王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第四章 真紅の魔女ミレイアとの邂逅

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「ああ‥‥‥そう、だね。
 無くしたくない、失いたくない、傷つけたくない。
 そう思っていたら、僕は自己保身に走ってたんだ‥‥‥でもさ、アリスティア。
 君のその綺麗な瞳もそうだし、その全ては僕のものなんだよ?
 せめて、許可くらいはとって欲しいね?
 僕の身体も何もかも。
 全て、君のものなんだから、さ。
 ね?」
 アリスティアはその言葉に、一旦、筆を置いた。
「ふうん、そんなこと言うの?
 ねえ、ここまでさせてまだ気づいて‥‥‥ないことはなさそうね。
 相手を思ってしても、それが傷つけてしまうってこともあるって、理解した? 
 秘密を全部、しゃべりなさい。
 そんな事、言わないわよ。
 でもねえ、アルバート?」
「待って、でもねえ、は分かったから。
 君が左眼を失うなら、僕も右目を失うから――
 それでいいかい?」
 はあ――っ。
 だめだ、分かった様で何もわかってない。
 彼は、子供の頃の社会体験からしか物事を見ていない‥‥‥
 貴族社会には良くある、狭い世界で生きたまま大人になる典型だ。
 数年でも、裏側とはいえ実社会で生きてきたアリスティアは、子供のままの夫を見下ろしてため息をつく。
「やめた。
 なんだか、ばかばかしくなったわ。
 こんな、天才だのなんだのと思っていたけど。
 好奇心と犠牲心と、頭の回りが早いだけの男でしかなかったなんて。
 興覚めだわ、アルバート‥‥‥」
 ドンっと夫をベッドから蹴落とすアリスティア。
 その片目に深く押し込んでいた指先を引き抜くと、さっさと自己治癒力で傷口を塞いでしまっていた。
「出て行きなさいよ、もう離縁したげる。
 こんな子供となんて、一生を捧げてられない。
 ここは離婚の財産分与代わりに貰っておいてあげる」
「そんな、なにを言いだすんだ!?」
「さっき、自分から出て行こうとしたじゃない、この負け犬!!
 どんな策謀を巡らそうが、世界から追われようが。
 お前だけは俺が守る!
 それくらい、出来ないの?
 ほら、洋服。
 はい、出口はあっち。
 さっさと出て行けば?」
 指差す方向は、この異世界への入り口がある方だ。
 永遠に出て行け。
 そうアリスティアは叫んでいた。
 アルバートは無性に腹が立っていた。
 そう思うからこそ、出て行こうとしたのに。

 ああ、なら出て行くよ、好きにすればいいさ。

 だが、その一言は永遠に口をついて出ないし、彼の足も動きそうになかった。
 去れない。
 去ったら、それで終わりだ。
 愛しているなんて言葉は役に立たない。
 というか、こんな修羅場の経験がない。
 弟夫婦はどうしていたかなあ‥‥‥
 エリスやメアリージュン王女やエイシャだって。
 もし、シェス王国の王城で側室になればここまでのことは言わないだろうし、しないだろう。
 世界で一番めんどくさくて、厄介で、それでいて替えの無い存在と出会うなんて。
「分かった」
 アルバートは低く、その一言だけを言うとアリスティアの方に向かい歩き出す。
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