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第二章 ルケードの狼姫
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リベイエの聖女候補め‥‥‥
ブランシェ辺境国と我がシェス王国。
双方をどう使うつもりだ?
この学院内での各国政府や王族同士の婚姻などの正式発表は最大の規則違反とされている。
ここは学びの場。
そしてどの国の王族であってもその安全を保障された場。
だからこそ、各国が貴族子弟子女を預ける。
自国の利益をその裏に控えて。
代理戦争を生徒同士に行わせるのだ。
それはそのまま、十年の歳月をえて一流の政治家を育てる素養の場ともなる。
「そんな場で、聖女の認定と覚醒の儀式など‥‥‥つながりが丸見えの行為だがな」
さて、どうするか?
メアリージュン王女はこのまま僕が大広間まで階段を上がり切れば、声を大にして言うだろう。
それは両家の婚姻とかではない。
「聖女の儀式の際の付き人に姉を使う気、だよね?
メアリージュン‥‥‥」
ブランシェのギルバート王子はどうせ、その介添え役だろう。
まるで、あれの光景だ。
結婚式の新郎に向かい新婦が父親に片腕を添わせて歩いていく。
その後ろには長い花嫁の頭から被ったレースの裾を持ち歩く子供が必要になる。
さしずめ、ギルバートは父親。
姉のイニスはその子供役だ。
「お遊戯会だな。
さてーどうするか」
ふと左脇を見ると弟のアシュリーがエリスのお腹をさすっていた。
苦痛に顔を歪めるエリスを必死に心配するアシュリーがアルバートには憐れでならなかった。
そして右手側。
まだ上がりきらない階段の少し目線が上の場所で、竜公子イゼアが我が目を疑うような顔をしている。
当然だ。
竜族がその体調の悪さをこれほどまでにあからさまにする。
そんな体験は彼の人生でもまあ、なかっただろう。
魔石を抜かれた後遺症だろうな。
アルバートはそう感じていた。
これは好機だ、と。
「おい、どうしたんだよエリス‥‥‥まさか」
そんなアシュリーが叫ぶ声が聞こえてくる。
「だい、じょうぶよ‥‥‥アシュリー。
なんでもないの」
苦痛に顔を歪めながらも彼を気遣う妹のその声に、竜公子が席を立った。
「すまないが、失礼する」
そう周囲を固める貴族子弟子女に詫びを言い、彼は妹の元へと足早に歩いて行こうとする。
メアリージュン。
君のその愚策は本当にタイミングが悪いな?
アルバートはわざとらしく、メアリージュンに微笑みかけてやる。
純朴な笑顔で。聖女様、こんにちは、と。
そして、数段上にある階段の先を通り過ぎようとするイゼアに向かいアルバートは歩みを進める。
わざとらしく、弟たちを気遣うように急いで階段を駆け上がり、その向かう先にはーー
ドンッと二人の交錯する、第一王子と竜公子だ。
もちろん、擬態しているだけでその本来の体格そのままの重さを持つイゼアにアルバートはかなわない。
ありがとう、イゼア。
ここは愚かな王子を最大限生かさせてもらおう。
感謝するよ‥‥‥
「なっ!?
しまっーーアルバート!?」
僕の名を呼ぶな、忌まわしき竜公子め。
アルバートは心でそう叫んでいた。
平凡な男は恐怖に顔を歪め、そしてーー
二十段は軽くある階段の下へと勢いよく転げ落ちる。
「ちっ!」
イゼアが妹とアルバート。
どちらかを取るか迷う間にアルバートは階下まで達していた。
ふん‥‥‥いいじゃないか。
魔眼も何も使えたものではなかった。
全身を勢いのよい馬車に跳ねられそのまま落ちたのと変わらないのだ。
ああ、いいぞ。
視界に血が混じってくる。
骨はどうだ?
足は動くな、片腕は?
だめだ、左手が動かない。腰が酷く痛む。
首すら周らない。
だめだ、まだ意識を失うな。
待つんだ‥‥‥来るのを。
あの人が来るのを‥‥‥
早くしろ、まだか?
早くしろ‥‥‥歪む視界の中に、ようやく現れた人影。
それはアルバートの脳内の感覚であって、時間にすれば数秒間も経っていない。
「大丈夫!?
しっかりして、アルバート王子!!」
ああ‥‥‥そんな陳腐な掛け声しかできないか。
ま、仕方がない。来てくれたのだ。
「‥‥‥シャ」
アルバートはその人物の名を呼ぶ。もう声にならない声で。
だめだ、持ちあげるな。
動かすんじゃない。まだ言わなければならないことがある。
「なに、なにを言いたいの、アルバート様!?」
彼女は、その黒狼は血だらけのアルバートに真っ先に駆け付けた人物だった。
そう、イゼアがくるよりほんの十数秒間だけ早く。
「エイシャ様。
お受け、しますよ、あのてい‥‥‥あんを」
あの提案?
エイシャの心は動揺する。
自分が寝床にさそったあの軽口をーー彼は受けると言った。
「あなたをーー僕は、うけいれ、る‥‥‥」
こんな血だらけの、意識の薄れる縁で‥‥‥
よく告白なんてできたものだ。
そう思いながらアルバートは全てを言い切った。
あのエイシャの提案。
あなたを抱きましょう、と。
返事を返したのだ。
そしてーー
アルバートはそれをうっすら薄れゆく視界の中に見て心で叫んだ。
見ろ、ルシアード。
お前の負けだ、と‥‥‥
ブランシェ辺境国と我がシェス王国。
双方をどう使うつもりだ?
