーは、千代さんも用途を詳しくは理解していないのか、やや乱雑に詰め込まれている印象だ。

「ずっと疑問だったんですけど、よくこんなものまで置いてますよね」
「んー、お客さんの要望には何でも答える、がモットーだからね。……それに、部品関係は病院で必要になることがあるらしくって、一通り置いとかないと、いざ必要ってなったときに大変なことになりそうでねー」
「ああ……そういう需要だったんですか」
「そうそう。三人とも知らないかもだけど、昔地震があってお店が半壊しちゃったことがあるの。そのときにね、牛牧さんが修繕費用をポンと貸してくれたみたいで。そんな恩があるから、なるべく秤屋商店としても、病院をサポートしていきたいわけなのよ」
「へえ……」

 商店が壊れたことは、虎牙から聞いたことがあったけれど、まさかその修繕費を牛牧さんが出していたとは。意外な繋がりがあったものだ。

「牛牧さんは優しい人だからねえ。病院建設のときには、本気でこの街と向き合ってくれていたわけ。今でもその姿勢に変わりはないでしょうけど」
「牛牧さんは、誰にでも尊敬されてますよね。どうして街の責任者にならなかったんだろ?」
「そりゃあ、病院が一番だからでしょう。永射さん、皆から見れば何をやってるか分からない人だったかもしれないけれど、行政って想像してる以上に大変なものに違いないし。きっと苦労してたんだと思うわ。如何に好かれているからって、牛牧さんがそっちを兼務していたとしたら、過労死してたんじゃない?」
「あー……そりゃそうですよね」

 牛牧さんが作ったのは、満生総合医療センターだ。その発展によって街を支えたいという思いはあっても、街の行政に直接携わりたいとまでは思っていないだろう。それはベクトルが違う話だ。

「よし……こんなもんかな」

 龍美は、品定めが済んだようで、幾つかの細かいパーツを手にしていた。一緒に製作しているものの、性能の向上にどんなパーツが必要か、というのは専ら龍美が考えてくれているので、僕や虎牙は言われるがままに動いているだけに等しい。ネットの知識とは言え、それを見る見るうちに吸収していくのだから、龍美は凄いと純粋に思う。

「毎度ありー。締めて千八十円になりまーす」
「やん、負けてよ千代さん」
「譲れません。というか、一度もそんなこと言ったことないでしょ」
「一回くらいはイケるかと思って」

 そんなやりとりをしながら、龍美と千代さんは笑う。どことなく、この二人は姉妹のように見えてしまうなあ。……ノリが似ている。
 ムーンスパローの製作費は、基本的に四人で出し合っている。キッチリ四分割しているわけではなく、持っている人がその場で出すというのが殆どなので、龍美や僕の支払いが多くなっていたりするのだが。

「このところずっと、何か作ってるみたいだけど。順調?」
「ええ、上手いこといってますよ」
「手痛いしっぺ返しがなきゃいいけどねえ」
「ふふ、頑張ってね。青春は一度きりだぞ」

 なんか、双太さんにも同じことを言われた気がする。僕らはそんなに青春を温かく見守られているのか。何だか恥ずかしい。
 部品の調達を終えて、僕らは秤屋商店を後にする。短い時間だったけれど、その間に、千代さんの元気を少し分けてもらったような感じがした。龍美もきっと、同じ気持ちだろう。

「しかし、龍美は凄いよね。僕は、キーボードこそ打てるけど、どの部品が性能アップに必要かなんてさっぱりだからね」
「えへん。……とは威張れないんだけどねー。だって、八木さんに色々アドバイスもらってるから」
「ああ、それもあるのか。とは言え、それを理解出来るかって言われれば、人によるけど」
「虎牙には無理ね、間違いなく」

