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第三章 薄幸の兄妹たち
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しおりを挟むアルバートが外見は不敵な笑みで。
内側は誰よりも自由を求めて部屋をでる。
彼が現在時刻が何時なのかを正確に把握したのは、部屋を出てすぐのことだった。
すべてのカリキュラムの終了を告げる鐘の音がそれを設置した塔から聞こえてきたからだ。
ある意味、それは彼の心に軽い歯止めをかける役割を果たしてくれた。
「ルシアードを殺す?
いやいや、違うだろ‥‥‥なにをとち狂ってるんだ僕は」
まだ怪我の後遺症でモヤの中をさまよい続けていたようだ。
そう自覚してもおかしくないような怒りに突き動かされている自分を見つけてしまう。
「情けない。
第一王子だ、シェスだと言いながらこのざまか。
しかしー姉さん、妹も。
いたのがルシアードとエイシャ様だけとは。
アシュリーはどこにいった?
僕の家族はどこにいるんだ‥‥‥」
たまには王子なんて仮面を外し、年相応に甘えたい。
あの子と二人きりで過ごせるなら、どれほど幸せかーー
いまは‥‥‥戻ろう。
アルバートはまずは大広間に向かった。
どちらにせよ、何かある。
あの場所で何かが起きているのだろう。
普段はこの鐘がなれば大勢の生徒で溢れかえるこの通路には誰もいない。
あの事件で全員に謹慎命令がでたか。
教師総出で止めに入らなければならないなにかが起きたか。
そのどちらかしか、思い浮かばなかった。
「やれやれ、もう少しアリスティア様に現状を聞いておくんだったな‥‥‥」
大広間でやり合っていたのは、なんとイゼアとアシュリーの大喧嘩だった。
竜族相手に肉弾戦挑む馬鹿がどこにいるんだよ、弟よ。
ある意味、感心し、そしてため息交じりに声をあげる。
「おいっーー!!!
やめろ、アシュリー。
イゼアも、もう、いいだろう‥‥‥?」
と。
二階や三階の手すりから身を乗り出して見下ろす観衆たち。
一階で巻き込まれまいとしつつも、アシュリーよりもイゼアを応援する男女の群れ。
そして、アルバート以上に血だらけになりながらイゼアと殴り飛ばすアシュリー。
腹が痛いと嘆き悲しんでいた竜公女は、どちらにもつけずにおろおろしており、上を見ればメアリージュン王女がさも楽しそうにそれを見降ろしている。
愚かな姉と妹はそれにならうように下階を見降ろしておろおろするばかり。
どうやら学院の先生方はイゼアの魔力を封じることを優先したらしい。
人間対人間の殴り合いになっているようにも見えた。
「アル‥‥‥バート?」
「兄さんーー」
あれだけ観衆で沸いていた大広間が、アルバートのたった一声でしんと静まり返る。
誰もが驚いていた。
あのバカ王子のどこにそんな声を出せるだけの度胸があったんだ、と。
二人の闘士もまた、拍子抜けした。
いや、一気に気を削がれた。
そんな顔をしていた。
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