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第一部 冴えない婚約
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しおりを挟む「ところで、エリス竜公女様はもう婚約が為されているのでは?」
ああ、それは語弊があったね、すまないすまない。
そうアルバートは言う。
「アシュリーの子を宿しているよ。でもアシュリーは左眼に左足が動かない。だから、竜公国には招かれないだろう。エリス様はよくて廃嫡じゃないかな? だから、二人を守って欲しいんだ」
「殿下? それは竜公国が許さないでしょう? 第一、妊娠しているならもうすぐ生まれるのでは‥‥‥」
「大丈夫だよ。竜族の出産には四年かかるらしいんだ。そしてその間、外見には変化がない。わかるのは本人だけらしいから。ね、頼むよ、エバンス」
どこまで重荷を載せる気だ、この御方は‥‥‥おや、しかし。
ふと、エバンスは気になった。
「殿下、殿下の意中の方は本当に、エイシャ様なのですか?どうにも、それはルシアード様との縁談をうまくもちかけるための方便のように聞こえますが?」
「あれ、バレたかい? これは困ったなあ‥‥‥」
アルバートはわるいことを隠し切れないようだ。
ほんとうに秘密にしてね、そう言うと、エンバスにだけ打ち明けた。
孤独の第一王子の望む、本当に愛情を注ぎたい女性の名を。
「僕はエイシャ様のおつきの侍女の灰狼族のアリスティア。爵位は確か準男爵第二令嬢だったかな? 珍しい銀髪に青い瞳の狼の獣人。なぜか、尾だけが赤いんだよね? あと、引っ込み思案だけど武芸に長け、魔導に長け、古い歴史や偉人から学ぼうと図書館に通う彼女が好きだよ。許されるならば、彼女と生きたい。そう、あの聖者が住むと言われる天空の塔や、世界の地下にあるという、暗黒神ゲフェトの大迷宮なんて行ってみたいね?」
弟たちや友人たちと攻略してみたい。
英雄でも勇者でなくてもいい。
ただ、その伝説に憧れをもつ冒険者として。
そうアルバートは夢を語る。
ただ‥‥‥
「残念ながら、ぼくには魔導の才能が無くてね?あるとしたら、目の前にある食材をどう調理すればいいか。そんな理王の瞳。いろいろな薬草や毒性のあるものを見分けられる、薬事の瞳。あとはあれかな? 数瞬先。五分先くらいの危険を察知できる、避別の瞳。まあ、それくらいだよ。なんの役にも立たない」
「殿下、それは魔導の際がないとは言いません‥‥‥」
「あ、そうそう。まだあったよ。古代の文字を訳せる、知識の瞳。それと、すこしだけの距離や、空間にものをいれて運べる、扉の瞳とか‥‥‥そんなもんだよ?」
「いえですから、殿下! 魔導の才能はおありですよ。それをなぜ、無いとおっしゃるのですか‥‥‥」
「だって、なんの役にも立たないでしょ、王の仕事には。だから無能でいいんだよ、僕は」
そう言い、アルバートはじゃあ宜しくね、とエンバスを追い返す。
ていよく部屋から追い出されたエンバスは、思わず愚痴をこぼしていた。
「どこがですか、殿下。魔眼が扱えるのは一人最大、二つまで。五つも扱えるあなたは‥‥‥あなたこそ、魔導に導かれた存在だと言うのに‥‥‥」
ぶつぶつと文句を言いながら歩いていると、アルバートの部屋からそう遠くない曲がり角のテラスから去ろうとする少女が目に入る。
(準男爵第二令嬢アリスティア。珍しい銀髪に青い瞳の。狼の獣人。なぜか、尾だけが赤いんだよね?)
そんな言葉がエンバス卿の脳裏によみがえる。
「まさかな?亜人の耳がいいとはいえ‥‥‥あの中での会話までは聞こえまい」
そう言い残して、エンバス卿は天空大陸を去って行った。
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