王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第三章 薄幸の兄妹たち

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「兄上、なぜあの時、階段を上がられたのですか!?
 あれがなければ竜公子様は、あの愚かなアシュリー兄上と揉めることなどなかったのに」
 次女のイニスが兄に向けるべきではない侮蔑の目でアルバートを見た。
「情けない弟たち‥‥‥あんな大ごとになりシェスの恥を晒すなんて‥‥‥」
 長女のロシナンテはねえ、メアリージュン王女様?
 などと機嫌を取っている。
 ああ、愚かな姉妹だ。
 まあ、宣言はしておこう。
「姉上、イニス。
 父上より、明日、本国に戻るよう指示が来ている。
 すぐに準備をしろ。
 エンバス卿以下、迎えが部屋にいるぞ。すぐに戻れ」
「そんな馬鹿な話がある訳がないでしょ?
 父上はブランシェ辺境国の王子様との婚約がー」
 馬鹿な姉だ。
 アルバートは嘲笑って言った。
「そんな話が父上からの親書で来たのですか、姉上?」
「いえ、それはないけれど。
 でもメアリージュン王女様が‥‥‥」
 馬鹿が。
 お前も第一王女だろうが。
「姉上、あなたもシェス王国の第一王女ですよ。
 誰の侍女役をするおつもりですか?
 さっさと戻りなさい。
 イニス、お前もだ」
「そんな兄上、勝手な命令には従えません」
「そうよ、アルバート。
 わたしが第一王女よ?」
「そうですよ、姉上の言われる通りです。
 第一王女の命令を聞きなさいよ兄上」
「殿下、は僕なんだよイニス。
 わかったら戻れ。
 それとも、帰国したら終生投獄されたいか?」
「なんて物言い、それでも殿下ですか、アルバート!?」
 驚き、恐怖の視線を見せる姉が、アルバートには本当に可哀想で仕方がない。
「いいから行きなさい。
 命令です」
 届られた親書は見せない。
 ただ命じるのみだ。 
 次期国王として。
 殿下と名のつく、最上位の者として。
 さんざん毒づき、文句を言いながら消えて行く二人を尻目にアルバートは不満をその顔の全面に溜めたメアリージュン王女に死刑宣告のように告げてやる。
「シェス王とリベイエ王との間により、僕とあなたの婚儀が決まりました。
 すでに支度金も婚前契約書も交わされ、形としては夫婦となります。
 いまこの時点から」
「あなたなにを言われているの、アルバート?
 父上様があなたなど、夫に選ぶわけがーー」
 嘲り、せせら笑い、そしてこの愚か者が。
 冗談は寝て言いなさい、そんな言葉まで飛び出す始末だ。
「シェスはリベイエとバラン平原の共同管理権を選択したのですよ。
 あなたは僕の」
 それを聞き、メアリージュン王女はそれでもまだ正妃だろう、なら陰から操ってやるわ。
 聖女として。
 そんな顔をする。
 アルバートは心底楽し気に言った。
「あなたの階級は侯爵になるそうですよ、メアリージュン王女。
 王族から離れましたね?
 まあ、他国の王族に嫁げば王族から離れるのは自明の理。
 侯爵では正妃にはできないんですよ、我が国では。
 つまり、あなたは側室。
 そういうことになります。
 エリス竜公女にメアリージュン女侯爵。
 側室が二人もできるとは、いい日ですね」
 メアリージュンはわなわなと真っ青な顔で震え、それでもまだわたしには聖女の望みがある。
 そんな顔をしてみせる。
「来週には聖女の認定式だわ‥‥‥それが終わればーー」
 ああ、そんなのもありましたね?
 アルバートは思い出したかのように彼女に向き直った。
「甘えるな。 
 王族でもない、たかだか侯爵。
 それも側室のお前に、僕が聖女の認定など許すと思うのか?
 身の程をわきまえろ。
 今すぐ仕度をするんだな?
 うちの王女どもと共にシェスの離宮で待つがいい。
 誰も来ない、侍女も数人もつかない離宮で平民並みの暮らしをさせてやる。
 たまに、可愛がってやるさ。
 わかったら、行くがいい。迎えが待っている。
 聖女になりたがった元王女様」
 アルバートのその返事はメアリージュンの心を粉々に打ち砕いたらしい。
 その場にへたり込んだ彼女を、迎えに来たシェスの侍女たちが連れに来た。
「さて、最後だーー」


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