王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第二章 ルケードの狼姫

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「ところで、エイシャ様」
 アルバートは顔を上げようとしないエイシャに声をかけるが反応がない。
 泣いているようにも見えるし、疲れ切って床に座り込み、彼の側に呆然として佇んでいるようにも見える。
 これでアリスティアが来ればまだ話が通じるんだけどね。
 はあ、そう一息ついてアルバートは声を上げる。
「おい、犬!」
 すると怒りの反撃が即座に帰ってきた。
「誰が犬よーー!!??」
 ほらね?
 ふさふさの黒いその青筋の入った尾を盛大に膨らませて彼女が立ち上がった。
 殺してやろうかしら、この失礼な人間めが‥‥‥そんな意志さえ伝わってきそうな勢いだ。
「おや、最愛の男性の命令で、僕の飼い犬になり下がったんじゃなかったんですか?」
 ふうん?
 そんな威嚇をしていいんですかねえ?
 面白そうにアルバートはエイシャを煽ってみる。
「ふうっーーーー!!!」
 猫のような威嚇の声だな?
 狼なのに。
「それ以上言えば‥‥‥」
「言えば?
 泣いていた割には、そのあとすら見えませんね、エイシャ様?」
 そう指摘されて黒狼の狼姫は、はっ、と頬を手で覆い隠した。 
 やっぱりだ。アルバートは思う。
 彼女はーーとても、わかりやすい。
 でも、ルシアード側にはいてくれるんですね。
 それともいさされているのか?
 後者なら、少しだけ遊んでみるか。
 エイシャを見ながら天眼をそっと開く。
 半径数エダ(1エダ=1メートル)には誰もいない。
 声が聞こえてもいい。 
 僕は困らない。
「おや?
 気高い狼姫なのに、まるで子猫のように威嚇をし、尾を膨らます様は‥‥‥飼い犬というよりは飼い猫かな?
 これからはなんとお呼びしましょうか?
 エイシャ?
 気高く美しい憧れの黒狼姫?
 ルシアードの愛した唯一の女性?
 僕の憧れだった黒狼はどこに消えたのでしょうね?
 それともーー」
 エイシャはその言葉に威嚇を抑えつつ、なぜそんなにも持ちあげたり落としたり。
 からかいを交えながらその裏に何かを含ませて話すアルバートがどこか怖いようで憎い。
 そして、彼が自分を捨ててこの男に与えた、異母弟ルシアードへの怒りを伝えようとしていることにも。
 そんな感情の交錯が、数瞬だけ自身の心に困惑を与え、警戒心をおろそかにした。
「こう呼ぶべきですか?
 奴隷になった憐れなメス犬エイシャ?」
 その言葉が気高い黒狼の誇りを傷つけた。
 品位や爵位など関係ない。
 ここがどこであるかももはや、気にする必要はない。
 本能が目覚めろとエイシャに言っていた。
 黒狼の姫として、この人間を許すな、と。
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