王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

文字の大きさ
28 / 85
第三章 薄幸の兄妹たち

1

しおりを挟む
 
 アルバートが外見は不敵な笑みで。
 内側は誰よりも自由を求めて部屋をでる。
 彼が現在時刻が何時なのかを正確に把握したのは、部屋を出てすぐのことだった。
 すべてのカリキュラムの終了を告げる鐘の音がそれを設置した塔から聞こえてきたからだ。
 ある意味、それは彼の心に軽い歯止めをかける役割を果たしてくれた。
「ルシアードを殺す?
 いやいや、違うだろ‥‥‥なにをとち狂ってるんだ僕は」
 まだ怪我の後遺症でモヤの中をさまよい続けていたようだ。
 そう自覚してもおかしくないような怒りに突き動かされている自分を見つけてしまう。
「情けない。
 第一王子だ、シェスだと言いながらこのざまか。
 しかしー姉さん、妹も。
 いたのがルシアードとエイシャ様だけとは。
 アシュリーはどこにいった?
 僕の家族はどこにいるんだ‥‥‥」
 たまには王子なんて仮面を外し、年相応に甘えたい。 
 あの子と二人きりで過ごせるなら、どれほど幸せかーー
 いまは‥‥‥戻ろう。
 アルバートはまずは大広間に向かった。
 どちらにせよ、何かある。
 あの場所で何かが起きているのだろう。
 普段はこの鐘がなれば大勢の生徒で溢れかえるこの通路には誰もいない。
 あの事件で全員に謹慎命令がでたか。
 教師総出で止めに入らなければならないなにかが起きたか。
 そのどちらかしか、思い浮かばなかった。


「やれやれ、もう少しアリスティア様に現状を聞いておくんだったな‥‥‥」
 大広間でやり合っていたのは、なんとイゼアとアシュリーの大喧嘩だった。
 竜族相手に肉弾戦挑む馬鹿がどこにいるんだよ、弟よ。
 ある意味、感心し、そしてため息交じりに声をあげる。
「おいっーー!!!
 やめろ、アシュリー。
 イゼアも、もう、いいだろう‥‥‥?」
 と。
 二階や三階の手すりから身を乗り出して見下ろす観衆たち。
 一階で巻き込まれまいとしつつも、アシュリーよりもイゼアを応援する男女の群れ。
 そして、アルバート以上に血だらけになりながらイゼアと殴り飛ばすアシュリー。
 腹が痛いと嘆き悲しんでいた竜公女は、どちらにもつけずにおろおろしており、上を見ればメアリージュン王女がさも楽しそうにそれを見降ろしている。
 愚かな姉と妹はそれにならうように下階を見降ろしておろおろするばかり。
 どうやら学院の先生方はイゼアの魔力を封じることを優先したらしい。
 人間対人間の殴り合いになっているようにも見えた。
「アル‥‥‥バート?」
「兄さんーー」
 あれだけ観衆で沸いていた大広間が、アルバートのたった一声でしんと静まり返る。
 誰もが驚いていた。
 あのバカ王子のどこにそんな声を出せるだけの度胸があったんだ、と。
 二人の闘士もまた、拍子抜けした。
 いや、一気に気を削がれた。
 そんな顔をしていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革

うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

神託の聖女様~偽義妹を置き去りにすることにしました

青の雀
恋愛
半年前に両親を亡くした公爵令嬢のバレンシアは、相続権を王位から認められ、晴れて公爵位を叙勲されることになった。 それから半年後、突如現れた義妹と称する女に王太子殿下との婚約まで奪われることになったため、怒りに任せて家出をするはずが、公爵家の使用人もろとも家を出ることに……。

処理中です...