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第二章 ルケードの狼姫
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しおりを挟むエイシャから本と奪うように受け取り、去り行く中。
アルバートは深い悲しみを感じていた。
人影もまばらな貸し出し用の記帳を行なうカウンターで、学院側のこの図書館を管理する人間から本を受け取る。
「返却日は二週間後です」
貴重な書物だから気をつけてください。
その一言を告げた係員は、彼の緑の瞳が深い青のように見えた気がした。
「ありがとうございます。
気を付けます‥‥‥」
元気のない、抑揚のない声で第一王子が去って行ったのを係員の女性はよく覚えている。
なぜ、あんな悲しそうな目をしていたのかしら?
そう、いぶかしんだほどだ。
それほどに、アルバートの心には暗雲がたれこめていた。
兄弟姉妹はここに五人。
自分たちの王国の人数は、この学院に預けられている一国の人数からしたら多い方だろう。
階下にある図書館から、大広間に通じる階段を一歩ずつ踏みしめながらアルバートの心は泣いていた。
それは天眼だの、魔眼をたくさん操れるだの。
そんな才能には関係ない話だった。
アルバートの自身の姉や妹、そして弟たち。
家族に関する問題だ。
なぜ、言わせた‥‥‥ルシアード!?
悲しみの果てにあるのは、限りない怒りだ。
怒りと悲しみの波が二重にアルバートの心の縁へと押し寄せる。
コップになみなみとついだ水が、ほんの少しの衝撃でこぼれ落ちるように。
アルバートの心の縁には、怒りと悲しみの大波が都度、引いては押し、押しては引きを繰り返していた。
アルバートの本心は、たった一つだ。
家族が幸せでいてくれれば、それでいい。
アシュリーはエリス公女と。
ルシアードはさきほどの、エイシャ男爵令嬢と。
それぞれ、幸せになってくれればそれでいい。
姉がメアリージュン王女の弟を婿に取るというなら、それもやむを得ない。
妹がまだわからないが、もし、仇敵であるブランシェ辺境国のどこかの貴族や王族と添い遂げるならそれもいい。
もし、自分自身がメアリージュン王女を妻にしてそれですべてがうまくいけばそれでもいいのだ。
しかし、相手側は策を弄してくる。
それも何十にも細かな投網のような策があちらにも、こちらにもその糸を絡みつかせている。
その糸を断ち切ることなく、こちらの都合の良いように編み目をつなぎ直す。
エリス公女の件は仕方がなかった。
あれはあちらから仕組まれたものだ。
だが、まだ元に戻せる範囲でアルバートの中では動いている。
それに対する、自身への怒りも悲しみもある。
エリスの恋人役であるアシュリーはなにも知らない。
「奪ったのは僕だ。
その償いはする‥‥‥」
だがいまはまだその時期ではない。
アシュリーすまない。
もう少しだけ待ってくれ。
その不自由さから、必ず開放する。
アルバートの心はそう決まっていた。
ではなにが許せずに、怒りと悲しみの波のはざまで自身を泳がせているか?
それはエイシャのあのセリフだ。
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