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第一章 天空大陸の主
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南の方角に見えるのは、かつて大陸全土で信仰されていたとされる太陽神アギトの大神殿だろう。
そこを更に南下するとその法王が住んだと言われる法王庁の遺跡があるのかもしれない。
ではこの裏側にある、巨大な岩山とその入り口に普通の人間には見えないようにひっそりと隠された装飾も簡素だが神々しい光をいまだに放っているこの巨木の半分ほどの高さの入り口。
これが暗黒神と呼ばれたゲフェトの地下神殿の入り口‥‥‥
「暗黒神という割にはーーまるで、光の神の神殿のように輝いているんだね。
モンスターすらも寄せ付けない。
闇の中にある、光の神のようだ」
不思議なこともあるものだ。
アルバートはそう思う。
世界各地に残されたかつての魔族や魔王が住んだとされる地下遺跡はどれも魔素と瘴気に満ち、その瘴気に酔いまともな感覚を失ったモンスターが多く住むという。
かつての魔族の貴族たち。
十二ある位階のうちの九から上の位階は神にも等しい力を持つという。
魔王はその九より上の位階にある存在に授けられる尊称。
そして、大いなる力の証。
「わたしは十一程度か?
しかし、ゲフェトは更に上にいるぞ。
眠った後にやってきた神ではあるが、いまでもそれは変わらない」
そう、幼い頃にリアルエルムが話してくれたことがある。
「聖者サユキはこの地に三千年前に降り立ち、大地震から人々を救った、かあ。
知ってるかい、アリスティア?」
もう、起きてるだろ?
返事くらいはしなよ、奥様?
そう、アルバートは問いかける。
「なん、ですか‥‥‥旦那様?」
「いいね、その旦那様。
相応しい男になるから、しばし、時間をおくれ。
空を見てみるといい。でも下は見ないようにね?」
そう言われ、アリスティアはおそるおそる瞳を開けてみる。
「ええ‥‥‥本当にーー素晴らしい。
こんな夕焼けは見たことが無いわ」
感動の声を上げる妻に、アルバートとりあえずは一段落ついたかな?
そう思うが、灰色の狼の少女はそうは甘くなかった。
「しばしの時間なんて言うのは、まだ恋人のときに言うお願いですわよ、旦那様?
もし、身体の関係があり、もし、子供を成していたら。
そんな甘えは許しませんよ?」
少女は眼下を見下ろすと、
「まあ、これくらいの高さなら平気ですから」
そう言い、ヒョイとアルバートの腕の中から離れて大木の上に降り立ってしまう。
「そんな甘えなんて‥‥‥」
なかなか厳しいね、僕の奥様は。
アルバートは背筋に汗をかいた。
「ええ、厳しいです。
まだ、エイシャ様なら、そう‥‥‥あの御方なら男性にと言うよりは。
あの首輪でお好きに躾けられて生きるでしょね?
狼の亜人とはいえ、主人は欲しいでしょうから。
それが貴族令嬢のたしなみではないけど‥‥‥夫や家の物であるのは常識。
でも、いいですかアルバート!?」
少女は貴族令嬢なんて仮面も、少女なんて年齢も脱ぎ捨てて妻として夫を叱りつけた。
そこを更に南下するとその法王が住んだと言われる法王庁の遺跡があるのかもしれない。
ではこの裏側にある、巨大な岩山とその入り口に普通の人間には見えないようにひっそりと隠された装飾も簡素だが神々しい光をいまだに放っているこの巨木の半分ほどの高さの入り口。
これが暗黒神と呼ばれたゲフェトの地下神殿の入り口‥‥‥
「暗黒神という割にはーーまるで、光の神の神殿のように輝いているんだね。
モンスターすらも寄せ付けない。
闇の中にある、光の神のようだ」
不思議なこともあるものだ。
アルバートはそう思う。
世界各地に残されたかつての魔族や魔王が住んだとされる地下遺跡はどれも魔素と瘴気に満ち、その瘴気に酔いまともな感覚を失ったモンスターが多く住むという。
かつての魔族の貴族たち。
十二ある位階のうちの九から上の位階は神にも等しい力を持つという。
魔王はその九より上の位階にある存在に授けられる尊称。
そして、大いなる力の証。
「わたしは十一程度か?
しかし、ゲフェトは更に上にいるぞ。
眠った後にやってきた神ではあるが、いまでもそれは変わらない」
そう、幼い頃にリアルエルムが話してくれたことがある。
「聖者サユキはこの地に三千年前に降り立ち、大地震から人々を救った、かあ。
知ってるかい、アリスティア?」
もう、起きてるだろ?
返事くらいはしなよ、奥様?
そう、アルバートは問いかける。
「なん、ですか‥‥‥旦那様?」
「いいね、その旦那様。
相応しい男になるから、しばし、時間をおくれ。
空を見てみるといい。でも下は見ないようにね?」
そう言われ、アリスティアはおそるおそる瞳を開けてみる。
「ええ‥‥‥本当にーー素晴らしい。
こんな夕焼けは見たことが無いわ」
感動の声を上げる妻に、アルバートとりあえずは一段落ついたかな?
そう思うが、灰色の狼の少女はそうは甘くなかった。
「しばしの時間なんて言うのは、まだ恋人のときに言うお願いですわよ、旦那様?
もし、身体の関係があり、もし、子供を成していたら。
そんな甘えは許しませんよ?」
少女は眼下を見下ろすと、
「まあ、これくらいの高さなら平気ですから」
そう言い、ヒョイとアルバートの腕の中から離れて大木の上に降り立ってしまう。
「そんな甘えなんて‥‥‥」
なかなか厳しいね、僕の奥様は。
アルバートは背筋に汗をかいた。
「ええ、厳しいです。
まだ、エイシャ様なら、そう‥‥‥あの御方なら男性にと言うよりは。
あの首輪でお好きに躾けられて生きるでしょね?
狼の亜人とはいえ、主人は欲しいでしょうから。
それが貴族令嬢のたしなみではないけど‥‥‥夫や家の物であるのは常識。
でも、いいですかアルバート!?」
少女は貴族令嬢なんて仮面も、少女なんて年齢も脱ぎ捨てて妻として夫を叱りつけた。
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