王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第三章 薄幸の兄妹たち

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「まだ生きている。
 最後の言葉は、ルー助けて‥‥‥だった。
 愛されてるな? ルシアード」
 弟が怒り任せに壁を殴る姿が微笑ましく映る。
 ああ、まだ愛はあったんだな、と。
「ルシアード」
「なんだよ!?
 まだ俺を馬鹿にしたいのか!!!??」
 アルバートはゆっくりと左右に顔を振った。
「王はお前だ。
 エンバス卿はお前につく。
 アシュリーが軍事をする。エリス様との子が産まれれば竜公国との同盟もできる。
 メアリージュンは側室にしろ。
 そうすれば、シェスはまだ生き抜ける。ブランシェ辺境国だけには気を許すな。
 第四王子にもだ。
 ルケードにはエイシャ様を正室に迎えたといえ。
 あの国は家柄にうるさい。エイシャ様は最古の家柄だ。
 間違うなよ、ルシアード。
 王はお前だ。
 悪の華はもう棄てろ」
「ならー‥‥‥なら、アルバート!! 
 お前は、お前は‥‥‥どうする!?」
 そうだな、どうするか。
「なあ、ルシアード。
 そこのテラスに行かないか?
 天空大陸の外縁部に突き出していて、下が丸見えなんだ」
 なにを今更‥‥‥俺を突き落とすきか?
 そういぶかしむ弟に、アルバートは来ればわかる。
 そう言い、先に立って彼は歩き出す。
 夜半になり、吹き上げる風が強い中、アルバートはテラスに出たが、ルシアードは中までは入ってこなかった。
 最後くらいは信頼して欲しかった。
 寂しいな、孤独だ。
 そして、天眼ももう魔力を失いかけていた。
 竜使いが消えた理由。
 それは天眼を維持するための竜の魔石を採取できなくなったからだ。
「ま、最後はこれだな‥‥‥」
 そういい、残り少ない力でアルバートは胸の宝珠を破壊する。
「おい!?
 なにをするーんだ。アルバート‥‥‥??」
 届いてくれ。
 せめて、家族として。
「ルシアード。
 兄からの頼みだ。
 賢君になってくれ。シェスを頼む。
 メアリージュンの聖女の認定の儀式の崩壊、そして、エリス様の懐妊の誘導。
 エイシャ様の無理なシェスへの拉致。
 すべて僕の責任で終わらせる」
 ごめんな、弟。
 もっといい形を残せなくてすまない。
 風にその言葉を最後の便りに残して。
 アルバートはその身を、はるか、下の大河へと投じた。
「アルバートーーーー!!!」
 ルシアードが叫び駆け寄るがもう彼はいない。
 そして、それとは別の場所からもう一つの人影が飛び降りたのをルシアードは知らなかった。

 あまりにも勢いのよい風に煽られて、アルバートはああ、もっと多くのことをしたかった。
 弟や姉たちに残せるべきことがあったはずなのに。
 そう後悔を心に刻んでいた。
 そして、彼に近寄る影があることを残り少ない天眼の力が教えていた。
 アルバートは心地よさげに影に大声で話しかける。
「やあ!!
 飛べたのかい!???」
 影は恐怖に赤い尾をさらに膨らませて叫んだ。
「無理ですよーーー!!!
 あんなとこから飛ぶなんて!!」
「なんだよー!!
 お互い飛べないんじゃ仕方ない」
 あーっはっは!!
 アルバートは思い切って告白した。
「アリスティア!!!
 結婚してください!!
 あなただけが好きだったーー!!!」
 アリスティアは懸命に宙を蹴り、アルバートに追いつき抱きしめると軽くかみついた。
「あ、ひどいなあ!!?」
「当たり前です、側室三人なんて贅沢な」
「でも、正室はあなただけですよ?」
「ならー‥‥‥いいですよ。
 でも、他の女性とは離縁してくださいね?」
 それはもちろん。
 そう答えると、さ、天眼の力もこれで終わりだ。 
 そう言い、アルバートはアリスティアの胸の宝珠を破壊する。
「これからどうするんですかーー!!???」
 アリスティアは恐怖に目を閉じて叫んでいた。
「もし生き残れたら、地下のダンジョン攻略です!!!」
「結婚式は!?」
「あー‥‥‥先にそれしましょう」
 なら、いいです。
 少女は少年に優しくキスをする。
 二人はどこに果てるまでもない、大空を落下していき、雲間に消えて行った。


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