王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第一部 冴えない婚約

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「来週の今頃。学院創立記念の晩餐会がある。僕はメアリージュンにそれとなくささやいておくよ。エイシャ様は、まあ‥‥‥言い方は悪いけど、現代風ではない衣装だよ。でも、どこの国の王侯の式典にでても通用する。そんな衣装で出られるだろう。あれが祝いの酒を浴びたら、更に綺麗に映るだろうねえ、とさ」
「殿下。もうわかりました。では、この婚儀をまずはまとめればよろしいですな? そして、来週の晩餐会。殿下はエイシャ様の御衣裳を汚された、メアリージュン王女に婚約破棄を、と?」
「うん、それでお願いできるかな? ああ、そうだエバンス。君のその魔道具は使う必要はないよ。僕がその後にどうするかはわかっているだろ?」
「分かってはおりますが、それでは殿下がただお一人だけ罪を背負うことになるのではありませんか? お母上が悲しみますぞ?」
「いいんだ、エバンス。この命は最初から、無かったも同然なのだから。天空大陸から僕は飛び降りるよ。王国に恥をかかさないために、母上と弟を守るために」

 そうアルバートは言った。

「しかし、殿下。エイシャ様はどうされるおつもりですか? なぜ、意中ならば‥‥‥」
「やだなあ、エバンス。ぼくはその時、まだシェス王国の王太子殿下なんだよ? 婚約破棄して、さらに、エイシャ様に求婚なんて。そんな恥知らずなこと、出来るわけないじゃないか」

 そうアルバートは軽く笑った。

「それにね、エバンス。ルシアードがエイシャ様の恋人なのに好きなんて言えないでしょ? 彼女はなんというかなあ? 黒狼? まあ、犬っぽいけど。孤高で、誇り高くて、ときどき、間が抜けてて誰にもなつかない。でも、誰よりも慈愛に満ちている。ルシアードは闇が深いんだ‥‥‥エバンス、君のようにね。だから、ルシアードには太陽のような彼女が必要なんだよ。格式は問題ないだろうし、後は頼めるかな?」

 殿下‥‥‥あなたはお一人でどれほどの命を背負うおつもりですか?
 その言葉は、エンバスの喉元で止まっていた。
 死ぬ必要があるのか?
 死んだように見せかければいいのではないのか?
 誰にも悟られずに‥‥‥

「ああ、エンバス。死んだように見せかけるとか、考えていない? 残念だけど、それは無理だよ? ほらこれ」

 そう言い、アルバート王太子が見せたのは喉元に埋まった宝石のようなもの。
 そういえば、とエバンスは思い出した。ここに来る間に多くの生徒たちが同じものをつけていたことを。

「これはね、呪いなんだ。この学院を破門や除籍、卒業しないとのけてもらえないもの。生死すらわかるし、死んで骨になっても残る。隠しようがないんだよ」
「そんなー殿下が死ぬことなど。ああ、そうか。第一王女のことを想定にいれておいでですか、殿下。再来月にはここを卒業される姉上のことを?」

 そうなんだよ、エバンス、と。
 本当に寂しそうにアルバートは言う。

「もし、これでメアリージュン王女の弟でも婿入りさせてごらん? 王国は傾くよ?」
「殿下。わたしは大公でもあり、外務大臣でもありますぞ?そのようなことを許すとでも!?」
「うん。だって、メアリージュン王女の聖女の即位式が再来週だもの。聖女の一言は、王よりも深い‥‥‥さて、はるかに格式の深い、さらには亜人であるエイシャ様の立場を悪くして。さらには、第二王子のアシュリーと、すでに肉体で結ばれている竜公女エリス様が持つ愛情を考えた場合。青龍王神はどれを選ばれるかな? まあ、こんな子供だましみたいなこと、神様ならすでにお見通しかもしれないけどね?」

 神がお見通しなら、すべては崩壊しますな。エンバス卿は重苦しくうなづいていた。
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