王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第二章 暗黒神の地下神殿へ

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 夜明けが近づいていた。
 森林の空気が、その放つ香りがそうアリスティアに教えていた。
 アルバートはまだ目を覚まさない。
 アリスティアは泣き続け、眼をこれ以上ないというくらいに腫らしていた。
「なぜ目覚めないの‥‥‥??」
 あのロブは毒素を消してくれたはずなのに。
 彼の傷口の腫れは引いているし、体温も呼吸も‥‥‥ましにはなったはずだ。
 なのに、なぜ目覚めないの、アルバート?
 人間は一度かかると回復できないほどに弱るものなのだろうか?
 それとも、脳機能に何か生涯を起こさせるものでも混じっていた‥‥‥?
 アリスティアは医療の智識などほとんど持ち合わせていない。
 ウイルスなど、そんなこともまだこの世界では発見されていない。
 全てが謎のままだ。
 彼が早く目覚めてくれるのを待つしかない。
「誰か助けてー‥‥‥」
 そんな叫び声ももう何度あげても、誰もこない宵闇の中でアリスティアは孤独に涙を流していた。
 自分が死に追いやったのか、それとも、目覚めても後遺症が残るのか。
 罪の意識に際悩まれされて、一夜を開けるまでそこで過ごしていた。 
「もう‥‥‥だめなのかな、ねえ、アルバート?
 なんでわたしを好きだって言ったの?
 どうしてわたしが良かったの? 
 こんな目に合わせる、ひどい女なのに、なんで妻にしたの‥‥‥?」
 泣きすぎて、悩みすぎて思考が追い付かない。 
 彼が笑顔で目覚める様を想像して、そこに希望を抱くしかなかった。
「だめね、わたしが泣いていても彼は目覚めない。
 何か探さなきゃ。
 あの記憶に答えがあるかもしれない」
 太ももに頭を抱いて寝かせている夫はまだ十七歳だ。 
 自分より若い、まだ少年と言ってもいい。
「止めるべきだったわね、あの時。
 エイシャ様の医務室でのあの時に、あなたの背負っているものを捨てましょうと。
 一緒に逃げましょうって。
 わたしから言うべきだった。
 ねえ、アルバート?
 あなたはなぜ、わたしを選んだの?
 こんな年上のおばさんなのに‥‥‥」
 可愛い弟のような存在にしか思えないのに、その寝顔が愛おしい。
 どこまでもただ、二人だけで生きていたいとそう思える。
 不安もあった。
 リアルエルムがくれたあの知識には‥‥‥この人間の姿から本当の灰狼へと戻る方法も含まれていた。
 そんな自分を、彼は愛してくれるだろうか、と。
 いまとなっては後悔しかそこにはないが、その未来を二人で見れると信じて待つしかなかった。
「なんでわたしなんだろね、アルバート?」
 最後の一滴になるかもしれない涙が、夫の頬を濡らしていく。
 もう、彼が目覚めない時は二人で死のう。
 それがいいだろう。
 そうアリスティアが思った時だ。
「‥‥‥あなたが泣いてくれるからだよ、お姫様」
 そう、アルバートは苦しげにだが、返事を発した。
 その答えではなく、彼が気づいたことはアリスティアの漆黒の心に陽光を照らしだした。
「アルバート‥‥‥気づいた?
 大丈夫?
 ごめんなさい、噛んだらああなるって知らなかった。 
 もう、離縁されてもいいわ。
 殺されてもいい。
 どうか、元気になってー‥‥‥」
 ばかだなあ、アルバートはそう言い、片方の手でアリスティアの顔を抱き寄せた。
 交わされる熱い抱擁、そしてーーそれは二人の心の重なりになるだろう。
 そんなキスを彼は彼女に与えた。
「天眼は、それが出来る前のものまではどうにも、ね?
 全部はわからないらしい。
 何より、魔眼が灰狼や魔狼に通用する機能を持ち合わせていないのかもね?
 体の中から回復させるのに以外に時間がかかったよ。
 リアルエルムの魔石が、なぜ、あの毒素を排除しなかったのかも、知りたいのに。
 君と死ぬのも嫌だし、子供も見たいし。
 ねえ、アリスティア?
 なんで選んだかって?
 それはねえ‥‥‥」
 アルバートは気恥ずかしそうに言った。
 一目惚れだよ、と。

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