この学院内での各国政府や王族同士の婚姻などの正式発表は最大の規則違反とされている。
ここは学びの場。
そしてどの国の王族であってもその安全を保障された場。
だからこそ、各国が貴族子弟子女を預ける。
自国の利益をその裏に控えて。
代理戦争を生徒同士に行わせるのだ。
それはそのまま、十年の歳月をえて一流の政治家を育てる素養の場ともなる。
「そんな場で、聖女の認定と覚醒の儀式など‥‥‥つながりが丸見えの行為だがな」
さて、どうするか?
メアリージュン王女はこのまま僕が大広間まで階段を上がり切れば、声を大にして言うだろう。
それは両家の婚姻とかではない。
「聖女の儀式の際の付き人に姉を使う気、だよね?
メアリージュン‥‥‥」
ブランシェのギルバート王子はどうせ、その介添え役だろう。
まるで、あれの光景だ。
結婚式の新郎に向かい新婦が父親に片腕を添わせて歩いていく。
その後ろには長い花嫁の頭から被ったレースの裾を持ち歩く子供が必要になる。
さしずめ、ギルバートは父親。
姉のイニスはその子供役だ。
「お遊戯会だな。
さてーどうするか」
ふと左脇を見ると弟のアシュリーがエリスのお腹をさすっていた。
苦痛に顔を歪めるエリスを必死に心配するアシュリーがアルバートには憐れでならなかった。
そして右手側。
まだ上がりきらない階段の少し目線が上の場所で、竜公子イゼアが我が目を疑うような顔をしている。
当然だ。
竜族がその体調の悪さをこれほどまでにあからさまにする。
そんな体験は彼の人生でもまあ、なかっただろう。
魔石を抜かれた後遺症だろうな。
アルバートはそう感じていた。
これは好機だ、と。
「おい、どうしたんだよエリス‥‥‥まさか」
そんなアシュリーが叫ぶ声が聞こえてくる。
「だい、じょうぶよ‥‥‥アシュリー。
なんでもないの」
苦痛に顔を歪めながらも彼を気遣う妹のその声に、竜公子が席を立った。
「すまないが、失礼する」
そう周囲を固める貴族子弟子女に詫びを言い、彼は妹の元へと足早に歩いて行こうとする。
メアリージュン。
君のその愚策は本当にタイミングが悪いな?
アルバートはわざとらしく、メアリージュンに微笑みかけてやる。
純朴な笑顔で。聖女様、こんにちは、と。
そして、数段上にある階段の先を通り過ぎようとするイゼアに向かいアルバートは歩みを進める。
わざとらしく、弟たちを気遣うように急いで階段を駆け上がり、その向かう先にはーー
ドンッと二人の交錯する、第一王子と竜公子だ。
もちろん、擬態しているだけでその本来の体格そのままの重さを持つイゼアにアルバートはかなわない。
ありがとう、イゼア。
ここは愚かな王子を最大限生かさせてもらおう。
感謝するよ‥‥‥
「なっ!?
しまっーーアルバート!?」
僕の名を呼ぶな、忌まわしき竜公子め。
アルバートは心でそう叫んでいた。
平凡な男は恐怖に顔を歪め、そしてーー
二十段は軽くある階段の下へと勢いよく転げ落ちる。
「ちっ!」
イゼアが妹とアルバート。
どちらかを取るか迷う間にアルバートは階下まで達していた。
ふん‥‥‥いいじゃないか。
魔眼も何も使えたものではなかった。
全身を勢いのよい馬車に跳ねられそのまま落ちたのと変わらないのだ。
ああ、いいぞ。
視界に血が混じってくる。
骨はどうだ?
足は動くな、片腕は?
だめだ、左手が動かない。腰が酷く痛む。
首すら周らない。
だめだ、まだ意識を失うな。
待つんだ‥‥‥来るのを。
あの人が来るのを‥‥‥
早くしろ、まだか?
早くしろ‥‥‥歪む視界の中に、ようやく現れた人影。
それはアルバートの脳内の感覚であって、時間にすれば数秒間も経っていない。
「大丈夫!?
しっかりして、アルバート王子!!」
ああ‥‥‥そんな陳腐な掛け声しかできないか。
ま、仕方がない。来てくれたのだ。
「‥‥‥シャ」
アルバートはその人物の名を呼ぶ。もう声にならない声で。
だめだ、持ちあげるな。
動かすんじゃない。まだ言わなければならないことがある。
「なに、なにを言いたいの、アルバート様!?」
彼女は、その黒狼は血だらけのアルバートに真っ先に駆け付けた人物だった。
そう、イゼアがくるよりほんの十数秒間だけ早く。
「エイシャ様。
お受け、しますよ、あのてい‥‥‥あんを」
あの提案?
エイシャの心は動揺する。
自分が寝床にさそったあの軽口をーー彼は受けると言った。
「あなたをーー僕は、うけいれ、る‥‥‥」
こんな血だらけの、意識の薄れる縁で‥‥‥
よく告白なんてできたものだ。
そう思いながらアルバートは全てを言い切った。
あのエイシャの提案。
あなたを抱きましょう、と。
返事を返したのだ。
そしてーー
アルバートはそれをうっすら薄れゆく視界の中に見て心で叫んだ。
見ろ、ルシアード。
お前の負けだ、と‥‥‥
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