 その名前を出した後、すぐに龍美はしまった、と言う顔になって黙り込んだ。

「……はあ」
「どうしたんだろうね、あいつは」
「連絡くらいよこしなさいっての。薄情者よね」

 そう。早く、連絡が欲しかった。そして僕らを安心させてほしかった。
 無事でいることが、兎にも角にも知りたかった。
 途切れがちな会話を何度か繰り返し、僕らは森の入り口まで歩いてくる。雨は止んだものの、舗装されていない山道は水たまりが多く、気を抜けば足をとられてしまいそうだった。

「気をつけなさいよ、玄人」
「うん、ありがと」

 龍美にはよく気遣われる。やっぱり、彼女はリーダーの資質があるよなあ、と感じる。ここに来る以前のことはあまり聞かない、というのが暗黙の了解になっているけれど、きっと彼女は、部活動の部長なんかを務めていたんじゃないだろうか。両親からも、そういう立場を求められそうだし。
 それは、彼女にとっては窮屈なことだったのかもしれないが。

「天気が悪いときの山中って、気味が悪いなあ……うゆ」

 鬼封じの池を探検したときは、満雀ちゃんは連れてこなかったし、基本的に悪天候ならここへは来ないので、薄暗い森の中というシチュエーションは、彼女は初めてなのだ。心なしか、声が震えているような気もする。

「妖怪でも出てきそうじゃない? ほら、あそこの木の模様、顔に見えてくるでしょ……」
「……龍美ちゃんの馬鹿」
「はは、ごめんごめん。何にも出て来やしないわよ」
「だといいな」

 野生の動物は飛び出してきそうだから、それには注意した方がいいけれど。急に出てきたら、それこそ満雀ちゃんの心臓に悪い。
 幸い、秘密基地に辿り着くまで、動物の姿は一度も見かけなかった。雨粒が光る蚊帳の入り口をくぐり、僕らは基地の中に入った。

「ひえー、風も強かったから、椅子とか倒れてるわね」
「仕方ないね。テントの中にあるタオルで拭いていこう」
「はーい。さ、満雀ちゃんは中でのんびりしててね」

 龍美は満雀ちゃんをテントの中へ連れていって、タオルを手に出てくる。その内の一枚を投げ渡してきたので、僕は危なっかしくキャッチする。
 テーブルまでは倒れていないものの、軽いものは幾つか、基地の端まで転がってしまっていたので、僕と龍美はそれらを元の配置に戻して、綺麗にタオルで拭いていった。五分ほどかけて、ようやく基地は復旧できた。

「ふう、来て早々疲れたな……」
「文句言わない。雨が止んでくれただけマシよ、またここで集まれるんだから」
「んまあ、そうだね」

 話もしたかったし、満雀ちゃんも楽しそうだし。文句は言えないか。
 ただ、わざわざ場所を秘密基地にしたかったのは、龍美のような。千代さんのところに寄って部品を買ったくらいだから、しばらく放置していたムーンスパローを弄りたかったんだろうな。

「準備できたわよ、満雀ちゃん」
「ありがとう、龍美ちゃん、玄人くん」

 龍美は満雀ちゃんを連れてきて、綺麗になった椅子に座らせる。

「んじゃ、適当に作業しながら情報交換しますか」
「うん、お願い」
「私も聞くよー」

 満雀ちゃんがいてくれるおかげで、真剣な話をしても多少は場を和ませてくれそうだった。申し訳ないけれど、そこはありがたいところだ。
 龍美はムーンスパロー用のパソコンを取り出してきて、電源を点けずに先ほどの部品を取り付けようとしている。どうやら増設用の部品だったらしい。不器用と自他共に認めているだけあって、作業自体はとてもぎくしゃくしているが、長話の最中にするには丁度いいと思っているようだ。

「手伝おうとかは言わなくていいからね。瓶井さんの話、まずは聞かせてほしいわ」
「う、うん。了解」

 僕は軽く咳払いをしてから、昨日瓶井さんから伝え聞いた、鬼の伝承について簡単に説明を始めた。
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